ヘンタイとオーナーに対する反応集
「先日は初勝利、おめでとうございます」
昼下がり。クアンタム製術機関オフィスビル・一階エントランスの一角、応接スペース。
いやに質の良い革張りのソファに慣れた様子で座るジュラは、ダンボールを被っていた。大手通販サイトJUNGLE社の配送用中型である。彼はいま、マスクド・ペチャパイスキーとして、オーナーであるレィル・クアンタムと打ち合わせをしているのだ。
「……どうも」
トラス構造を内包することで、厚紙でありながら圧倒的な強度を手にしたマスク越しに、ジュラは困惑の視線をレィルに投げかける。
「何か?」
「別に」
レィルもまた、“クアンタヌ”オーナーモードのあずき色ジャージだ。しかし、彼女の美しい流れるようなボディラインが大きく損なわれている! 具体的には胸……胸に小さいボールでも仕込んだのだろう……人体にしては丸すぎる膨らみが、歪な胸に擬態している。
「あなた、エゴサ、するんですね」
「積極的にではないけど、それなりに」
(聞かれていたのか……)
「それでは、こちらはご覧になりましたか?」
特に恥じるでもなく、独り言を聞かれていたことと、その手段についての驚愕を胸に押し込み、差し出されたレィル仕様のタブレットを見る。
タイムライン形式のSNSだ。早く安く軽い情報として、この都市リベリオのみならず、多くの地域で親しまれているサービスである。
「…………」
硬直するジュラ。
検索欄には〔#ペチャオナ〕と入力されており、昨日のインタビューの際撮影されたペチャパイスキーと“クアンタヌ”オーナーのツーショットと共に、俗な言葉を使うならカプ推しをする投稿が表示されている。
『ペチャパイスキーの方が胸デカいじゃん』
『オーナーさん肩幅狭っ ペチャパイスキー着れるよ』
『ペチャパイスキー距離おかしくない? このヘンな隙間絶対童貞だよ。推せる』
『芋ジャー着た貧乳美少女がイイカラダしてる変態覆面アクターのオーナーってコト⁉︎』
「…………」
「間違えました。ふふん」
(わざとだ……)
インファイト型のストーカーに慣れてきたジュラ。とても満足げなレィルに、真面目にやるよう抗議の視線を投げかける。
「すみません、こちらです」
わざわざ一旦ペチャオナツーショットが背景に設定されたホーム画面を経由し、再検索。
〔#ペチャパイスキー〕
『求道者じゃん >全員満足させた上で勝つ』
『ダンボール被った貧乳好きの変態が強くて何が悪い。バトルスタイルまで変態とは聞いてないんですけど?』
『色は似てるけど安物のデニムだし、術式は外付けだし、ジュラ・アイオライトのフォロワーにしては雑なんだよな。咄嗟の動きにキレがないし』
『地下に出していいレベルじゃないだろ、無能赤タヌキ』
『いまJUNGELでテキトーなデニム買うだけでコスプレできるぞ。腰のベルトはなんかテキトーな箱でも付けとけ』
「赤タヌキ」
「そこはいいんですよ、そこは」
回収されるタブレット。
「大体こんな反応ですね。概ね想定通りです」
「プロデューサーみたいなことを言う」
「ふふん。無能赤タヌキ呼ばわりも、まぁその通りですしね。地下のアクターであなたと興行できるの、ジョー・キャッスルくらいですし。頑張ってセッティングしたんですよ、わたし」
「…………」
「や、あ、八百長とかじゃないですよ⁉︎ ちゃんと、最近ルーキーを潰せてないジョーにうってつけの新人を用意します、って頭下げただけですからね⁉︎」
「……ならいいけど」
「ペチャパイスキーがジュラさんのフォロワーでは? っていうのもいい感じですね」
「貶されてなかった?」
「それはそうでしょう。わたしも関係者席で、うっわ下手なフォロワーが出たなぁとか思いましたもん。これが全く知らないアクターで、ジュラ・アイオライトの名前を出そうものなら、抗議ですよ抗議」
「過激派って怖いなぁ」
「ま、それはいいとして。今回の皆さんの反応を受けて、バチギレしている方を呼んでいます」
「呼ぶなよそんなヤツ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます