第11話『急変』

 5時間目の授業が始まったけど、本当に華蓮は大丈夫なのかが気になった。『ラプラスの悪魔』を使って体力を消耗したと言われたけど、一体どれぐらい疲労しているのか? 体力を回復させるのに、どれだけの時間がかかるのか……?

 ちょっと別のことも気になったんだけど、華蓮の母親も『ラプラスの悪魔』を使うと、同じように体力を消耗していたのだろうか……?

 華蓮は自分の母親について、神経難病に罹っていたと言ってたけど、『ラプラスの悪魔』を使っていたから寿命をすり減らしたなんてことは無いのだろうか……? そう考えるのが自然だと思うんだけど。

 特殊能力を使って疲れたから寝るなんて単純な話じゃなく、使う度に寿命をすり減らしてしまうような特殊能力という見方もできる。未来を完全に見通す力なんて、それぐらいのチートスキルなんだから。

 そう考えると、ちょっと試しに占いを……なんてお気楽な頼み方はできないよなぁ……。明らかに、体に負担をかけさせることになる訳だし、華蓮が寿命をすり減らしたら一体どう責任を取るんだ?って話になるよなぁ。責任取って結婚しろなんて言われても困るし、それだけは絶対に避けたい。

 昼休みには華蓮のお陰でスナイパーの狙撃から助けられたけど、安易にその能力を使わせる訳にはいかないんじゃないのか? 興味本位で『ラプラスの悪魔』を試してみようなんて考えるのは、止めておいた方がいいのかもしれないなぁ……。



 5時間目が終わっても、華蓮は教室に戻らなかった。桑原さんから何の連絡も無いし、まだ保健室で眠っているのだろうか?

「優司、華蓮ちゃんの様子を見に行かなくていいのか?」

 ジローからそう聞かれたけど、俺が様子を見に行ってどうするんだよ。

「まぁ、大丈夫なんじゃね? 桑原さんが傍にいるし、何かあったら保健室の先生が対応してくれるだろ」

 実際、俺が行ったところで何もしてあげられることは無いだろう。消耗した体力を睡眠で回復するというのなら、放置する以外に選択肢は無いだろうし。

「福富君、豪天寺さんのこと心配じゃないの? それなら、私達が代わりに保健室へ行ってもいいのかな?」

 橋本さんからそう聞かれたけど、まぁ……、全く心配していないって訳じゃない。『ラプラスの悪魔』なんていう未知の能力が絡んでいるのだから。俺の理解を超えている事態に、どう対処するべきかが分からないんだよ。

「そんなに心配しなくていいと思うよ。本人も、ちょっと休憩したいって言ってただけだし」

 強がってそう返事をしながらも、もしもロリガキが寿命をすり減らす程に体力を消耗していたら……?という不安も多少はあった。こればかりは何とも言えない。

 それに、授業の間は休み時間が10分しかないし、保健室に行ってもすぐ戻らなくちゃいけないだろう。マジで保健室へ行っても、何もやること無いと思うぞ?

 俺的には完全スルーするつもりだったんだけど、イキナリ教室へ桑原さんが、凄い形相ぎょうそうで駆け込んできてビビった。

「優司殿ッ! 大変ですぞッ!! 今すぐ華蓮お嬢様の元へッ!!」

 そう鬼気迫る勢いで言われたんだけど、一体何だよ!? あのロリガキに何かあったのか!?


 返事をする余裕も無く教室から連れ出され、保健室まで一直線。強引に、思いっ切り手を引っ張られて連行されたけど、肩が外れるかと思ったわ。何でこの爺さん、こんなに足が速いんだよ!? マジで俺の常識が通用しない人だな!?

 それより、一体何が起こったっていうんだろう? 華蓮は無事なのか!?

 呼吸を整える暇ももらえず保健室に入ったけど、何故か先生はいないみたいだ。ベッドの方はカーテンで囲まれているから、中の様子が全く分からない。

「華蓮……? そこにいるんだよな?」

 そう問い掛けてみたけど、返事は無い。まだ寝ているのか……? イヤ、桑原さんの慌てようは、ただ事じゃなかったぞ?

「優司殿、さぁ、早く中へ!!」

 桑原さんからそう促されたけど、俺が入っちゃっていいのか? ガキとはいえ、女の子が寝ているところへ入るのは抵抗あるんだけど……。

 イヤそれより、何が大変なのかを聞いていないんだけど? 一体華蓮に何があったのか? それを聞かずに連れてこられたから、不安しか無いんだけど? 何もかも、疑問ばかりの状況だ。

 そっとカーテンを開けてみた。ベッドの上には小さく、布団の膨らみがある。やはり、まだ眠っているのだろうか……? イヤ、それなら何で連れてこられたのか意味不明だし。

 頭から布団を被っているようで、華蓮の顔が見えない。布団の上からは、具合が悪いのかどうかも分からない。

「おい華蓮、まだ寝ているのか? 起きているなら返事をしろよ?」

 枕元に近寄り問いかけたけど、華蓮は何も返事をしない。一体これ、どういう状況なんだ?

 戸惑うしかない状況だったけど、突然布団の中から華蓮が飛び出し、俺に抱きついてきた!!

「優司~、ねぇ、ギュッってして~♡」

 はぁ!? イヤ、お前一体どうしちゃったんだよ!? それに、何で学校の保健室でネグリジェなんか着ているんだ!?

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