第22話 悪魔崇拝

 アリアを専属メイド改め従者とし、母親を治療してやった。まぁこれは既定路線だな、これからの働きに期待する。


 前世までの記憶では、この後の大きな出来事は10歳になってからだ。

 10歳になって教会に行って地獄と通信し、ポイント稼ぎに必死になってスラムであのガキに出会ったのが最初だった。

 悪魔なんてあのガキに決まってんだろ、あの妹の方だ。

 治療が効かない、完全回復を使って癒やしてやっても喜びもしない。あいつを回復させるからおかしくなるんだ。

 まぁ10歳になるまで好き勝手やるぜ。






 5歳児俺、旅立つ。

 国中を回った。盗賊に襲われた馬車を助けたら中に美少女お姫様がいたり、盗賊に襲われた村を助けたら猫耳美少女がいたり、盗賊に襲われた商隊を助けたらボロボロの美少女奴隷がいたりした。治安悪すぎだろどうなってんだ、そんで美少女配置されすぎだろ。


「襲われてる美少女多すぎて笑うよな。アリアも美少女だったらよかったのになぁ」

「嫌ですよあんな風に襲われるのは」

「それもそうだ。美少女も大変だな」



 2年もしたら国内に行きたい場所が無くなった。

 退屈だ。俺には無尽蔵の蓄えがある、強さも技術もチート由来、いかな発明も意味を為さない。俺自身のちっぽけな願望なんて、チート能力によりすぐに叶ってしまう。

 帰りたいなら転移する、若返りも自由、魂が輪廻していなければ死者の蘇生すら可能だった。


「退屈だな。そうだ、姫さんを利用して隣の国に攻め込んでみるか。きっと人々の剥き出しの感情が俺を楽しませてくれる」

 これはいい考えだ。踊れ、俺の退屈を紛らわす為に。その生命の輝きを俺に見せてくれ。


「ばかーーー!!」

「へぶぅぅぅ!!」

 張り手!しっかりと手首を固めた強烈なやつだ!下顎骨粉砕!頸椎捻挫!網膜完全剥離!吹き飛んで乾いた雑巾の様に転がった。

「頭痛がする、は…吐き気もだ…くっ…ぐう。このルカ様が……」


「駄目ですよルカ様、またイッちゃってましたよ」

「このアマァァァ!」

 クソが!加減しろ!!だがよくやった。


 アリアには俺に対抗する力を与えた。俺が新たに能力を行使しない限り俺より強い。彼女はまだ10代前半だが、成人したらそれ以上歳も取らない。ある意味過酷で悲惨な運命だが受け入れてくれた。俺の大事なストッパーだ。



「退屈はよくないな、他の国でも行くか」

「私海に行ってみたいです。どこまでも湖が広がっていて、全部塩水なんですよね」

「うん、そうだな行こうか」


 反重力エンジンを積んだ宙船で海へ飛んだ。

 気晴らしの旅行、この国の国民の殆どが生涯に一度も目にすることの無い海。それすらほんの1時間も待たずに着いてしまう、こんな旅に飽きてしまっているのは俺だけじゃないだろう。




「おっきいですねぇ」

「そうだな」

 海。そりゃまぁでかい。ただの海だ。


「潜ってみようぜ。ポイント交換発動、水中の行動」

 能力を発動し、検索ワードを設定する。現れた一覧の中から、水中移動・水圧耐性・水中呼吸を選んだ。自由に泳ぎたいからこんなもんかな。


「ふわぁー!」

 海の中。綺麗な海だ、視界は良好、魚の群れが移動し、桃色珊瑚が手を振ってくれた。

「すごいすごい!」

 小さな少女のように大喜びするアリア。いや実際に少女なんだ。


 羨ましい。若く新鮮な感情。すごく綺麗だ。一方で俺の心は錆びついて動かない。

 自分の劣化を突きつけられた気がした。既に数千年を生きたお前の魂は消費期限切れなのだと。

 チート能力を使って自由に行動しても、俺では楽しい物語を作れない。アリアが止めてくれなければ三度この世に地獄を作り出してしまうだけだ。



 あぁ悪魔よ。お前は錆びついた俺の心を動かしてくれるのか?

 願わくば飛び切りの悪であってくれ、世界を滅ぼす悪であってくれ。

 俺の代わりでいてくれたなら、俺はお前を滅ぼす正義でいられるから。




 それからも宙船に乗って旅を続けた。

 飢餓に苦しむ国を救い、長く続く戦争を終わらせ、竜を退治した事もある。

 沢山の人が俺を称えてくれる。だがどんな感謝の声も俺にとってはただのポイントでしか無くなっていた。10万ポイントで出した食料を、100万ポイントの感謝に交換した。ただそれだけだ。


「虚しい。そう思わないか?」

「全然思わないですね。ルカ様がみんなを救って、みんながルカ様に感謝する。とっても誇らしくて嬉しいです」

 綺麗な笑顔だ。チリチリと俺の魂が焼かれる。いつまでこいつと共に居られるだろうか。俺の魂はもう限界だ。


 悪魔よ、俺を救ってくれ。悪魔よ。




 この世に生まれ落ちて10年。ついに待ち焦がれた悪魔と出会う歳になった。

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