第5話『会話って難しい』

 昼メシ食ったら、とりあえず華蓮を連れて教室を出る。同級生も多少は遠慮してくれるようになったけど、食事を終えたタイミングで何人かは話しかけてきたし、また質問攻めに遭うのは面倒だ。

 ただ、教室を出てどこへ行けばいいのか? それが問題だ。華蓮も一応この学校の生徒になってはいるけど、見た目も何もかも異質な存在だというのは誰の目にも明らかだし。

 こんな幼児を連れて校内をうろつくと無駄に目立つだろうし、人の少ない場所を選ばなくちゃいけない。さて、どこへ行くべきだろう……?

「優司、私達はどこへ向かって歩いているの?」

 華蓮にそう聞かれたけど、目的地を決めずに歩いているから答えようが無い。

「う〜ん……、どこか静かで、落ち着ける場所……かなぁ?」

 疑問形で答えるのも変だけど、今の俺には明確な回答が出せないんだよ。

 だけど、華蓮はまた何かいやらしい笑みを浮かべていやがる。

「静かな場所で、私と二人きりになりたいの? ちゃんと責任取って結婚してくれるのなら……、私はいつでもいいわよ♡」

 そう言って、華蓮はまたスカートの裾を軽くつまみ上げた。だから、何で俺が5才児に誘惑されなくちゃいけないんだよ!? ふざけんな、このロリガキがッ!!



 歩きながらも華蓮に手を繋いでくれと駄々をこねられ、桑原さんに凄まれ、仕方なしに手を繋いでやったりもした。

 とにかく無駄にイラつかないよう自制し、あまり人が集まっていない場所を探して校内をさまよう。変に目立つような行動は避けたいし、落ち着いて会話できる場所がいい。

 とりあえず校舎の屋上に出てみたら、隅っこでメシ食ってるのが二人いた程度なので、ここで妥協することにした。

 まぁ、ずっと桑原さんが一緒について回っているから、どこへ行こうとも華蓮と二人きりになることはできないし、なりたいとも思わないんだけどな。

「ふ~ん、屋上は結構開放感があっていいわね。でも、優司は私と二人きりになりたいんじゃなかったのかしら? ちょっと桑原、あそこにいる庶民を追っ払ってちょうだい。今からここは、私達以外立ち入り禁止よ」

 華蓮はしれっと、とんでもないことを言う。何でお前はそう、天上天下唯我独尊てんじょうてんげゆいがどくそんっぽい発言を平気でするんだよ!?

「イヤ、わざわざ追っ払う必要は無いだろ! 学校はみんなが利用する場所なんだからな? 別にお前が貸し切りで使える特別な場所じゃないんだぞ?」

 そう言って華蓮を制する。何か納得いかないみたいな顔をされたけど、少しは我慢を覚えろよと。何でもかんでもお前の思い通りになる訳じゃないからな?


「それで……、何から話すべきか……。とりあえず、華蓮の家族について聞かせてもらえるかな……?」

 ちょっと探りを入れるような質問をする。イキナリ核心に触れるような言い方は抵抗あるし。

「私の家族……? そうね、優司は私のお婿さんになる訳だし、豪天寺一族の成り立ちから話した方がいいかもね。でも、話が長くなるわよ?」

 そう言われたけど、俺は婿入りする気は毛頭無いし、そんな壮大なスケールの話を聞きたい訳じゃないんだよ!

「イヤ、そうじゃなくて、例えば……お前んちの家族構成とか……? 兄弟とかいないのかとか……、あぁそうだ、そもそもお前ってハーフなのか? お前のパパは日本人みたいだけど、お前は金髪に青い瞳だし」

 ちょっと慌ててしまった。どうにか言葉を選んでみたが、これで疑問を解消できるのだろうか……?

「うん、私のママはスウェーデン人よ。この髪と瞳はママに似たの」

 やっぱりそうだったのか。華蓮の父親は、どこからどう見ても純粋な日本人にしか見えなかったし。母親がスウェーデン人なら、髪の色も瞳の色も納得できる。

「お前のママって……、どんな人なんだ……?」

 どうということの無い質問だけど、何故だか少しドキドキした。触れちゃいけない話題かどうか、他人である俺には分からないし。

 だけど華蓮は、今度はちゃんと俺に視線を合わせて答えてくれた。

「私のママは難病にかかっていてね、いつもベッドで休んでいたわ。私の記憶に残っているのは、いつもベッドの上にいるママ。もう助からないのが分かっていたから、私の為に自宅療養で我慢してくれていたの」

 そう言う華蓮の表情が、少し悲しそうに見えた。

「私が優司と初めて会った日、覚えているかしら? ママが天国へ旅立って、あの日がちょうど十日目だったのよ。正に運命の出会い」

 華蓮はキッパリ言い放ったが、ちょっと待て、話が見えないんだけど? 母親が亡くなってから十日目に俺と初めて会って、何でそれが運命の出会いになるんだよ? 意味が分からないんだけど?

「イヤ華蓮、何なんだよ、その運命の出会いっていうのは? お前のママが亡くなったのは分かったけど、俺との出会いが運命って、意味が分からないんだけど?」

 母親の死と俺の出会いがどう結びつくのか、サッパリ分からない。華蓮は見た目通りロリガキであることに間違い無いけど、そこらの5才児と比較すれば理路整然とした、ちゃんとした会話ができるのは分かっている。だけど、今聞いた話の筋が全く見えないし意味不明過ぎるんだけど。

「順を追って説明しなくちゃ、優司には分からないわよね。私がママとお別れした時から話さないといけないでしょうし……」

 華蓮はそう呟くように言って、少し目を閉じた。これから一体、どういう話になるのか、全く予想が付かないな……。

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