第13話『帰り道』

 結局、保健室で寝ていたせいで6時間目の授業をサボってしまった。今更どうすることもできないけど、ちゃんと桑原さんが先生に話を通してくれていたお陰で、特に説教されたりはせずに済んだ。まぁ、そのぐらいは当然だろうけどな。


 教室に戻ると、真っ先に橋本さんから声をかけられた。

「福富君、豪天寺さんも、体の方は大丈夫なの?」

 もうみんな帰っちゃったみたいだけど、橋本さんと木原さんは教室に残っていたようだ。ついでにジローも、俺を待ってくれていたのだろう。

「あぁ、大丈夫だよ。保健室でグッスリ寝ていたから。ジロー、後で6時間目のノートをコピーさせてくれよ」

 あまり詳しい話はしない方がいいだろう。ただでさえ、あらぬ疑いをかけられているのだから。

「うん、俺のノートで良ければいいぞ。それで優司、華蓮ちゃんとはどういう関係なんだ?」

 ジロー! お前はいい加減、少しぐらい空気読めよ!!

「婚約者だって言ったでしょ。もう既に、親同士の挨拶も済ませているから」

 このロリガキがぁッ! 誤解を招くようなことを言ってんじゃねぇよ!!

「あらあら、福富君ったら。こんなに可愛らしいフィアンセがいるなんて、隅におけないわね♪」

 木原さんまで何を言っているんだよ!? アンタ優等生なんだから、別にふざけたこと言わなくてもいいんだぞ!?

「優司殿は既に華蓮お嬢様の婚約者として、豪天寺家への婿入りが決定しております。皆々様方におかれましてはご承知頂きますよう、ひらにお願い申し上げます」

 イヤ桑原さん、決定してねぇから! 俺は嫌だって何回言わせるんだよ!? ふざけんなって!!



 ぶちギレそうになったけど、どうにか堪えて話を打ち切った。頼むからみんな、常識的に考えてもらいたい。普通に考えれば、あり得ない話だって分かるだろう? マジでふざけんなよと。

 いつも途中までジローと一緒に帰っていたけど、今日はロリガキと桑原さんもついてくるし、橋本さんと木原さんまで一緒に帰ることになった。特に理由は無いけど、成り行きで。

 そういや、ジローとは小学生の頃から付き合いあるけど、橋本さんと木原さんは同じ中学なんだよな。でも、今までそれほど親しくしていた訳じゃなかったりする。あまり話す機会も無かったし。

「なぁ優司、華蓮ちゃんとはもう、キスぐらいしているのか?」

 ざけんなジロー! んな訳ねぇだろうがッ!!

「あのなぁジロー、俺は5才児を相手にキスしたりしないし、そもそもコイツと婚約するつもりは無いんだけど?」

 怒りを抑えつつ、とにかく冷静に返答する。

「福富君は……、まだ豪天寺さんと正式に婚約した訳じゃない……のかな?」

 橋本さんにそう聞かれたけど、答えは決まっている。NOだ!

「俺にその気は全然無いから! 華蓮が勝手に婚約とか言っているだけだよ!」

 そう言ってやったら、ロリガキがあからさまにふて腐れている。

「優司ったら……、もういい加減認めなさいよ。私達は、これ以上無いってぐらいの運命的出会いなのよ? それがまだ分からないのかしら? ママの占いを信じられないって言うの?」

 イヤ、そう言われてもなぁ……。コイツが言う占いは『ラプラスの悪魔』を指しているのだろう。的中率100%なんていう信じ難い占いについても、実際に俺の命を救った実績がある。

 だからといって、「ハイ分かりました婚約しましょう」とはならんだろう。何で5才児と婚約しなくちゃいけないんだよ……。

 ところが、橋本さんと木原さんが占いというワードに食いついたようだ。

「豪天寺さんのお母さん、占いをやっているの?」

 何気ない質問だったけど、まぁ女子は占いとか好きだろうし。興味を惹かれるのは当然かもしれない。

「私はママから、占いについてしっかりとコーチを受けたから。ちょっとぐらいなら、アンタたちを占ってあげてもいいわよ」

 華蓮はそう言うけど、イヤそれはマズいだろう? また『ラプラスの悪魔』を使ったら体力消耗するんじゃないのか? 華蓮の耳元で、そっと小声で聞いてみる。

「華蓮、大丈夫なのか? お前は占いをやると、体力を消耗するんじゃないのか?」

 だけど華蓮は、何も問題無いといった顔で答えた。

「心配しなくても大丈夫よ。この人たちには『ラプラスの悪魔』を使わないで、テキトーに手相占いでもやってあげるから」

 そう言われたけど、確かにそうか。占いをやるにしても、毎回必ず『ラプラスの悪魔』を使う訳じゃないってことなのだろう。

 そうすると、占いの的中率は下がるんじゃね?と思ったけど、せっかく華蓮が同級生と交流しようという時に、変に水を差すようなことを言わなくてもいいだろう。

 しかし、コイツは手相占いもできるんだな。母親から色々教わったらしいが、どれだけ占いの知識があるのだろうか?

 まぁ、占いを切っ掛けに少しでも仲良くしてくれたらいいんだけどなぁ。

「あら、アンタ珍しい手相をしているわね。人並外れて色欲が強いでしょう? 度を越した色欲は身を滅ぼすわよ」

 お前、イキナリ何を言ってるんだよ!? 橋本さんもポカーンとしているじゃねぇか!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る