第5話 石を飛ばす能力者

石崎と別れてから二時間程経過した。


特に事件が起きることもないので辰馬は暇そうにしていた。


(二階層適応者が起こすトラブルは、週に二、三回くらいだからなぁ)


そんな事を考えていると助けを求める声が聞こえた。


「助けて!!」


その声の方角として凡そ直線二百メートルの距離だ。辰馬の聴力があって聞こえる声だ。


声のする方角へと走り、数秒で到着する。


飲食店街からは少し離れた場所であり、そこで柄の悪そうな男が仕事帰りなのかスーツを着た女性に絡んでいた。


男は女性の手を掴んで引っ張ろうとしていた。


辰馬が即座に竹刀袋から木刀を出し、男に話しかける。


「こんばんは!私は、武田辰馬です。そこの女性怖がっていますよ。離してあげたら、どうですかね?」


女性は酷く怯えた表情をしていた。


女性の容姿は、理知的な顔をしており委員長と似た顔のようだった。


「あぁ?うるせぇよ…。てかお前は噂の吉林の用心棒か?こんなガキだったとはなぁ」


男は残念そうな表情を浮かべた。


「そうですね、今年で高二になります。そこの女性離してくれるなら、見逃しますので」


男は意外にも大人しく女性の手を離した。


「意外ですね…私に襲い掛かってくるかと思いましたよ」


「あぁ違う違う。気が変わったんだ、俺はお前と戦いたくなったから女を離しただけだ。戦い終わったら女と遊ぶとするさ」


(戦いは避けられそうにないな。能力は分からないが、この女性をここから逃がした方が良さそうだ)


「分かりましたよ、戦いますから迷惑の掛からない場所に移動しませんか?」


男と辰馬がいる場所は、ただの一般住居がある場所であり、道路には車も通ったりしている。


「無理な相談だな!」


男は辰馬から距離を取り自身の持つ大きなバックを開け、その隙に辰馬は女性を抱えて

同じく距離を取った。


女性は、突然抱えられた事と辰馬の移動速度に驚いた。


「キャーーーー!!」


辰馬は男から目を離さずに女性へ話しかける。


「男はここで抑えておきますから、逃げてください」


「わ、分かったわ」


女性はヒールを脱ぎ走り去った。


女性が逃げようとした瞬間に石が辰馬の横を高速で通り過ぎた。


「おいおい、何逃げようとしているんだよ」


(男が投げる素振りを一切せずに、手から石が射出された。そして速度だが恐らく時速で200kmを超えてくるだろう)


女性が男の固有能力を見て話す。


「あれは、手で持つ物を高速で打ち出す能力。最大時速は300kmと能力者データにあったわ」


ダンジョンに入った人間は全て固有能力を手にする。中には悪用されると危険な能力もあるため、固有能力の詳細を国に提出する必要があるのだ。日本のダンジョンに入った人間は一人残らず能力を国が掴んでいるのだ。


(この人はダンジョン関係者だから男の能力を知っていたのかな)


「よく知ってるな。お前はダンジョン研究者か?まぁいい。俺の能力はその女が言った通りだぜ」


男が言い終えると手に持つ石を辰馬に射出する。


辰馬は木刀で石を容易く弾く。


「この程度の速度では、俺には当たらないよ」


「その女を庇いながら、この量を捌き切れるかな!」


男は足元のボストンバックから石を素早く取り何発も射出するが、辰馬は躱したり弾いていた。


辰馬は高速の石に対処しながら男に近づく。


男との距離が十メートルを切ったところで、男が二ヤりと笑う。


突然男がバックを持ち上げて、中身の石を宙にばら撒く。


同時に辰馬も木刀を空高く投げていた。


突然の奇行に女性が声をあげる。


「な…何を!」


男の手にない十数個の石が辰馬に凄まじい速度で襲い掛かる。


辰馬は女性に向かう物と躱せない物を瞬時に見極めて、回避と石を両手・両足を使い人間離れした動きで弾いていた。


「ふぅ…痛いな」


辰馬は両手をブラブラと振り呟き、空から落ちてくる木刀をキャッチする。


「な、なぜアレに対処出来た」


辰馬は毅然とした態度で答えた。


「足元のバッグから取り出して攻撃するなんて無駄な行動だと感じた。普通ならそのバッグを少し改造して石を射出しやすいようにするだろ?それと、あの程度の速度なら余裕で対応可能な身体能力持ってるんだよ、鍛えてるんでね」


(この男…石が全て無くなったのに、諦めたような目をしていない…)


「そうか、なら身体強化で殴り合いといこうじゃないか!」


男は不敵な笑みを浮かべて構えた。


辰馬も軽く構えて、男の出方を伺っている。


「来いよ!」


「なら、行かせてもらうぜ!死ね!」


男が大振りの拳で辰馬に殴ろうとしていた。


男は射出する直前に確信の笑みを浮かべた。


その時、男が女性を離した場所に隠していた石が辰馬の四角である後方から射出した。


石の射出後、辰馬は男の目にも留らぬ速度で男の後方へと回り込み、男の後頭部へと木刀の先で突いた。


「な、なんで・・・」


意識してない方向からの強烈な攻撃で男は驚愕しながらも意識を失った。


「はぁ、能力者との戦闘はしんどいな」


辰馬は疲れたように呟き、女性の元へと歩み寄った。


「あの大丈夫ですか?多分石とか当たってないと思うんですけど」


「えぇ貴方が守ってくれたから平気よ、助けてくれてありがとう。私は長谷川公子、ダンジョンの研究者よ。そして貴方が辰馬君ね、凄く強いって茉莉からも聞いているわ」


男からの恐怖は綺麗さっぱり消え去っているようだった。


「いえいえ、私も仕事ですので。それと、やはり茉莉さんのお母さんでしたか、面影がありました」


「えぇ、娘がお世話になってるわね。それと聞きたいことがあるの、男の真の能力には、いつから気づいていたの?」


長谷川は能力オタクなのだろうか?興味深々な表情を浮かべて辰馬に尋ねてくる。


「男の能力ですか…最初に男は私から距離を取ったので、そこで能力は遠距離型と予想しました。そして石を手で射出する攻撃に無駄が多すぎたので、男の能力はブラフと考えました。そこで私は男の能力を『物体に魔力を纏わせた物を射出する能力』と予測しました」


「そう…。でも四角からの攻撃は、普通なら躱せないでしょう?」


「それは簡単です、男が一斉に射出した時に明らかに一個速度が遅い石がありました。

あまりにも不自然でしたので弾いた後も警戒していました」


(俺が石に籠っていた魔力を感知出来ているってことは言わないでおこう。四階層以降の適応者が魔力を感知出来ると言われているっぽいからな。普通は無能力者の俺が感知出来るはずがないんだがな…)


長谷川は申し訳なさそうに話した。


「その…申し訳ないわ。私が余計な発言で貴方の判断を鈍らせたわね。でも、ダンジョン調査員も適当ね、男の能力を間違うなんて…」


「調査員も石を操る能力だから気を抜いて調査してしまったんでしょう。ちょっと失礼…」


辰馬はそう言い終えると男の元へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る