サイズ

 鳴り響く爆音と吹き荒ぶ爆風。


 客席を覆う結界に亀裂が走った。地下のアクターに合わせた出力では、些か足りなかったようだ。


 地下興行アリーナの爆心。静寂はすり鉢の底、沈黙を押し込んだその中心に、影は一つ。


「――――」


 全てが晴れ、


『決着ゥ〜〜ッ‼︎』

 堰を切ったのはしゃがれ声の実況だった。


『あ、は、はい! ジョー・キャッスル、魔力置換アストラル体の解除を確認しました』


 続いて、静謐な声音の女性。役割を思い出し、努めてキャラを守り発表する。


『勝者! クラン“クアンタヌ”、マスクド・ペチャパイスキーッ‼︎‼︎』

 その宣言に、会場は爆ぜるような声で溢れた。

 誰もが混乱と興奮の絶叫を上げる中、レィルはさも当然とばかりに関係者席を立つ。ジュラは歓声に応えるよう拳を掲げ、ジョーはゆっくりと立ち上がる。


 実況席から色黒で短髪の男性が転げるように駆け降りてきて、ジュラにマイクを向けた。


「やったなルーキー、大金星だ!」

「……ありがとうございます」

「今夜の日程が終わったら、お前にはインタビューだ! いまの試合みたいな、クールなのを頼むぜ!」

 快活な笑い声で去っていく実況。その足取りは軽い。


 盛大な拍手の中、ジョーとジュラは並び立って礼をした。



◆◆◆



「地下で初、初戦でジョーを倒した感想は?」


「アクターのデビュー戦が、ジョーのようなスターとの興行でとても光栄に思う。観客の皆さんの期待も大きいだろうし、彼の名誉のためにも全力で挑んだつもりだ」



「なるほど。ペチャパイスキーは後手に回る形で、あまり自分から攻めなかったけど、そういうスタイル?」


「スタイルといえばそうなる。

 あの場で期待されていたのは俺の一撃必殺ではなく、ジョーの二撃決殺だった。ジョーの一発目を凌いで、術式【罪状:砕城ウォークライム】を前に敗れ去るルーキー……みんなが見たいのはコレだ。

 それを受けて、俺にできる最高のパフォーマンスは、ジョーがファンの期待に応えた上での勝利。【罪状:砕城ウォークライム】を発動させて、その上で勝つ。もし次の相手が誰より速いアクターだというのなら、俺はそいつより速く動くだけだ」



「……い、言うのも聞くのも簡単だけど……そりゃペチャパイスキー……」


「当然、難しいだろう。できないかもしれない。でもやる。相手のファンも、俺のファンも、全員満足させた上で勝つ。俺はそういうアクターだ」



「しばらく前に失踪したジュラ・アイオライトみたいなこと言うなぁ! オレも大ファンだったんだ! 期待してるぜ、ルーキー」


「それが期待だというなら、必ず」


「素晴らしい! オーディエンス、ペチャパイスキーに大きな拍手を!」



◆◆◆



「…………」


 次の昼、レィルの自室。

 日課のトレーニングを再開し、改めて自分の身体の仕上がりの悪さに肩を落としたジュラは、レィルから待機するよう命じられた。


 手持ち無沙汰の彼は、ネット端末を利用し、自分が檻にいた間のことを調べていた。

 そんな中、地下興行に現れた大型ルーキーについての記事タイトルを見つけた。あまりエゴサには積極的ではないが、ザッピングして目についたら確認するくらいの人間らしさは持ち合わせている。


「なんだこれ……」

 昨晩の特別インタビューを編集したものだ。



『ジョーを破ったスーパールーキー マスクド・ペチャパイスキー! ペチャパイへの情熱を語る‼︎』


『“クアンタヌ”オーナーは某製術機関の令嬢⁉︎ ペチャパイスキーのヘキとの関係とは……』



 内容は、あのあとインタビューを受けていたレィルのものを下敷きに誇張したものだ。試合に関するものは端に少し載っている程度。


 ジュラは性癖について一言も口にしていないし……レィルの吹いたホラが、さもジュラの発言であるように書かれている……貧乳令嬢との関係も何も、術的契約下における主従関係とクランのオーナー/アクターというだけだ。あと、ストーカーの加害者と被害者というのもあったか。


 ともあれ。


「俺は大きければ大きいほどいいんだが⁉︎」


 そんな叫びが、ストーカー兼オーナーの自室に木霊した。

 

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