第7話『俺にどうしろってんだ!?』

 華蓮の話を聞き終えて、どうリアクションを取るべきか迷った。俺をお婿さんに~って発言に至るまで、そんなことがあったなんて今初めて聞いたし、既に亡くなっている華蓮の母親について多少情報を得たものの、何て言うべきかが分からなかった。

 普通なら、こういう時には慰めの言葉をかけるべきなのだろうけど、そう単純な話じゃないのは明らかだ。華蓮は母親の言葉を信じて、俺をお婿さんにすると言っているのだから。

「そういう事情があったのかよ……。そういう話は、最初にしておくものだろうが……」

 悪態を吐くのも気まずいが、精一杯の強がりで言葉を絞り出した。華蓮は少し俯いて、ハンカチを目元に当てている。ひょっとしなくても泣いているのだろうか?

 まぁ、当然だろう。こんな小さい子供が、亡くなった母親との思い出話をしたのだから。俺だって、もしも5才の時にお袋が死んでいたら、声をあげて泣いていたと思う。

 生意気、ワガママ、態度がデカい、こんなロリガキに婚約を迫られるなんて最悪だと思っていたけど、コイツが母親を失ったことには同情するしかない。上流階級だとか庶民だとか、生まれの違いは関係無い。人として当然の話だ。

 しかし……、安易に華蓮を慰めるのは、婚約を受け入れることに繋がるんじゃねぇのか……? それだけは何としても避けなくちゃいけない。下手なことを言うと、俺の人生詰む可能性がある。

「私はね……、ママの言葉を信じているから……。ママの占いは絶対当たるんだからね……。私と優司は、結ばれる運命にあるのよ……」

 そう途切れ途切れに言う華蓮の声が、少し震えていた。大声あげて泣き出したいのを、必死に我慢しているようにも見える。こんな姿を見せられると、少し罪悪感を覚えてしまうな……。

 華蓮には華蓮の事情がある。母親との思い出、そして別れについては、他人には推し量れないものがあるのだろう。想像することはできても、全てを理解できる訳じゃない。こんな小さい子供が声を震わせて言っていることを、頭ごなしに否定するなんて、俺にはできないよなぁ……。

 華蓮にとって俺との婚約は、母親と交わした最後の言葉に従うもので、母親の占いには絶対的な信頼があるらしい。『最高に幸せな人生』なんて言っているけど、俺の立場からは何て厄介な占いをしてくれたんだよと文句の一つも言いたい。

 でも、既に亡くなっている人を相手に文句を言うこともできないし、ただただもどかしいだけだ。

「まぁ……その……、お前のママは占いが得意だったのかもしれないけど、さすがにまだ、結婚相手を選ぶのは早過ぎないか……? お前はまだ5才だし、しかも占いの結果だからってのも、ちょっとどうかと思うぞ……?」

 ハッキリとは言いにくいことを、やんわりとした表現で言ってみる。

 だが、華蓮は静かに囁くように、こう言った。

「『ラプラスの悪魔』……、占い師としてのママは、そう呼ばれていたわ」

 え? 『ラプラスの悪魔』……? 何かで聞いたことがあると思うんだけど、どういう意味の言葉だったっけ……? よく覚えていないなぁ……。華蓮の母親がそう呼ばれていたってのも、意味が分からない。

 戸惑う俺に、華蓮は落ち着いた雰囲気で説明する。ちょっと待て、お前、ついさっきまで泣いていたんじゃなかったのか?

「ママの占いは的中率100%。良い結果も悪い結果も、必ず占い通りだったの。ママにはこの世の全てが、宇宙の開闢かいびゃくから終焉まで全て分かっていて、それを占いの結果として伝えているだけじゃないのかって噂されていてね。だから『ラプラスの悪魔』って呼ばれていたの」

 何だと!? 的中率100%の占いなんてあり得るのか!? にわかには信じがたい話だが、華蓮は極めて真面目な顔で話している。嘘を言っているようには思えない。

「そんな、的中率100%なんて……、いくらなんでもあり得ないだろう……? お前、話を盛っているんじゃないのか……?」

 俺にはそんな話、信じられない。占いなんて大して意味の無いものという認識だし、人生を左右するような大それたものじゃない……と思っている。

 だけど、華蓮は真剣な眼差しで俺を見ている。自分は間違ったことを言っていない、しっかりとした根拠のある話をしているって感じに。まさか、コイツ本気マジなのか……?

「私はね、ママから占いを教わっただけじゃないのよ。『ラプラスの悪魔』も受け継いだから。試しに優司のことを占ってあげましょうか?」

 華蓮がそう言うと、桑原さんがカバンからタロットカードを取り出した。何で華蓮のカバンにタロットカードが入っていたのか疑問に思っていたけど、コイツ自身も占いをやるからなのか。

 しかし……、的中率100%の占いなんてあり得ないよなぁ……? どう考えても、俺にはそんなこと信じられない。非現実的過ぎる。

 そんなことを考えている間に、桑原さんはササッとテーブル&イスをセッティング。最初から全部準備していたかのように手際が良い。あっという間に、屋上の一角に占いブースができあがってしまった。

 一体何だよ、このスピード感は!? 俺は今、何を見せられようとしているんだ!?

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