第53話 第3S級ダンジョンの新ステージ
このダンジョンは入るたびに違うステージに飛ばされる。今回は宇宙に放り出された感覚だった。実際にそこは真っ暗な空間で降る様な星々が煌めく世界だった。空気という邪魔物が無い為だろう。本当に光が直接目に飛び込んでくるようだ。
俺たちの身体を守るのは無色透明の防御結界だけだ。酸素は自分自身の風魔法と浄化魔法で結界内を循環させている。温度調整も魔法かスキルのみだ。
必要な魔法もスキルも持っていなかったら忽ち死んでしまう環境に放り出されてしまったのである。鬼畜なダンジョンだ。
宇宙といえば無重力。
ちょっと身体を動かすと動いた方向にいつまでも飛び続けてしまう。結界を張って止めようとしても、結界ごと動いてしまうのだ。
【位置固定スキル】
突然そんな考えが浮かんだ。自分自身に常時張っている防御結界の他に移動範囲を制限する立方体か球体の結界を作ってその中に居ればその結界の範囲内しか動けなく出来るのではなかろうか?
試してみた。上手くいった。
あたかも目に見えない宇宙船の中で動いているような感覚だ。
気が付くとメアリーと恵がそれぞれ別方向に飛んでいる。
離れ離れになってしまったら不味い。俺は念話で範囲固定結界を作るように指示した。
恵は即座に対応して止まってくれたが、メアリーはうまくいかないみたいだった。相変わらず俺たちから離れて行ってしまう。
『助けて秋葉さん!どこまでも飛んで行っちゃうよー』
メアリーが焦っている。パニック気味だ。
俺はメアリーまでの長さのチューブ型の結界を作った。
勿論、メアリーの向こう側に蓋がしてある。
『アッ、止まった。行き止まりだったみたい。あれ、今度は秋葉さんのほうに跳ね返されていく、秋葉さん受け止めてー』
このままメアリーを受け止めたら俺も一緒に飛ばされてしまう。そこで俺の後ろにも蓋を作るが、このままでは行ったり来たりの繰り返しになってしまう。
そこで俺は後ろの壁に勢いを吸収する沼ダンジョンのラスボス蟹の攻撃を吸収してしまう泡を薄く張り付けた。完全な透明ではないので、壁の存在を知らせてくれて安心する。
というわけで無事メアリーが宇宙迷子にならずに済んだ。
俺は恵とも合流して2人にも【位置固定スキル】を共有しておいた。
2人は暫く新スキルを使いこなす練習をしていたがとうとうメアリーがしびれを切らした。
「ねえ、このステージってモンスターは出てこないのかなあ?なんか退屈だよう」
確かにその通りだ。このままではどうすればステージクリアになるのかさっぱり解らない。何か変化がないものだろうか?
フラグが立ってしまったようだ。アニメで良く聞く宇宙戦艦が航行するときの効果音がけたたましく鳴り響いた。
音って空気の揺れが伝わって聞こえるものだったはずだよね。真空状態で音が伝わるって嘘でしょ。
『【この空間では真空も含めてあらゆる物や現象がイーテルという源物質で出来ており、この真空もイーテルが満たされています。そのイーテルを伝搬して音が聞こえるのです】』と鑑定結果が出た。
そういえば子供の頃に読んだSF小説で、宇宙はエーテルで満たされているとか見た覚えがある。このステージは似非SF世界なのだろうか?
ところで、宇宙船かと思った巨大な影は怪獣だった。その名も【ギャギャス】
咆哮もギャーギャーギャギャと聞こえる。
真空でどうやって呼吸するのだろうか?
『【ギャギャス】は酸素呼吸する必要は有りません。栄養もイーテルを摂取することで摂ることが出来ます】』すかさず鑑定さんが答えてくれた。
『【ギャギャス】は皆さんの膨大な魔力に誘われて来たようです。食べられないように気を付けてください。討伐すればステージクリアになります。御健闘をお祈りします』
最初に出てきたのがラスボスだった!
そりゃそうか、突然宇宙空間に放り出されて生き抜きぬける者がどれだけいるだろうか?
ならやってやろうじじゃないか。
さあかかってかかってきやがれ。
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