第10話『力の代償』

 華蓮は完全に脱力し、既に意識を失っているみたいだ。体の具合が悪いというよりは、体力を使い果たして眠りについたように見える。

「優司殿、華蓮お嬢様は大変お疲れになっておられます。今しばらく、このままお支え下され」

 珍しく桑原さんが、俺に対して穏やかな物言いをしている。これは余程のことなのだろうか?

「なぁ桑原さん、華蓮は占いをやった後、いつもこうなるのか?」

 華蓮は『ラプラスの悪魔』を使うと疲れるって言ったけど、そんなに体力を消耗するようなことなのか? 俺の目には、ただタロット占いをやっただけにしか見えなかったのだけど。

「優司殿、華蓮お嬢様が『ラプラスの悪魔』を行使こうしする際は、それ相応の体力を消耗するので御座います。未来を完全に見通す絶大な力であるが故に、無闇に行使する訳には参りませぬ。そして、良からぬ思惑に巻き込まれぬよう、他言無用ですぞ。どうかその点、ご理解頂きますよう」

 桑原さんは声のトーンを下げて、静かに説明してくれた。とにかく今は、華蓮を休ませてやりたいのだろう。

 まぁ、俺もまだ全部は信じられないのだけど、的中率100%の占いだなんてとんでもない話だ。そんな能力を使えば、大幅に体力を消耗すると言われても納得できる……かなぁ……? よく分からんのだけど、俺が知っている常識には全然当てはまらないことだし。

 しかし、このままロリガキを支え続けるのはシンドイな……。慎重に眠りを妨げないよう、ゆっくりその場にしゃがみ込む。

 コイツ、完全に眠っていやがるな……。面倒だけど、さすがに叩き起こす訳にはいかないし。

 『ラプラスの悪魔』って、一体何だろう……? この世の全てを、未来を完全に見通すことができる特別な能力……? そんなもん、現実に存在するのか……?

 だけど俺は、その能力のお陰で命を救われたんだよなぁ……。華蓮に警告されなければ、スナイパーの放った銃弾が俺に当たっていたのかもしれない。そう考えると、コイツは命の恩人になる訳だけど、イマイチ釈然としないというか……。

「おぅ、優司。華蓮ちゃんも、ここにいたのか。んで、どうしたんだ? 華蓮ちゃん、寝ているのか?」

 そこへ、唐突にジローが現われた。そういや、今日は朝からこのロリガキのせいで散々振り回されているんだよ。いつもならジローと一緒にメシ食って、昼休みはテキトーに遊んでいたんだけどなぁ。

「あぁジロー、今ちょっと手が離せない状況なんだよ」

 しかしコレ、一体どうすりゃいいんだ? 華蓮はいつになったら目を覚ますんだよ? 桑原さんも華蓮を起こさないように、ジローに向かって「シーッ」と静かにするようジェスチャーしているけど。

 さすがに昼休みが終わる前に目を覚ましてくれないと困るなぁ。スマホを見ると、あと残り10分しかないじゃねぇかよ。

「華蓮ちゃんの寝顔、可愛いな〜♪ それで優司、結婚するって話を詳しく聞かせろよ」

 ジローのヤツ、まだ華蓮の言葉を鵜呑みにしているらしい。俺は何度も違うと言っているんだけどなぁ。

「それはコイツが勝手に言っているだけだって。詳しい話は後にしてくれよ。とりあえず、コイツを保健室に連れて行くから」

 いつになったら目が覚めるのかも分からず、このままここでロリガキを抱っこしている場合じゃねぇし。休ませてやるのなら保健室のベッドの方がいいだろう。

 お姫様抱っこするのは抵抗あるので、桑原さんに手伝ってもらい背中におんぶしてやった。5才児とはいえ、完全に眠って脱力しているから結構重いな。さすがは超健康優良児。

 あまりのんびりしている余裕は無い。昼休みが終わる前に教室へ戻らなくちゃいけないし。華蓮を起こさないよう気を遣いながら、足早に保健室へと移動する。

 移動しながらもジローから色々質問されたけど、テキトーにスルーした。どう説明するべきかも分からないし、色々考えるのが面倒臭いんだよ。俺もこのロリガキについて理解が追いついていない訳だし。今はとにかく、保健室へ急がなくちゃな。



 保健室の先生も、唐突に俺が5才児を連れて行ったからビックリしたみたいだ。特に体調が悪い訳じゃないけど、疲れているらしいからベッドで休ませてもらうよう頼んで、俺とジローは教室へ向かう。結局、昼休み終了ギリギリになっちまった。

 ダッシュで教室に戻って早々、クラス委員の木原さんから声をかけられる。

「福富君、昼休みは倉科君と一緒だったの? 豪天寺さんは一緒じゃなかったの?」

 あれだけ俺にベッタリくっついていたロリガキが急にいなくなったから、まぁこれは当然のリアクションかもしれない。

「あぁ、華蓮なら保健室で寝ているよ」

 それだけ教えたら、今度は同級生の橋本さんが心配そうな顔をして聞いてきた。

「豪天寺さん、どこか体の具合が悪いの? 大丈夫なの?」

 橋本さんは心配そうに言うけど、ロリガキが強引に編入して俺の隣の席を奪ったから、急遽一番後ろの席へ追いやられた、ちょっと気の毒な人だったりする。

「心配はしなくても大丈夫……だと思うよ。疲れて眠ってるだけだし、執事の桑原さんが一緒にいるから」

 華蓮が回復するのにどれだけの時間を要するのか分からんけど、眠れば大丈夫みたいなことを言っていたし、まぁたぶん心配しなくていいだろう。

 そうこうしている間に先生が来たので、話は中断する。結局ロリガキは午後の授業に出られないのかな……?

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