2 公園、絶対に行きましょうね
とりあえず色んな問題を後回しにしてデートの予定をその場で決めた。なんでってせっかく好きな子と付き合えたんだから恋人っぽいことがしたかった。しないわけにはいかないと思った。付き合いましょうと言われた瞬間に脳内にはあらゆるデートスポットが展開されていった。抗えるわけなど……なかった。
初っ端から込み入ったデート計画を立てるのもちょっと喜び過ぎだろとは思ったので電車で一時間しないくらいの位置にある、広い池沿いの遊歩道が有名な大型の公園に行くことした。俺も奴原も案外こういうとこが好きだからそういう意味でもそこそこ気は合うんだな。二人してデートスポット紹介ブログに添付されていた公園の長閑な写真を見ながら自然豊かで癒されるここに行きたいと即決した。いやこれ自然が好きというよりかは仕事の疲れをパワースポットで清めたいって感じかもしれねえ。
とにかくこうしてカップル成立記念デートは決まった。平日休みが多く決まった曜日の休みがない接客業の俺たちはお互いのシフトを確認し合たっが、上手く合致したのは一週間後の月曜日だった。桜、ギリギリかもしれん。でも調べてみたら目的の公園は今五分咲きくらいらしいからむしろ満開を楽しめるかもしれん。
「久坂部さんは、桜好きなんですか?」
桜の満開に喜んでいると問い掛けられた。
「ああ、まあ、特に理由はねえんだけどそういえば好きだな……」
「僕から見ると桜に限らず、植物が全般的に好きそうでもあります」
「それは……そうかもしれん」
「理由はあるんですか?」
変なとこ気にするんだなと思ったが聞かれたから考えた。思い返せば緑が好きだ。落ち着くし癒やされるしそれは見た目の豊富さだけじゃなくって青い匂いを肺に思い切り吸い込んだ時の、中身から全身が整うように感じるあの時間が好きだ。現代社会で疲れてるんだろう。まあでも俺、山が目の前にあるような田舎町出身の人間だしな。魂とか本能とかいっちばん奥のところが植物の緑を色でも匂いでも音でも求めている気がする。
ここまで話すと奴原は微笑んだ。いつも見せてくれる何考えてるかわからないからこそ妖艶な微笑みではなくて、この人の土壌が見れて嬉しい、と言ってくれているような優しい微笑みだった。もう、めっちゃ恋人だった。付き合い始めて一時間経った程度だったが、これこそ俺が奴原とこうなりたいと思っていた関係性に他ならなかった。
「公園、絶対に行きましょうね、久坂部さん」
奴原は声も物凄い優しかった。俺はこくこくと二回頷き、こうしてデートの約束を無事に取り付けた。
浮き足立って帰宅したけど当然のようにいつまでもフワフワしているわけにはいかなかった。俺は夜通し考えて出勤し、仕事中も時間が空いた時には意識せずとも考えて、休憩時間は安売りの菓子パンとノリで買った新作ホットスナックを食いながら考えた。
もちろん部位取れについてだ。
俺は考えた結果、次にどこかが取れた時は食べずに生えるまで待ってみようと提案してみることにした。
デート当日は春の新作シルバーネックレスを展開して販売して売り上げが良くないから一つ自分で購入したところでやってきた。ジーンズにTシャツに薄手のジャケットという無難な服を着込んだ後、買いたてほやほやのシルバーネックレスをぶら下げて鏡で確認した。
「……そこそこイケてるな……?」
俺は自分の顔面は普通だと思っている、というか普通には見えるように髪型やら髭やら眉毛やらを整えている。そこにそれなりな服装とメインディッシュなアクセサリーを投下すれば完成だ。アクセサリー類、常に俺の武器だし盾でもある。田舎について思い出すと小学生の頃にいじめられたりしたことも思い出すんだがアクセサリーがあれば関係ない。なんか厳つく見えるから。実際変なやつに絡まれたりはしないから。虚勢やら偶然だったとしてもいいんだ別に。俺は太めの指輪も中指に放り込んでから、デート用に購入したマウンテンブーツを履いて外へ出た。いい天気のいい午前だった。程よい量の雲が淡い青空の上に浮いていた。冬の名残りがもうほとんどどこにもなくて、春らしい暖かさの風が俺のシルバーネックレスをくすぐった。陽射しもずっと柔らかい。
奴原とは公園の最寄り駅前で落ち合う約束だった。お互いの最寄り駅から見ると、落ち合って向かうよりも向かってから落ち合う方がわかりやすかった。こういうところ、付き合った相手が女性だったら迎えに行くよって言ってたかもしれない。そういうのは性別で決めるもんじゃないと言えばないんだけども女性は男よりも犯罪に巻き込まれる気がするから心配だ。変なストーカーがいたり変な痴漢に襲われたり。いや奴原が心配じゃないってことではけしてないんだけどもまあ男だし大丈夫かって思っちゃってた部分があると、俺はこの日に嫌になるほど思い知らされた。
奴原はやっぱり取れてしまった。
腕とか耳とか目とかじゃなくて、心臓っていう本当にまずい部分が浮かれて気を抜いていた俺の目の前に転がった。
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