目ってほんとに丸いよな

1 はい、会いましょう

 元旦を迎えてあけましておめでとうメッセージが色んな人から届いた。親やら親戚やら、アクセサリーショップの上司やら部下やら、プライベートで付き合いのある友人たちやらと何通もいただいた。毎年そうではあるんだけども今年は新しい友達からのあけおめメッセージが来てテンション爆上げだ。もちろん奴原のことだ。この流れで新年早々奴原とメッセージのやり取りを行わせてもらった。

 以下元旦の仲良し(と俺は思っている)メッセージだ。

『あけましておめでとうございます、久坂部さん。今年もよろしくお願い致します』

『あけましておめでとう! こちらこそ今年もよろしくお願いします。奴原さんからメッセージ来て嬉しいよ』

『僕もはやい返信嬉しいです』

『年末年始はやっぱ仕事?(もうちょっとメッセージ続けたくて打った)』

『はい。久坂部さんもですか?』

『もちろん。あ、でも二日だけは休みになる。店自体一日閉めるんだ。奴原さんはそういうのない?』

『ないみたいです。ショッピングモール内の服屋ですし、モールが閉まらないとそういうことは起きません。三が日はすべて開いています』

『(いいこと聞いたと思った)ショッピングモール内なのか。いつか行ってみてもいいか?』

『いいですよ。僕も行きます』

『えっ、俺の店に?』

『はい。久坂部さんの店に』

 このAIみたいな返信のところで迷ったけども、

『いいよ、でも奴原さんの好きそうなアクセサリーあるかはわからねえ』

 と正直に返した。奴原からの返信はすぐに来た。

『僕のところもです。休憩が終わるので行ってきます』

 仕事がんばってと送ったところでやりとりは途絶えた。ついでに俺も休憩が終わるからスマホをしまって店に出て、元旦からアクセサリーを買い求めている人々のために接客した。奴原からのあけおめメッセージのおかげで元気に仕事ができた。いやほんとに、俺が送る前に送ってくれた事実がめちゃくちゃ嬉しい。久坂部さんにあけましておめでとうと言おうと思ってくれたのかと考えるともしかしてそろそろ付き合えるんじゃないか? と深読みしてしまう。いや落ち着け久坂部、クリスマスはいい雰囲気だったが焦り過ぎてはいけない……。

 ごちゃごちゃ考えつつも仕事はちゃんとやった。元旦だから普段よりも閉店時間を早くしてしており、もう閉めますよーって時間には客足自体が少なかった、むしろほぼなかった。店長と俺は暇すぎて何回も喫煙しに行った。ちなみに俺は奴原の前ではなるべく吸わないように気を付けている。なんていうか、煙で取れる可能性がなきにしもあらずと思っている。

 閉店後、帰路についたあとにまたスマホを確認して、奴原からの返信はなかったが姫野からのあけおめメッセージに気が付いた。姫野、そういや市平さんとカードショップに行ったあとも交流してるのか? ちょっと聞いてみたくなって返信しつつ質問を入れ込んだ。

 以下が帰宅しながら行なった姫野とのやりとりだ。

『あけおめ姫野、今年もよろしく。お前市平さんとはあれからも会ってるのか?』

『クサくんあけおめ〜。会ってるよ!』

『マジか』

『うん。ていうか今日一緒に初詣行った』

『マジか』

『語彙力どした? マジだよ(市平さんがおみくじ結んでる画像添付された)』

『マジじゃねえか、お前のコミュ力どうなってんの?』

『いやー、コミュ力というよりゲーマー力?』

『どっちにしろ新年早々すごいわ』

『褒められた、ありがとクサくん』

 このあとは特筆するようなやり取りはなかったしなんとなくの文脈でどちらからともなく返信が途切れるよくあるやつになった。

「姫野はすげえな……」

 とかぼやきながら一人暮らしの部屋に入り、寒さに耐え兼ねてさっそく暖房をセットして温まるのを待ちつつ作り置きしていた適当な野菜炒めをチンし始めた。ぐるぐる回る野菜炒めのタッパーを眺めながら姫野とのやりとりと添付された市平さんの画像を思い返した。市平さん、完全に撮られてると気付いてなかった。横顔は映っていたから「とりあえずおみくじ結んどこ」と思っていることは伝わってきた。姫野と初詣に行くくらいには交流を深めたのだと思えばやっぱ姫野すげえわの気持ちが込み上げてくる。

 レンジが終わった。部屋もいい感じにあったまってきたし、さっそく野菜炒めと米を食べた。その後に本棚前に移動して本でも読むかなと思っているとスマートフォンが通知を鳴らした。

 奴原からだった。俺はゲンキンなので一気に嬉しくなった。いや実は仕事終わりにもう一回連絡送っておいたんだよ『俺は仕事終わったよ、お疲れ様。年始のラッシュ終わったら会わないか?』っていうわかりやすいお誘いメッセージを送信しておいた。その返事に違いない!

 手に取りかけていた上川裕美の本を一旦離してスマートフォンをすばやく構え、あふれる笑みを堪えながらメッセージを開いた。

『はい、会いましょう。よければ前回ご一緒できなかった姫野さんと市平さんもお誘いして、どこかで食事でもしませんか?』

 全部読み終わってからベッドに突っ伏した。まさかそう来るとは思わなかった。でも奴原らしくはあるし姫野と市平さんが嫌いなわけではないし、俺はそうしようかって返信を送るしかなくなった……。


 こうして謎の四人メシが幕を開ける運びになり、姫野だけでなく市平さんも奴原の体質について知ることになるのである!

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