第2話『年下の同級生』

 とにかく、とんでもない話になっちまった。俺に全くその気は無いっていうのに、向こうは既に家族ぐるみで俺とロリガキ……、華蓮を婚約させようと話している。

 俺の親父とお袋、そして妹も最初はビックリしていたけど、逆玉の輿だとか言ってはしゃいで目を輝かせていた。どうせ金が目当てなんだろう。

 何で俺が、あんなロリガキと婚約しなくちゃいけないんだよ……。俺もまだ15才だし、相手は10才も年下じゃねぇか……。そんな話、あり得ねぇっつーの。

 そもそも俺には好きな人がいるんだよ。憧れの人ってゆーか。その人以外は全く意識してねぇし、ましてや年下の……、10才も年下のロリガキなんかどうでもいい。普通に犯罪じゃねぇかよ。

 俺は絶対に受け入れない。考えるまでも無く、答えは決まっている。それはハッキリと伝えたのだけど……、何故か華蓮の父親は笑っていた。「今はまだ決心がつかなくても、時間をかけてゆっくりと」なんて言われてしまうし。ふざけんな。あのオッサン、どんだけマイペースなんだよ?

 俺はあの人と……、また会えるかどうかも分からないし、実るかどうかも分からない初恋だけど、その想いを成就させたいんだよ……。

 頼むから俺の恋路を邪魔しないでもらいたい。そう、切に願う。庶民のささやかな夢を壊さないでくれ。




 華蓮を迎え入れた俺のクラスは、違和感しか無い。高校一年の教室に5才児が編入して来たのだから当然だけど。

 しかも、わざわざ俺の隣に座っている。昨日まで俺の隣にいた女子は、急遽一番後ろの席へ移動させられているし、コイツどんだけワガママなんだよ。超大金持ちのお嬢様か何か知らんが、やりたい放題じゃねぇか。授業中だっていうのに執事の桑原さんが、すぐ横でティーポットを持って待機しているし。

「優司、教科書見せて」

 授業開始早々、そんなことを言われたんだけど、お前も教科書ぐらいは用意しているだろうに。何で俺の教科書を見せなくちゃいけないんだよ?

「自分の教科書を使え。ちゃんと事前に、必要な物は全部用意しているんだろ?」

 ありとあらゆることに根回し手回しして、制服まで特注の、ロリータファッション的アレンジを加えた物を用意しているっていうのに、教科書だけ用意できていない訳ねぇだろ。そのカバンは空っぽなのか?

「持ってない。見せて」

 ふざけんな!と思ったが、本当に華蓮のカバンにはノートと筆記用具、あとはスマホやタロットカード?と、お菓子しか入っていなかった。お前、何で教科書が用意できていないんだよ!? 普通に金使えば手に入るだろ!?

「福富、豪天寺さんは編入したばかりなんだから、教科書見せてあげてくれ」

 先生は普通にそう言ったけど、何か納得できねぇんだけど……。用意周到にこの高校へ編入して来て、何で教科書だけ用意できていないのか意味不明だし。

 イヤ……、お前ワザとじゃないのか? 最初からこうして、俺に教科書を見せてもらうつもりで用意しなかったんじゃねぇのか? そうとしか考えられない。

 その証拠に、華蓮は必要以上に席を近寄せて俺に密着して来た。教科書の内容なんかどうでもいいって感じに。そんなにくっつくなってぇの!

 だけど……、授業は真面目に受けているように見える。先生の話を普通に聞いているし、ちゃんと真面目にノートも取っている。コイツ、ガキのくせに綺麗な字を書くんだな。5才児とは思えない、キチンとしたノートだ。

 それにしても……、さっきから何か、華蓮から良い匂いがする……。シャンプー? 香水? 何の匂いかは分からないけど、他の女子とは明らかに違う匂いにドキッとした。これも庶民と上流階級の違いだろうか?

 イヤ、そんなことに惑わされてたまるか! コイツはまだ5才じゃねぇかよ、俺が憧れている人は年上だし! こんなロリガキに、女性的な魅力を感じるなんてあり得ねぇんだよ! ふざけんな!!



 どうにか平常心を保ちつつ、1時間目の授業を乗り切った。華蓮のヤツ、休み時間になっても俺から離れてくれない。このまま全教科、俺の教科書で授業を受けるつもりなのだろうか?

 同級生もみんな華蓮に興味津々みたいだけど、このロリガキはお高くとまっているのか知らんが、まともに相手をせずテキトーにあしらっている。特に女子は。

「ねぇねぇ、華蓮ちゃんって、福富君とはどういう関係なの? どこの学校から編入して来たの?」

 普通に誰もが疑問に思うことを質問されても、華蓮は愛想笑いもしない。

「アンタに答える必要無いでしょ。馴れ馴れしく『ちゃん』付けで呼ばないでほしいし、優司に近寄らないで。あっち行ってもらえないかしら」

 何でか知らんが、女子にはあからさまに敵意を見せている。一応同級生だし、みんなお前より年上のお姉さんなんだけど? 何でコイツは、こんなに態度がデカいのか。編入早々、わざわざトラブルを起こすような態度は止めさせたい。

「あのなぁ華蓮、同級生にそういう言葉遣いをするのは止めろよ。周りと仲良くするつもりが無いのなら、何でウチの学校に編入して来たんだ?」

 そう、華蓮をたしなめるつもりで言ったセリフが、思わぬ起爆剤になってしまう。

「何でって、優司をお婿さんにする為に決まっているでしょ。優司に悪い虫が近づかないよう、監視しに来たのよ」

 そう仏頂面ぶっちょうづらで答える華蓮だが、教室に居る全員がザワついた。

「えッ、それマジなの!? 優司、お前華蓮ちゃんと結婚するの!?」

 そう興奮気味に聞いてきたのは、同級生の倉科くらしなジロー。俺が小学生の頃から付き合いのある友達である。いわゆる腐れ縁。

「あ、イヤ、そうじゃないんだよ、違う、コイツが勝手に言っているだけで、俺には全然、そんなつもり無いからな!? お前ら、俺を信じろよ!?」

 慌てて弁明するが、女子はみんなキャーキャー言っているし、男子からはロリコン呼ばわりされてしまった。ふざけんな、お前ら勝手に妄想膨らませて盛り上がってんじゃねぇよ!! 少しは俺の身になって考えろ!!

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