第23話 悪魔ちゃん子供形態
「ルカ・ヴァルデス、只今戻りました」
ヴァルデス伯爵領へ帰還。まぁちょくちょく戻ってはいたのでどうって事は無いのだが、10歳になったので教会に行ってお祈りをしなきゃならん。
領民たちは俺を称え、シエラは飛びついてきて、父上は苦々しい顔を隠そうともしない。そんなに怖がらなくても伯爵位なんて狙わないよ。
翌日、ぱっこぽっこと馬車は行く。殺し合いそうな二人の親子を乗せて。
「貴様、国中で人気を集めて王女とまで縁を作ったらしいな。何が狙いだ」
「父上、そんなに怯える必要はありません。俺は爵位にも、領地にも、他の何にも興味がありません。最早生きるのにも飽きました」
余程予想外の返答だったのか、父上はきょとんと間抜けな顔を晒していた。思えば最初は爵位が欲しいと思っていたんだよな。
馬車が止まり、呆然としている父上を残して教会へと入った。
神父なのかもっと位が上なのか知らないが金をくれてやって奥へと進み、跪いて祈りを捧げる。
(ここまで悪魔との出会いはありませんでした。しかし目星はついています。かならずや悪魔めを討伐してご覧に入れます)
【うむ、励めよ】
励めか、それだけか。やはりここでも心を揺らす物は無かった。
「アリア、スラムに行くぞ。炊き出しだ。その中で目を患った妹がいるガキを探すんだ」
「目を患った?何か目的が?」
「あぁ、それが俺が産まれた理由だ」
悪魔よ、悪魔よ、早く会いたい。お前への憎しみなどとうに消えた。俺の想い人、ただ一人求める者。悪魔よ、悪魔よ、邪悪で強大であれ。
早速スラムに移動して食事を配った。炊き出しと言ったが、実際に渡しているのはホットドッグだ。
何度も食料の配布を続けて行くうちに辿り着いた最適解。調理や保存の手間を考える必要がないので、配布の利便性と美味しさ&栄養だけを考えて行き着いた。
両手にホットドッグを持ってパクついたら人は幸せになるのだ。当たり前だよなぁ!
「動けない妹がいるんだよ!2人分くれよ!」
ビンゴ。
「動けないのか。可哀想に、様子を見に行こう。食料はここに置いていくからな!みなで分けあってくれ!」
たっぷりのホットドッグを置いて住処へと案内させた。そこは狭く不潔で冷たい穴蔵。1桁歳の病気のガキが生き延びられる環境では無い。その中に居たのは目の周りが腫れ上がり潰れた栄養失調のガキ。間違いなくこいつが悪魔だ。
「ちょっと調べるからな、二人だけにしてくれ」
「え?で、でも!」
「安心しろ、すぐに終わる。お前も腹が減っただろう、食事をして戻ってくればいいさ」
「……わかった、変なことすんなよ!」
「はいはい、お姉ちゃんとあっちに行きましょうねぇ。ルカ様、変なことしちゃ駄目ですよ」
「さっさと行け!」
邪魔者は居なくなった。ついに邂逅の時。
「はぁはぁはぁ!悪魔さまぁ!ずっとあなたを求めていました!正体は存じておりますぅぅ!悪魔さま!俺のきゅうせいしゅさまぁぁ!!」
「ヒィウ!」
がばちょと縋りつき、その顔に触れる。これが悪魔様の顔、今まで特に意識していなかったが、そこはかとなく邪悪な感じがしなくもない気が少しするかも。
「治療×50」
目の周りの腫れに触れながら強力な重ねがけ治療をかけた。恐らく悪魔様は自分の力で病気のフリをしているだけなのだろう、今だけそれを上回る事が出来ればいい。
青白く力強い光、目を潰していた腫れが瞬時に取り除かれる。そうして現れた綺麗なまぶたを指で開いた。
「あぁ悪魔さま!やはりあなたが悪魔さま!」
そこには赤く光る魔眼があった。間違いない!悪魔様だ!
「ハァァァァァッ!フゥゥゥゥゥッ!悪魔さまぁ!一日千秋の思いであなた様をお待ちしておりました!さあっ!思う存分に邪悪を行ってください!世界に憎しみを!人に地獄の苦しみを!天に背き!人に仇為してください!!俺が必ずあなたさまを殺して見せます!」
「ヒィィィ!」
「この変態がーーー!!」
疾風のような踏み込みからの足刀蹴り!油断していた俺の横っ腹に突き刺さり!骨を砕き体を弾き飛ばす!
「がぁぁぁぁぁっ!!」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
スラムの貧相な壁をぶち抜いて飛ばされる!あいつ本気で俺を殺す気なのでは!?
「げばぁぁぁぁっ!」
マーライオンの如く血が吹き出る。は、はやく治療せねば、本当に死んでしまう!死にたくない!俺は不滅なのだ!
「二人きりにしてくれというから何かと思えば!こんな少女にいきなり抱きついて迫るなんて何を考えているんですか!」
「ま、待て、理由があるんだ。それに大方の治療は済んでいる」
「メ、メグ!目が空いてるぞ!よかった!よか……あれ?その目は……?」
「いかんな。口を塞げ、アジトに戻るぞ」
「屋敷って言ってください」
一人ずつ抱えて屋敷に戻った。ついに、ついに悪魔を手に入れたんだ!
屋敷に戻って部屋に連れ込んだ。少々汚いが目を瞑ろう。
「話があるから二人きりにしてもらう」
「駄目です。さっき自分が何をしたか忘れたんですか?」
「駄目だ!妹に変な事をするんだろう!」
「バカタレ、赤く光る目を見ただろう。放っておいたら直ぐに元に戻ってしまうし、バレたら殺されるぞ。ここまで治してやっただろう、俺に任せておけ」
「ぐぬぬぬぬぬ!」
馬鹿どもが、俺の行動を邪魔するんじゃない。俺にはやらなくちゃいけない事があるんだ。
目の前には少々痩せすぎの美しい少女。栄養失調も無理やり治療したので最低限見れる状態になっている。
「さて、」
ビクリと震える幼い体。しかしそんな物は擬態だ。こいつこそは前世においてアリアやシエラを殺し、俺に悪意を植え付けて地獄を作り出した張本人。正真正銘の悪魔だ。
「悪魔さまぁ!もう何も隠す必要はございませぇん!あなたの事を知っています!あなたのやりたいことも知っています!さあ!望みを言ってください!あなたの望む世界を作りましょう!俺の望みはあなたとあなたの世界を潰すことだけです!俺が必ずあなたを殺します!だから安心して悪いことをしてください!」
「ヒィィ……あ、あのう、なんで私が悪魔だと?」
「何故?運命だからです。俺はあなたを殺すために生まれました。この世界はあなたを殺すために用意された舞台です。生まれる前からあなたを殺すと決めていました」
「ヒィィィィィィィ!」
「どうしたんですか?あなたは悪魔でしょう?思いの儘に振る舞ってください。何か足りませんか?どうぞ仰ってください。世界の99%まで破壊してくださって構いません」
「あ、あの、はい。私は確かに悪魔です。でも、私にはそんな力は無くて、私に出来るのは」
「出来るのは?」
「人の愛情を食べることだけです」
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