2 普通の人間っぽい反応したり
どうしようかなーと思いながらとりあえず次の日姫野にメッセージを送った。仕事終わりのバス停に向かうタイミングだったが姫野もちょうど仕事を終えていたらしくさくっと返信がやってきた。
一言二言はメッセージでやりとりをしたのだが、まどろっこしいし手っ取り早く聞こうと思って電話をかけたいと頼み了承されて通話を押した。
「もしもし?」
『お、もしもーし。姫野だよ』
「あのさ、四人でのメシの話なんだけど」
『あー! 楽しみだねぇ、おなかいっぱいになりたいなー』
「いやそりゃあ楽しみではあるけどそうじゃなくてさ……ちょっと待ってくれ」
バス停に辿り着いたが通話を続けるために一旦離れ、街路樹に寄りながら待たせたなと声をかけると待ってる間に寝ちゃったと言われた。
「寝言でいいから返事してくれよ」
『オッケーオッケー、何?』
「とりあえず、奴原さんのことなんだけど」
『あーなに、もしかしてやっぱ二人きりのご飯がいいの?』
「いやじゃなくて、ほら、俺は一応市平さんと話したことあるし職場の後輩のお姉さんだし別に問題はないんだけどさ、奴原さんと市平さんてほぼほぼ初対面だろ?」
『あー言いたいことわかってきたな』
「でも俺が言うぜ。市平さんて奴原の体質のこと知ってんの? そんで知らなくてももちろんいいんだけど、知られたとしてドン引きしたり怖がったり……まあつまり普通の人間っぽい反応したりしねえか?」
姫野は少し黙った。まあそれもそうだろう、なんせ俺と姫野の方がちょっと異常っていうかなんであっさり受け入れた? って話ではあるのだこれが。
正直なところ、大体の人間は話してた相手の腕などが急に取れたら飛び上がるしめっちゃ怖いし何が起こったのかまるで理解できなと思う。だがしかし俺は朝チュンしていた衝撃が重なっていたり、わりとなんでも食べる方だったり、後は野となれ山となれ……みたいな植物じみた考えになる時があるから受け入れちゃったし、姫野は姫野でコミュ力がカンストしているからかなんでもウェルカムどんな人間もとりあえず遊ぼうぜになるタイプだから、俺は相談相手にはいいと思った部分があった。
でも市平さんはどうだろう。俺はなんせ本屋で少し話したきりだし詳細な人物像はまだあんまりわからない。弟の方は若干チャラめの大学生だが市平さんは真面目に見えたし、どっちもまともな感覚のある人のような気がする。しかし断定するほど市平さんの性格を知らない。つまりどうなるかわからない。
俺にはって話で、今話しているコミュニケーションオバケならば一緒に遊んでいたのだからわかる気がする。
『あくまでも私の推測なんだけど』
俺の思考の終わりを待つように姫野が話出す。
『市平さん、なんでも顔に出るじゃん?』
「それはそう」
『あれ常になんだよね。この前カードゲームショップ行った時も、欲しいカードが目の前で別の客に持って行かれたの見て、なんでやねんタイミングすごいなって顔してた』
「想像できすぎて笑うんだが」
『でしょ? 大体あんな雰囲気だから表情ずっと見てたんだけど、何が起こってもとりあえずツッコミから入るみたいで……なんて言えばいいかな』
「どんなボケが起こってもツッコめる芸人気質?」
『それかも、それだ』
「ならもしも奴原の腕が目の前でぼとりと落ちたとして、いやなんで取れてん! って感じのツッコミから入るからなんとかなるかもしれない?」
『と、私は見てる。だから四人でのご飯もオッケーしたとこあるんだし』
ふーむなるほど。姫野の見解には頷ける部分が多いし、俺もそう聞けばいけるかもしれないという気にはなった。
「そうか、ならまあ変に不安にならず、当日楽しみにしておくほうがいいか」
『だと思うよ〜。クサくんて地味に不安症だよね』
「うるせえ、クサクサするのがクサくんだ」
姫野は笑い声を上げた。
『じゃ、また当日に』
「おう、時間取らせたな」
どちらからともなく通話を終えて、俺は一息ついてからバス停のバス待ち列へと並びに行った。冷たい風が吹いて寒かった。当日どうなるだろうなーと思いながら車内のあったかいバスの到着をゆっくり待った。
約束の日というのは案外と早く来る。一月も半ばを過ぎた頃で、俺は朝からせっせとアクセサリーを売り付け仕事に励んだ。早番シフトなので十九時上がりだ。今日は他に社員がいるのでそいつにラストの締めやらなんやら全てお任せして十九時ぴったりに店を出た。
待ち合わせ場所に着くまでの間は奴原とメッセージのやり取りをした。他愛のない往復だ。今日も寒いなとか今どこの駅過ぎましたとか、俺の方が遅くつくと思うとか半個室の居酒屋ですが僕初めてですとか俺も初めてだよとか云々、もうこれやっぱお付き合い秒読みだよな? というやりとりでマスクの下では笑顔が溢れていた。
改札付近が集合場所だからバスではなく電車で向かっていて、俺は奴原の返信を打ったり待ったりしながら窓の外を見て早くつかねえかなーと呑気に思っていた。もうめっちゃ浮かれつつあった。四人飲みとは言え俺と奴原は付き合ってるようなもんなんだぜとか一人でイキってた。だからこの後の半個室居酒屋「河辺の集い」にて危惧したようなたいへんなことが起こるなんて考えもしなかった。
俺と姫野はともかく、市平さんの前で奴原の部位が取れちゃったのだ。
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