第24話 期待外れの悪魔は浄化!

「愛情を……食べる?」


「は、はい。私は悪魔ですから。悪魔は人の心を食べます。知ってますよね?」

 しらん。悪魔=悪いやつ。それが俺の知る全てだ。


「なので、人を滅ぼすとか、そういうのは出来ないんです。中には絶望を食べる為に争いを誘導したり、憎しみを食べる為に争わせる悪魔もいますけど。私は愛情を食べるので、人間たちが愛情に溢れた平和な世界の方がいいんです」


(ポイント交換発動、嘘看破)

 嘘だ嘘だ、こんなの嘘に決まっている。こいつが全て導いたはずだ、アリアもシエラも殺したはずだ、俺を狂わせた筈なんだ。


「人の愛情しか食べない、だから人を不幸にしたいとは思わないと言うことか?」

「はい、人は幸せな方が愛情を育みやすいですから」


 本当だ。こいつは人の愛情しか食べず、人の幸せを願っている。

 一方で俺は人の感謝しか求めず、人の不幸を願った。真に邪悪なのは……俺?




「お前は、お前は邪悪では無いのか?世界を地獄に変える者ではないのか?」

「わ、わたしはそういうの出来ないです。あんまり力も強くないし、地獄では愛し合う感情はあんまり生まれないですよね?」


 なんという事だ。俺の恋い焦がれた悪魔は小物だった。愛情だと?そんなもの何の価値もない、食いたければ勝手に食っていろというのだ。

 俺は、俺自身が邪悪だからあの世界を作ったのか?他の誰の責任でもない、俺が邪悪だから。アリアもシエラも、俺が邪悪だから見限ったのか?


 人の頭が入ったカプセルが、海すら埋め建てた地上全てに敷き詰められた世界。あれが俺の原風景だというのか?

 憎しみに満ち、永遠の争いを続ける世界が俺の望み?


 そういう事か。分かった、悪魔を滅しろと言うなら滅しよう。そして、俺自身も。


「悪魔よ、お前に罪はないのかもしれない。だがお前をこのままにするわけには行かない。俺と共に浄化しよう、お前が邪悪な者でないなら消えることはない」

「じょ、浄化ですか?」

「そうだ、浄化を受けるなら殺しはしない」

「わかりました、お受けします」

 受けた言葉に嘘はない。こいつ教会での浄化を想像してるんだろうな。甘い、残念だがこちらには大天使がいるんだよ。


「アリア、シエラを呼んできてくれ」

「ふぁえ!?」

「盗み聞きしているのは分かってる、さっさと行ってこい」

 さっきも盗み聞きしてたのにバレないわけないだろ。



「最後に聞きたい。俺に愛情はあるか?愛情を食べられた人間はどうなる?」

「愛情の欠片も見えません、私は食べていないのにどうして?食べると愛情の根が無くなるので人を愛せなくなります。でも、愛されることは出来ますよ。人は愛されると嬉しいものなので、一方的な愛情であっても擬似的な相思相愛は可能です」


 人を愛せない人間が力を持ったらどうなるか、今更考えるまでもない。

 愛情しか食べない優しい悪魔……か。




「お兄様、お呼びですか」

 来たか。悪魔よ、期待外れの悪魔よ、真に邪悪なのはどちらか。今から証明しよう。


「シエラ、とても重要な話だ。信じ難い事だろうが、真面目に聞いてくれ」

「は、はい!」

「この少女の名はメグ。悪魔憑きだ、人の心を食べる悪魔。俺もこいつに心を食べられてしまった。シエラ、俺達のために祈ってくれ。俺達を浄化してくれ。お前にはその力がある」

「えぇぇ!?お兄様食べられちゃったんですか!?」

「え、え、まだ何も……」

「そうだ、俺も邪悪な存在になってしまった。だがシエラの祈りがあればきっと浄化できる。二人の為に祈ってくれ」


「信じられません……、あ、悪魔なんて……」

「のっぴょっぴょ~ん!アホになっちゃった~!」

「お兄様!?」

「にんじゃりばんばん!にんじゃりばんばん!」

「あぁルカ様がアホになってしまっている!シエラ様!私も手伝います!祈りましょう!」

「わかりました。お兄様、メグさん、悪魔になんて負けてはいけません。共に生きましょう!」




 そうだ!さっさとやれ!

