8 一緒に食べてもらえると助かります

 市平さんはズビズビ鼻啜ってる情けない成人男性を「泣きすぎやん……」という顔をしながら労ってくれた。喫茶店で何も注文せず弁当を広げ始めたのでそれはいいのか!?と驚いて涙は引っ込んだが、ここのマスターと市平さんは顔見知りのようだったからセーフらしい。俺は注文した。ラブホで遅めのモーニングは食べていたがパンだったからそこそこ腹が減りつつあった。

 大盛り!ミートスパセットを食べ始めた俺を見た市平さんは「そんだけ食えたらまあいけるか」と言う顔をしてから口を開いた。

「率直に聞くんやけど、奴原さん……っちゅうか、取れまくる症状について何が知りたいん?」

 知りたいことしかなかった! でも市平さんが全て知っているとはもちろん思っていなかった。頼りにしてきたのは本に関する知識だ。さっき顔で思いっ切り知っていると言ったのでここに関してはもうおんぶにだっこしてもらう所存だった。

 市平さんは俺が期待大の目をしているのを見て「うわーとりあえず姫ちゃんに連絡しとこ」と言う顔をしてからスマホをタップし、その後に自分のカバンの中を探って「あの本やっぱ家やな」と言う顔をした。

「本、家にあるのか……」

「え、あ、うん」

 市平さんは「顔読んでもろた方が早そう」と言う顔をしたが、口で説明してもらうことにした。

「取れまくる症状、奇病? が流行っとるのは、限界集落みたいなとこらしいんやけど、言うほど問題にはされてへんくて、なんでかっていうと結婚したり子供できたり仕事成功したりと大人になるっちゅうか、人生のステージが変わったら自然治癒するみたいやねん」

「なんかそれは、そんな感じの話を奴原さんもしてたな……」

「おん。飲み会の時にもチラッと言うてはったよね」

 俺は頷く。市平さんも頷いて、弁当の中の肉巻きポテトをヒョイパク食べてからまた話す。

「これ、似たような奇病が別の限界集落にもあるねん」

 早速俺の知らない情報が出てきたから身を乗り出す。ミートスパを飲み込んでkwskすると、市平さんはきんぴら大根を食べた後に教えてくれる。

「そこの集落に残ってる奇病の逸話に、奴原さんっぽい症状の例が載っててん」

「載って……市平さんの言ってる本って」

「ああこれ、都市伝説メンズっていう人らが出版してはる本なんやけど、実際に目玉取れてしれっとしとる人間見てもうたからには信憑性あると思います」

 それはそう、と思ったので続きを促す。

「せやからつまり、ありえんわけではない症例みたいで。えーと、せやなあ、詳細はちょっとその本見ながらやないと」

「見よう。見ます。市平さん今日の仕事終わりは空いてます?」

「めっちゃグイグイ来るやん」

「後生だ、俺はもしかしたら俺のせいで奴原さんが取れまくってるんじゃねえかと思って、あんなに泣いちゃったわけなんだ」

 市平さんは「あ〜〜〜合点承知」という顔をしながら豆ご飯を食べた。豆ご飯、色艶が良くてうまそうだった。俺はミートスパをもぐもぐしつつ今度豆ご飯をしようかなとか呑気に考えていた。なんせ取れまくる症状についての話をちょっとでも聞けただけで回復した。やっぱり知識は俺を裏切らない。この調子で市平さんや姫野の力を借りて、解決方法もすぐさま見つけたい。

 もう一回今夜の予定を聞こうとしたところで市平さんのスマホがピロン! とした。市平さんは「姫ちゃんや」と言う顔をしながら「姫ちゃんや」と言った。返事の内容を見た顔を見て俺は思わず背筋を伸ばした。

「今夜作戦会議する?」

 姫野は色々と見越した上でそう返事をしていた。俺はよろしくお願いしますと市平さん越しに頼み込み、作戦会議予定が滞りなく決まったのであった。ありがとうございます。


 休憩時間の終わりかけている市平さんを本屋まで送り届けた。ついでに欲しかった新刊を一冊購入してから一旦本屋は後にして、作戦会議まではまだだいぶ時間あるなどうしよっかなと思いながらスマホを開いてメッセージを開いた。そう、奴原からメッセージが来ていたのだ。だって休みだもんね、休みで手が空いたら俺に連絡くれるくらいには仲が深まってるんだよね、めっちゃ嬉しいハッピー相思相愛。と言いたいんだけどそのためには立ち塞がっている問題をどうにかしなきゃいけないわけだ。

 奴原からのメッセージはそりゃもう可愛い内容だった。

『こんにちは。朝に分かれたばかりですみません。肝臓が取れてしまったので、時間がある時に一緒に食べてもらえると助かります』

 うーん、いつも通りすぎる。と思う反面でいやそこ取れても平気なのかと普通に焦る。まあしかし腸を吐いた時は案外ケロッとしていたし、部位が取れる痛みは手でも目でもさほどないみたいだから大丈夫か。

 偶々駅前のベンチが空いていたので腰掛けて返信を打った。

 以下はメッセージのやり取りだ。

『人間の肝臓って、思ってるよりデカいよな?』

『(画像添付)(そこそこグロい)大きいですね。二人で食べれば一日で完食できるかなとは思いますが』

『今日食おうって言ってやりたいんだけど、用事が』

『ラブホテルでも聞きましたしわかってます。とはいえ臓器がないと食事が不便なようなので、明日か明後日には会えると嬉しいのですが』

『俺も明日か明後日にも会えるんなら嬉しい(とか返事してみた)』

『本当ですか?』

『本当だよ』

『(嬉しいナリ〜!と書かれたスタンプ)明日、会えますか?』

『会える。仕事終わりでも平気?』

『僕も仕事ですし、勿論です』

『終わったら連絡する』

『はい』

 ここでお互いによろしくねお疲れ様ですスタンプを押し合ってやり取りは終了した。文字での交流でも奴原は独特に絶妙にズレていて、やはり可愛い。ほっこりしながらスマホをしまった。その後にベンチから立ち上がって気合を入れた。

 今夜は偉大なる姫野と市平さんにご教授いただき奴原の部位取れ状態をどうにかできないか探るのだ。

 好きな子の健康と平和のために頑張るしかねえんだぞ!

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