第4話『こども相手』
ちょっとヘヴィーな話になりそうだし、それ以上突っ込んだ話をするのは止めにした。授業中というのもあるし、ちゃんとした会話をするのなら休み時間を待つより他に無いだろう。
2時間目も終わり休み時間に入ったが、ソッコー同級生に囲まれてしまい、華蓮から話を聞き出すのは無理っぽい。どいつもこいつも、どうでもいい質問ばかり連発するからウンザリしてきた。
華蓮も同級生をまともに相手していないし、無意味に質問ばかり浴び続けているのは時間の無駄だろう。何故か桑原さんは、一歩下がって傍観している。華蓮の執事なら、この訳分からん状況をどうにかしてくれよと。
3時間目、4時間目も同じように過ごし、ようやく昼休みに入る。何か無駄に疲れたな……。
俺はいつも、お袋が作った余り物弁当なんだけど、華蓮は昼メシどうするんだろう?と思ったら、桑原さんがどこかから持って来た弁当を食べるみたいだ。
しかも桑原さん、勝手に俺と華蓮の机を向かい合わせにセッティングし、わざわざテーブルクロスまで用意して、華蓮と一緒にメシを食えと言う。
いつも昼休みは、ジローと一緒にメシ食っていたんだけどなぁ……。このロリガキは、そんなに俺を束縛したいのかよ……。
だが、さすがに昼休みまで経過して、同級生も華蓮のことを多少は理解してくれたらしく、少し距離を置いてくれるようになった。無駄に干渉されるよりは良いけど、コイツがクラスで孤立するのに俺まで巻き込まれたみたいじゃねぇかよ。何でこうなったんだ……。
「どうしたの優司。早くお昼頂きましょう」
ウッキウキの笑顔で華蓮にそう言われたけど、誰のせいで憂鬱な気分になったと思っているんだ? マジでふざけんなよと。
「あぁ分かったよ、分かったよ。俺も腹減っているからな。ハイ、いただきます」
華蓮の母親について話を聞きたいってのもあるから、あまり
「優司のお弁当、それ……中華料理なの?」
華蓮にそう聞かれたが、中華っちゅうか何ちゅうか……。家がラーメン屋をやっているから、店で余った食材を適当に詰め込んだ弁当になっていて、俺にはそれが普通のことだった。
「余り物だよ。店で余った食材は、自動的に俺たち家族が食べることになるんだよ」
そう素っ気なく事実だけを教えてやる。俺んちでは前からそうだったし。
それに比べて華蓮の弁当は、一体どこで買って来たのか知らんけど、随分と豪華な弁当だ。美食家が厳選した一流店のヤツを、テレビで紹介している時に見るような感じ……? 詳しいことは分からんけど、俺の貧相な弁当とはえらい違いだな……。
「でも、優司のお弁当美味しそう」
そう華蓮に言われてビックリした。こんな庶民の食べる貧相な弁当が美味そうに見えるのか? それって皮肉や嫌味じゃないのか?
「それ、優司のママが作ってくれたんでしょ? 私はママの作った料理なんて食べたことが無いし。少し羨ましい……」
華蓮はそう言って、ちょっと寂しそうな顔を見せる。やはり華蓮の母親は、既に亡くなっているのだろうか……? まぁ、超大金持ちの場合、母親ではなく使用人が料理とかも全部やってくれるのかもしれないけど。
こういう時、どんな言葉をかければいいのだろう……? このロリガキは生意気でワガママだけど、だからといって無神経に家族のことを聞き出すのも、それは人としてどうかと思う。
ハッキリ言って、華蓮に付きまとわれるのは気に入らないけど、5才児を相手にガチでゴチャゴチャ言いたくはない。婚約する気は微塵も無いけど、どう言えば華蓮を納得させられるのか……。
何気に華蓮の顔を見た時、俺の弁当を、更に一箇所をじっと見ていることに気が付いた。
「ん? コレか? 気になるのなら、一つ食ってみるか?」
どうやら華蓮は、俺の弁当箱に詰め込まれて、
「え、いいの!? それで、そのオカズは何なの!?」
華蓮は興味津々といった感じに、目を輝かせて聞いてきた。たぶんコイツも餃子ぐらいは知っているはずだけど、弁当箱に無理矢理詰め込まれて原型をとどめていないから気になったのだろう。
「一応、餃子だよ。弁当箱に詰め込まれて形が変わっているけどな」
そういって弁当箱を差し出してやったら、華蓮は箸を出さず、その代わりに大きく口を開けた。お前、あ~んって食べさせてくれってのかよ!? さすがにそれは恥ずかし過ぎるんだけど!?
そこへ桑原さんが、無駄に凄みを出して囁いて来た。
「優司殿、華蓮お嬢様が待っておられますぞ! さぁ、早く! お口にあ~んですぞ!」
イヤ、アンタも言ってて恥ずかしくならんのか!? お口にあ~んとか、恋人同士がやることだろうが!!
だが、華蓮は同じ姿勢でじっと待機している。コイツ、俺が食べさせてやるまで、この状態を続けるつもりなのか……?
さすがにこのままでは
「これが優司の家で作った餃子なのね! 私も中華料理ぐらいは食べたことあるけど、これも美味しいじゃないの!」
華蓮はそう興奮気味に言ったけど、別にどうということの無い普通の餃子なんだけどなぁ。しかも、弁当に入れたから冷めているし、大して美味くはないだろうに。
「まぁ、俺んちは庶民的な、普通のラーメン屋だけどな。そんなに美味いものでもないだろ? 俺んち、いつも
自虐ではなく事実を述べた。地元の常連客も、よほどの物好きしかいないと思う。元々サラリーマンをやっていた親父が、何をとち狂ったのか脱サラして、修行も積まずに勢いだけでオープンしたような店だし。
「そういえば、あまり気にしていなかったけど、優司のお家はラーメン屋さんだったわね。小さいけど素敵なお店だったじゃないの」
そういうお世辞はいらないんだけどな。俺にとっては、新しいのに古くさい変な店だし。創業何十年とかいう積み重ねも無いし、俺も親父の後を継ぐつもりは無い。
まぁ、食事中は人の本性が
なるべく早くメシ食って、少し華蓮と会話する時間を確保してやろうかな……。
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