 二人が手を組んで祈る。私欲の欠片もない、ただ俺達の為だけの清らかな祈りが捧げられた!


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!ば、ばかなぁ!?なぜぇぇぇぇ!?」

 悪魔に痛恨のダメージ!どうだ!これが大天使の祈りだ!


「うごぉぉぉぉぉ!!お、俺の魂がぁぁぁぁぁ!やけるぅぅぅぅぅ!」

 俺に極大ダメージ!煉獄の浄化から逃げ続けた罰が今!


「お、お兄様!?」

「大丈夫だ、続けてくれ!俺の魂は不滅!必ずこの試練を乗り越えてみせる!」

「お兄様流石です!二人共頑張ってください!」

「あがががががががが!」



 苦しい!だが俺はこれを耐えて生まれ変わるのだ!

 鷹の選択と言うものを知っているだろうか?彼らは長い寿命を持つが、その途中で爪や嘴が痛んで使い物にならなくなってしまう。

 そこで、自ら爪を砕き、羽を抜き、嘴すら棄てた者だけが、新しい武器を得て残りの半生を生きる事が出来ると言うものだ。

 しかしこれは真っ赤な嘘である。よい子のみんなは騙されないようにな!


『ぎぃぃぃぃぃ!やめ゙ろ゙ぉぉ!』

 悪魔の体が大きくなっていく!牙をむき恐ろしい姿を見せた悪魔!やはり擬態だったな!真に邪悪なのは貴様だ!

「いけません!心を強くするのです!」

 シエラの祈りの力が更に上っていく!


 にょろ、にょろろ。

 い、いかん!俺の魂がぁぁぁ!抜けそうになっているじゃあねぇか!!


「シエラ様!ル、ルカ様の方も頭から何か出てきましたよ!?」

「アリア、お兄様なら大丈夫!信じましょうお兄様を!」


「あぎゃあぁぁぁぁぁ!し、死んでしまう!!」

 にょにょにょにょ、にょろ~ん

「何か抜けそうになってますけど!?」

 死ぬ死ぬ死んでしまう!ポイント交換発動!道返しの玉!恒河沙の珠!反魂香!何でも出てこい!俺を救えぇぇ!


『よこせぇぇ!それをよこせぇぇぇ!』

「てめぇはこれでも食ってろ!」

 塩!施餓鬼米!ニンニク!桃!初鰹と鯛もくれてやるぞ!


「さ、さかな!?お魚が出てきましたよ!?お塩が振られてます!」

「アリア、今は祈るのです。きっとお兄様には考えがあってのこと!信じています、お兄様ぁ!」


「ぐぎゃぁぁぁぁぁ!」

『あぎゃぁぁぁぁぁ!』


 魔を滅するは清らかな祈り。少女の祈りは2体の悪魔を焼き続けた。





 それから数十分後。

『ぐ、ぐががががが!ギャバァァァ!』

 遂には悪魔が力尽き、小さな少女の姿へと戻った。浄化されたのだろう。

「か、勝った!勝ったぞぉ!」

 勝利だ!周囲には色々なアイテムが転がっているが知らん。不正はなかった。俺の心は浄化に耐えたのだ。耐えてよかったのか?しらん、死にたくない。


「流石ですお兄様!」

「ルカ様心配しましたよぅ!」


 二人がしがみついて来た。柔らかい感触、ふわりと香る甘い香り。

 改めて見ると二人共すごい美少女だ。シエラは妹ながら完璧な貴族令嬢、アリアはすっかり出るところが出てたまらねぇぜ!



「でゅ、でゅふ。二人共もっとくっついていいぞ。でゅふふ」

「え、は?きもちわる……」

「シエラ様!きっと偽物です!悪霊退散!!」

「ぐぼぉぉぉ!」




 俺は何か大切な感情を思い出し、見事な水月突きを受けて再びその感情を捨てた。

 とにかく、悪魔の問題は終わりだ。こんなはずじゃなかったんだけどなぁ。

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