第8話『当たる!?』

 何だかよく分からないけど、神妙な雰囲気になってしまった。華蓮は制服の上に占い師みたいなローブを羽織り、場を浄化するんだとか言ってお香を焚いている。

 正直言って舐めていたけど、コイツはいわゆる占いガチ勢なのだろうか? よく分からんけど、本格的に見える。

「それじゃ、始めましょうか。優司、何か私に占って欲しいことはあるかしら?」

 そう聞かれたんだけど、俺は特に何も無いんだけどなぁ……。

「う~~~ん……、それじゃぁ……、今日の晩メシが何か……とか?」

 何も思い浮かばなかったのでテキトーに言ってみたんだけど、華蓮は落胆したように大きく溜息を吐いた。

「優司……、何かもうちょっとマシな質問は無いのかしら? せっかく『ラプラスの悪魔』を受け継いだ私が占ってあげるのだから……。そうね……、今日この後、優司に降りかかる災難が無いかを占ってあげるわ」

 勝手に質問を変えてんじゃねぇよと思ったけど、まぁ所詮は占いだし別にいいか。いくら何でも、そんなに悪い結果は出ないと思うし、悪い結果が出たとしても現実に起こるとは思えない。たかが占いにビクついてもしょうがないじゃねぇか。

 華蓮は慣れた手つきで、テーブルの上に広げたカードを混ぜている。それをまとめて束ね、よく切ってから三つの山に分けて、それをまた一つにまとめる。これ何か意味あるのか? タロット占いなんて俺には全然分からん。

「今回はシンプルに、ワンオラクルにしましょうね。優司、好きなカードを選んでちょうだい」

 テーブルの上には、裏返ったタロットカードが横一列に広げられている。どれが何のカードなのか分からないし、華蓮が言ったワンオラクルってのが何なのかも俺には分からない。

 こんなのテキトーに選んじゃっても構わないと思うけど、ロリガキの自信に満ちた表情が、わずかに俺を緊張させている。

「じゃぁ……、コレ……」

 テキトーに選んだカードを指差した。そもそも俺は、タロット占いなんて初めてのことだし、全然分からん。

 まぁ、どうせ大したことにはならないだろうと思ったけど、華蓮の口から意外な占い結果を告げられる。

「あら、不吉ね……。優司が選んだのは逆位置の『愚者』よ。無謀、無計画、不注意を表わしているわ。よく考えて慎重に行動しないと、下手したら死ぬわよ」

 ちょっと待て、何でそんな不吉な結果が出ているんだよ!? 下手したら死ぬって、これから俺に何が起こるっていうんだ!?

「イヤお前、何をどうしたら死ぬなんて占い結果になるんだよ!? ふざけんのも大概にしろよ!!」

 思わず語気を荒げてしまったが、いくら何でも酷過ぎるじゃねぇかよ。しかも、真面目な顔で言われたのが余計に腹立つし。

 イヤまぁ、カードを選んだのは俺なんだけど、それにしても酷いじゃねぇか。俺はまだ人生終了させたかねぇぞ?

「優司、危ない! 伏せて!」

 急に華蓮から警告された。何のことか分からず戸惑ったけど、桑原さんから強引に体を押さえ込まれてしまう。


 パンッ!!


 後ろから聞こえた物音、ガラスが割れたような音。桑原さんに押さえ込まれたまま振り向くと、校舎との出入りに使うドア、その窓ガラスに穴が空いている。それから少し遅れて、遠くから銃声のような音が響いた。一体何だ!? 何が起こったっていうんだよ!?

「優司、スナイパーよ! 着弾から遅れて銃声が聞こえたから、相手は1km以上遠くから狙撃してきたのよ!!」

 イヤ、何だよスナイパーって!? 俺、今狙撃されそうだったのか!?

「ふざけんな!! 何で俺が命を狙われなくちゃいけないんだよ!?」

 この状況、全く訳が分からない。何で俺がスナイパーに命を狙われているんだよ!?

「優司殿、今は堪え時ですぞ! 頭を低く! 決して体を起こさぬよう!」

 桑原さんは俺に対して、常に凄みを絶やさない。体を押さえ込まれているから無駄に距離が近いし。

 だが、俺がスナイパーに狙われているとして、華蓮は大丈夫なのか? こっちは訳も分からず押さえ込まれているってのに、このロリガキはのん気にタロット占いを続けていやがる。

 イヤ、普通に考えたら、命を狙われるのは華蓮の方じゃないのか? 何でただの一市民である俺がスナイパーに狙われるのか、意味不明過ぎるだろう?

「おい、華蓮! お前も早く、どこかに隠れろよ!」

 そう言ってやったけど、このロリガキは全く焦る様子も見せない。

「優司、私なら大丈夫よ。今は自分の安全だけを考えてね」

 何を根拠に大丈夫なんて言っているのか、俺にはサッパリ分からなかったけど、華蓮は平然としている。

 肝が据わっているとでも言うべきか、このロリガキが普通じゃないのは確かだ。スナイパーの放った弾丸が、自分に当たるかもしれないという恐怖心は無いのだろうか?

「桑原、南西1.2km、白いマンションの屋上よ」

 唐突にロリガキがそう言ったけど、何の話か俺には分からなかった。

「華蓮お嬢様、承知致しました」

 桑原さんはそう返事をして立ち上がったけど、もしかしてスナイパーのいる場所のことなのか!? この危機的状況でタロット占いをやって、スナイパーの居場所を割り出した!? そんな馬鹿なこと、あり得ねぇだろ!?

「ちと遠くございますなぁ~。老眼には厳しゅうございます」

 桑原さんは華蓮が言った方向を見つめ、そう呟いたんだけど、一体何をするつもりなんだ? 1.2km先とか、肉眼では分からんだろうに。しかも老眼とか。

 だが、桑原さんは全く予想外の行動に出る。懐から取り出した拳銃に、慣れた手つきでロングバレルとストックを装着して構えた。

 はぁ? この爺さん、1.2km先にいるスナイパーと対決するつもりなのか!? イヤ、そんなの無理ゲー過ぎるだろ!? それ以前に、銃刀法は!?

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