第2話 焼肉食べる

石崎はクラスから自身の能力を馬鹿にされ放課後まで辛気臭い顔をしていた。


教室を一緒に出ながら、辰馬は石崎に話しかける。


「そう落ち込むなって。今度、焼肉奢ってやるからさ」


「え…焼肉?そうだなぁ、ダンジョン近くにある高級なところがいいな」


石崎が頼んだ店は、ここ一帯で一番高い店だった。


(あそこ高い店だけど探索者のトラブル解決してるから、格安にして貰えるんだよな)


「まぁ用心棒してるから稼ぎはそこそこあるからいいぞ」


「え…マジかぁ!ありがとうよ!ずっと食いたかったんだよなぁ」


石崎は先ほどの落ち込み具合が嘘のように嬉しそうな表情をしている。


「俺の仕事の時間もあるから少し早めからになるけど勘弁な。今日でいいよな?」


「おう、問題ねぇよ!今度俺もラーメンなら奢ってやるよ」


「石崎のバイト先のラーメンもかなり上手いよな」


「もちろんだ、ここら一帯で一番上手いラーメンだと評判なんだからよ!店長がその分厳しいけどな…」


辰馬たちが今日の夕食の話をしていると長谷川が近づいてきた。


「ねぇ石崎君…今朝の件だけど、能力の良し悪しなんて気にしなくてもいいと思う。探索者にならなければ、そこまで重要でもないもの。言いたいことは、それだけ。また明日ね」


長谷川は言いたいことを一方的に石崎に伝えてから、生徒会室へと向かっていった。


「良かったな、確かにあの時委員長クラスの皆に怒った顔してたからな。随分と大事に思われているようで…」


「そうか…そうだといいな」


「そうそう、だから今以上に勉強頑張ってクラスの連中見返せよ」


(委員長も石崎が勉強苦手なのに精一杯頑張っているところに惚れたんだろうな。早く告白でもすればいいだろうに…切欠がないと無理なのかねぇ)


「おう!頑張るから勉強教えてくれよな」


「はいはい」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


辰馬と石崎はダンジョン近くの商店街エリアに向かう。


「ここは初心者ダンジョンって言われるだけあって繁盛してるよなぁ」


「そうだな。夜になるとダンジョン帰りの観光客も増えてくるからな」


「用心棒とは言ってるが仕事熱心だよな。毎日やってるんだろ?しかも常に木刀持ってるし…」


「そりゃ人命に係わる事案になるかもだからな、俺も真剣だよ。色々恨みも買ってるからな、自衛のためにも木刀は欠かせないさ」


魔力が使える人間が体表にある魔石を壊されると、それまで鍛えてきた魔力が使えなくなりダンジョンに入る前の状態に戻ってしまう。


つまりリセットされ、それまでの金と時間が無駄になるのだ。


ダンジョン外での他者への魔力使用は違法であるし、加害者の魔石を壊すのは当然の権利なのだ。


「お…ここだぞ!」


そこは少し小さいお店で決してお洒落とは言えないが清潔感があった。個人経営のお店ではあるのだが、いい肉を使っているのと立地がいいため予約がないと入れない店として有名だった。


辰馬は店の扉を開け挨拶する。


「どうも~」


奥から夫婦が出てくる。


「お、来たか!平日の夕方に来るのは久々じゃないか」


「そうね。いつもは休日の昼とかばかりなのにね」


ここの焼肉屋は昼営業も行っており、カルビ丼なるものをしているのだ。


弁当でのみ販売しているのに、三十分以内に全て無くなるのだ。


「えぇ、今日は無理言って早めに開けて頂きありがとうございます。友人にお勧めの焼肉店を食べさせてあげたくて!」


「いいってことよ。この程度で辰馬君に恩を返せるなら、いくらでも開けてやるさ」


「そうそう。先日もお客さんが店で暴れた際に迅速に対応してくれて、被害も少なく済んだもの」


ここで暴れた客の能力は圧縮した空気を飛ばすものだった。


一発が壁に当たり、もう一発が奥さんに当たるところを辰馬が防いだのだ。


「いえいえ仕事ですから。それに壁も綺麗に直ったみたいで安心しました」


「それでも、ありがとう!」


奥さんが辰馬に御礼を言い、二人は厨房で肉の準備をした。


辰馬が席に着いたタイミングで石崎が辰馬に話す。


「なんか…今日はすまないな。無理にお店開けて貰ったみたいじゃねぇか」


石崎が珍しく申し訳なさそうな顔をしてらしくなく。


「気にするなって。俺じゃなくて奥さん達に感謝の言葉伝えてやった方がいいかもな」


「おう、それより今は肉だ!肉!」


(なんだかんだ、すぐに調子戻してきたな)

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