新章

第21話 適当に生きる男

 感謝のありがたさ、特に純粋な気持ちからの感謝の力は今までにたっぷり思い知った。

 そして、恵まれた環境においてそれが生まれる事の希少さもな。

 だからこそ転生してすぐに受けた無償の愛は俺の心を蕩かした。


 考えてみればこれまでは転生しても自分の事ばかり考えていて可愛く無かったんだろうな。母上には半分捨てられた様に思っていたが、俺の方が生まれた直後から母上を捨てていたようなもんだったんだろう。

 愛を求めて縋り付く俺に対し、母上は躊躇いなく愛を示してくれた。

 これが愛。なんと素晴らしいものなのか!俺は愛に生きるぞ!



 それから5年後。

「あんたさぁ、そろそろ独り立ちしない?私もうお金溜まったし、ここ出てだらだらしたいのよね」

「母上さぁ、5歳児に何言っちゃってんの?頭大丈夫?」

 愛とかクソ、はっきりわかんだね。



 父上とは何度か面会したが、相変わらずの無能悪役貴族っぷり。兄はクソ外道で、姉は無力感で泣いてばかり。母上は怠惰で正妻達は諦めの無関心だ。


 俺は前世と同じく、いやそれ以上に自らの力を高めて領内を回っていた。

 俺の武威は領内どころか国中に知れ渡っていることだろう。多くの者が俺を指導するだの剣の世界を見せるだの言ってきたが、全て容赦なく打ち据えた。


 宴会だの感謝だのに興味は無い。特に意識しなくても魔物を殲滅し悪党を退治すれば充分だ。

 何かあれば率先して戦った。どんな戦いでも先頭に立つのはこの俺だ。

 腹を空かせた者が居れば飯を食わせ、怪我をした者は癒やし、病気を患った者は養生させた。全ては俺のため。俺の力を高め、悪魔を殺すため。

 俺は狩人だ。悪魔を狩る狩人。人心や快楽など興味が無い。ただ力を高め、魔を滅するのみ。


「流石です!お兄様!」

 まだ4歳のシエラが目をキラキラ光らせてかっこいい俺を見る。

 ふっ……………………うぎゃぁぁぁぁ!!魂がぁ!魂が焼ける!浄化の光がぁぁ!!

 どったんばったん大騒ぎ!俺は格好つける事をやめた。



 うーむ、これが俺のストッパー役か。俺ってこういうのが無くなると突っ走っちゃうのかな。

 もっと気楽に行こう。清濁併せ呑み、便利に豊かに楽しく生きるのだ。

「シエラ、ほら飴を上げよう。沢山上げるからみんなに分けてあげるといい。ありがとうって言ってもらえると嬉しい気持ちになるからな。みんなが幸せになれるんだよ」

「うん!ありがとうお兄様!」

 満面の笑顔を見せるシエラ。やめろ殺す気か。


「みんな幸せ、か……」

 まぁ、それでいいんじゃねぇかな。どうせ完璧な世界など無いんだ。俺が俺のチート能力で俺の周りだけを幸せにする。その結果地獄に落ちようとも、最早大した問題ではない。怖いものなんて無いぜ。



「母上コラァ!幸せにしてやるぞオラァ!」

「何よ煩いわね、だったらもう独り立ちしてよ」

「ところで、この冷房装置を見てください。こいつをどう思う?」

「すごく…涼しいです……」

「こちらのアイスティーをどうぞ。これは冷蔵庫です、いつでも冷たい飲み物が楽しめますよ。チョコレートはいかがですか?」

「こ、これは一体なにごとなの?」

「今まで隠していましたがこれが私の力です!はいドーン!10歳若返りました!これでも俺を捨てますか?」

「えええええええええ!!私の息子最強ーーー!!」

「勝ったぜ」


 これでいい。自重もしない、無理に感謝を集める必要もない。俺のやりたいようにする。

 チョコレートを口に放り込む母上の肩を揉みながら自分の成長を感じた。

「ド腐れ父上も何とかしましょうか」

「あぁアレね、愛した事はないしどうしようもないクズなのよね。伯爵の夢を棄てさせれば目も覚めるんじゃない?」


 ふむ、いやいっそ伯爵にしてまえばいいのでは?

「伯爵になってしまえば特に何も出来ないのでは?」

「絶対搾取するわよ。お金も浪費するし」

「ふーむ、難しいですね」

 うーん、うーん、わからんな。大体俺政治とか知らんし。

「あ、そうだ」



「義母上ー!」

「な、なんですか!ここはお前が来ていい場所ではない!」

「はいドーン!15歳若返りました!」

「な!?か、体が軽い!?」

「こちらをお収めください」

 金塊がドゴンドゴン!

「な、な、お前は一体!?」

「今まで隠していましたがこれが俺の力です。若返りは他の人にも施せますよ、義母上に跪く者への祝福です。これらを使って義母上達で伯爵家をコントロールしてください、父上はクソなので。後姉上たちもよろしくお願いします」

「任せなさい!」

「ヨシ!」



 これで父上の問題は片付いたな。父上は幸せになれない?若い奥さんの尻に敷かれて幸せに目覚めるんじゃないか?放っておいたらどうせ謀殺されて地獄行きなんだから随分マシだろう。


「兄上コラァ!」

「なんだ貴様!」

「学園に行く前に俺が叩き直してやる!ドラドラドラァ!!」

「や、やめろぉぉ!!」



 こうして俺は伯爵家の環境を整えた。

 家族の雰囲気は柔らかく、色々と余裕の出来た母上達はいつもニコニコしていて使用人たちにも優しく評判が高い。

 兄上達は毎日叩き伏せられ、自らの弱さと向き合い始めた。

 父上は何も変わっていないが、誰にも相手にされなくなって騒いだ事で母上達にボコられていた。



「み、見習いメイドのアリアです!よよよ、よろしくおねがいします!」


 ここからだ。悪魔?アイツに決まってんだろ。舐めた真似をしてくれたな。

 悪魔への特効兵器は掌握済みだ。

 今の俺に隙は無いぜ。

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