第12話『補給の必要性』

「優司~♡ ねぇ、いいでしょう? 早くギュッってして♡」

 何故か分からんけど、華蓮が急に甘えてきた。イヤ、ギュッてしてって、抱きしめろってことだよな? 何言ってんだコイツは!?

「優司殿! さぁ早くッ!! 華蓮お嬢様が求めていらっしゃるのですぞッ!!」

 後ろから桑原さんに突き飛ばされ、勢い余って華蓮をベッドに押し倒したような格好になっちまった。イヤ、これ一体どういう状況なんだよ!? 訳が分からんぞ!?

「ちょっと待て、一体どうしちまったんだよ!? お前、体の具合が悪くなったんじゃなかったのか!?」

 客観的に見て、ロリガキをベッドに押し倒す俺。うん、完全にアウトだ。確実に人生終了フラグが立っちまった。イヤ、ふざけんなよ!!

 だけど華蓮は、俺にガッチリしがみついて離してくれない。何で5才児にこんな力があるんだよ!? 俺が上になっているのに、全く体の自由が利かないじゃねぇか!?

「優司、ちょうだい♡」

 華蓮は甘ったるい声でそう言ったけど、イヤ何を!? 無理無理無理無理無理無理無理ッ!! 頼むから離してぇッ!!

「優司殿、落ち着かれよ! そのまま、しばし華蓮お嬢様に体をゆだねて下され!」

 イヤ桑原さん、一体全体何がどうしちまったんだよ!? アンタ何を考えているんだ!? この状況は明らかにマズいだろう!?

 だけど、不思議なことが起こった。体の自由が利かないのはロリガキがしがみついているからじゃない。何故だか分からないけど、体に力が入らないことに気が付いた。何でだろう? 訳が分からないけど、意に反して抵抗できなくなっちまった。

「何……だ……これ……は……?」

 理由は分からない。だけど、思考がぼやけてきた。ずっと前に柔道やった時、ジローがふざけて絞め落とされたことがあるけど、その時と同じ感覚だ……。徐々に意識が遠のいていく感覚……。イヤ、ヤバい……、この状況で落ちるのは、色んな意味で危険過ぎるだろ…………。




 遠くから威勢の良いかけ声が聞こえてくる……。たぶん、グラウンドの方で運動部が練習をやっているのだろう……。

 あれ? もう放課後なのか……? 意識を取り戻したのはいいけど、あれから俺は、どうなったんだ……!?

「優司、良い夢見られたかしら? 優司のお陰で、私はすっかり回復したわよ。ありがとう」

 目覚めて早々、ロリガキにそう言われたんだけど、ピッタリ密着するように添い寝していてビックリした。それに、俺のお陰ってどういう意味なんだよ!? 俺が意識を失っている間に、変なことしていないだろうな!?

 とりあえず、着衣に乱れは無い。寝起きだけど俺の体は……、幸い華蓮には反応していないようだ。一応セーフだと思うけど、不安しか無い。まさか、事後じごってことは無いよな!?

「華蓮、一体何があったのか、説明してもらおうか?」

 まずは状況を整理したい。全く意味が分からないし。

「優司殿、僭越せんえつながら私がご説明致します。華蓮お嬢様の回復に想定以上の時間を必要としまして、やむをえず優司殿の精気を活用させて頂きました」

 桑原さんは淡々と説明したけど、俺の精気……? それって何か、霊的なモノなのか……? よく分からんけど、華蓮を回復させる為に俺を利用したってことなのか?

「俺の精気を活用って……、よく分からないんだけど、何か霊的エネルギーみたいのを華蓮に分けてあげたみたいな? そんな感じ?」

 俺の理解を超えた話だけど、既に『ラプラスの悪魔』なんていうトンデモチートスキルを見せられているし、今更このぐらいは驚く程のことじゃない。

「まぁ、そんな風に解釈してもらえばいいわよ。睡眠だけで回復するには結構時間がかかりそうだったから。短時間に『ラプラスの悪魔』を2回も使っちゃったしね。優司の寿命は縮んだかもしれないけど、私はちゃんと元気になったわよ」

 華蓮はそうサラッと言ったんだけど、ちょっと待て、お前今何て言ったよ!?

「はぁ!? イヤお前、俺の寿命を縮めただと!?」

 マジでふざけんな! 勝手に俺の寿命を縮めてんじゃねぇよ!! お前はサキュバスかよ!?

「大丈夫よ、心配しないで。私が消耗した分、ちょっと優司の精気を借りただけだから。私が体力に余裕のある時、逆に優司へ精気を分けてあげれば元通りになるわよ。困った時はお互い様って訳」

 何じゃそりゃ?って思ったけど、そんな風に融通利くものなのか? よく分からんのだけど。

「本当に大丈夫なんだろうな!? そんな都合のいい話があるのか疑わしいんだけど!?」

 心配しないでと言われても無理があるんだけどなぁ。そもそも精気って何だよっていう、根本的なところが分かっていないし。

「あのね優司、例えば車のガソリンだと思ってちょうだい。2台の車で移動中に片方の車がガス欠になって、余裕のある方からガソリンを分けてもらうみたいなイメージよ。ガソリンスタンドまで辿り着けば何も問題無いでしょう?」

 そう華蓮に説明された。まぁ確かに……、そう考えれば納得できる……かなぁ……?

「しかし……、そんな都合良く融通利かせられるのなら、別に俺の精気じゃなくてもいいだろ。桑原さんから分けてもらえば良かったんじゃねぇのか?」

 普通に疑問しかないんだけど。わざわざ俺を保健室まで連れてくるより、そっちの方が手っ取り早いだろうし。

「それはダメなのよ。こういうのって相性があるのだから。言ったでしょう? 私と優司は相性最高で運命の出会いだって。ハイオクガソリン専用車に軽油を入れても動かないみたいなものよ」

 う~~~ん……、まぁ、そういう話なら理解できるかなぁ……? 俺はこのロリガキにとって、ガソリンスタンドみたいな役割なのか……? イヤ、ガソリン携行缶みたいな?

「それはそれでいいとして……、何でお前ネグリジェなんか着ているんだよ? ここは学校の保健室だぞ?」

 相手はガキだと言っても、目のやり場に困るんだけど。イヤ、別に女として意識している訳じゃないんだけどな。

「だって、制服で寝ているとシワができちゃうじゃないの。それに優司も男の子だし、こういうの好きなんでしょ?」

 華蓮はそう言って、また何かいやらしい笑みを浮かべていやがる。ふざけんな、このロリガキがぁッ!!

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