第7話 邪教の館

(そんでさ~、奥様方の底無しの欲望にあてられちゃってよ~)

 奥様方大騒ぎの後の深夜。馬小屋に癒やされに来た。


「ぶひん(へぇ、人間の雌ってやべぇんだな)」

(う~ん、中にはお前らみたいに仲間が救われて喜ぶやつとか腹が膨れて十分って奴もいるんだけどな~。ほんとに恐ろしいものを見たよ)

「ひひぃん(まぁゆっくりしていけや。俺等はりんごくれたら十分だからさ)」

 優しいなぁ馬。俺もう馬でいいよ、人間怖い。


(あぁそうだ、明日はお前ら全馬掻っ払って家を出るからな。人を運ぶの頑張ってくれ)

「ぶひん!?」

(向こうに着いたらこんな狭い所じゃなく広い場所でノンビリ出来るし、飯の心配もいらないし、メス馬も探してやるからな)

「ぶひひぃぃぃん!ぶふふん!(おいいぃぃぃ!まじかぁぁ!おいみんな聞いたか!自由になるぞ!メス馬は俺の物だ!)」

「ぶひぃぃぃ!」

「ふんごふんご!」

 はぁぁ、ここにも欲望が渦巻いてるな。まぁポイントも入ってるし、欲望を満たしたらまたポイント貰えるんだけどよ、俺も何か自分の欲望を持たないと駄目かなぁ。


 考えてみりゃ俺自身に目標が無いんだよ。何が欲しいかって考えても浮かばねぇ。

 宝飾の類はいらん、身に付けるものは快適ならそれでいい、住む場所もそうだな。

 もちろん飢えるのは嫌だし不便なのも嫌、病気も怪我も嫌だし死にたくない。

 マイナスは嫌だけど大きなプラスは要らないって感じだな。んで使命として感謝だけ集めりゃいい。

 真面目に集めてさえいれば無理やり殺されたりはしないだろ。不老は実現できるんだから、無茶する必要もない。

 権力いらね、嫁も子供も興味ない、人に傅かれるのも苦手だ。特に趣味もない。


 スローライフか?いやFIREかな。仕事せずにだらだら……、まぁ、これは悪くない……、いややっぱこれ何もしたくないだけだな。


「俺の目標、やりたいことか……。なんもねぇや」

 無いなら探すか。そうだな、探そう。

 今までちまちまポイント貯めて大人しくてしてたが、もうそれは終わったんだ。






 翌日。よく晴れた空が眩しい。

 悠々と朝飯を食い、出立の準備を進めている。

 昨晩は使用人や馬達から合計500Pほどのプラス。そして奥様方から6000Pほど手に入れた。

 大量の宝飾品と共に魔法の収納バッグも渡してある。あれがあれば準備は早いだろう。


 馬車は拝借する。馬もだ。指輪にホムン荷馬車が入っているが今回は保留。

 警備兵を通じでスラムの連中は集めてある。

 警備兵を二人だけスラムの連中に付け、残りと聖騎士のリブラは呼び戻した。

 ポイントさえ沢山あれば聖騎士と騎士を並べて立派な馬車で出立するんだが、昨夜沢山稼いだと言っても1万ほどしかない。

 色々考えたところで、結局ポイントをせこせこ貯めるしか無いのだ。



 さてさっさと家を出よう。

 父上は朝からグランパのところに出勤しているので、奥方を取り締まる二人が馬車の手配をするのは簡単だった。普段であればそんな事をすれば父上に伝えられて折檻があるのかもしれんが、もうそんなの関係ないし。

 開き直った一同は必要な物を容赦なく掻き集め、馬も全て連れてきた。父上の馬車も帰ってきているので当然いただく。


「準備はいいな。目的地は南の城塞跡、休憩しながら直行する。夜には盗賊を急襲して我らの支配地とする。まずは保護したスラム住人と合流する。行動を共にしたいものは何人でも受け入れるが、範を乱すものと行軍に着いて来れない者は排除だ」

「はっ!」

「それでは…」

「おいっ!なんだこれは!?」


 あ、あいつら忘れてた。

「兄上、俺達は家を出るので自由にお過ごしください」

「あ?家を出るなら全部置いていけ!」

「知るかボケ」

 腹に蹴りをぶち込んでお話終了!坊っちゃん貴族相手に何も特別な物なんて必要ない。いつでもこうする事ができたクソ雑魚である。


「お見事です」

「ありがとう。そうだ、ついでに姉上も連れて行くか」

「お姉様達もお誘いしましたが駄目でした。もう婚約しているからと」

「婚約と行っても侯爵のじじいの所に売られるだけだろ。財産扱いされてるんだし掻っ払っていこう。リブラ着いてきてくれ」

「はっ!」

「えぇ…、いいんでしょうか?」

「知らん」


 姉上達の部屋を蹴破って抵抗する二人を確保した。更に使用人が3人追加。こいつらを連れて行くのはただの嫌がらせである。

 ついでに屋敷の中の金目の物、使えそうな物は全て魔法のバッグに仕舞い、抵抗するものはリブラと警備兵が叩き伏せた。


「今度こそ出発だ」

「出陣!」



 箱馬車3台と幌馬車2台、馬は全て普通の生物、立派な聖騎士と警備兵8人での出発。

 町に出てすぐに警備兵に守られたスラムの連中と合流した。相変わらず小汚く、母達は馬車から出てくる事もなかった。

「お、おい!待ってくれ!妹が凄く元気になったんだ!ありがとう!ありがとう!」

「ほう。いいぞ、感謝は素晴らしいものだ。ほれ、この飴を持っていけ。疲れたらこれを舐めて頑張って歩け」

「ありがとう!お前はいいやつだ!」


 飴を受け取るクソガキをじっと見つめる貧民ども。だが違うよな?

「お勉強の時間だ。あいつが貰えてお前たちが貰えない理由は何だ?」

「え?……」

「あ、ありがとうございました!ご飯美味しかったです、今日も連れて行ってくれるのありがとうございます!」

「そうかそうか、ほら飴を持っていくといい。頑張って着いてこいよ」

「ありがとうございます!」

 よし、馬鹿ばかりという事も無いようだ。


「ありがとうございます、飴ください」

「私もありがとうございます、こっちも飴ください」

「いいだろう、今回はお勉強だからな。しかし次は何人が貰えるかな?なぜお前たちが選ばれたか、どうすれば貰いが多いかよく考えろ」

 学べ。俺の役に立て。ただ感謝するだけでいいんだ、そうすれば望む全てを与えてやる。



 昼休憩は野原で行った。

 母達と使用人には簡単な風よけと日除け、大きなテーブルと綺麗に並ぶチェア。テーブルの上いっぱいにご馳走を並べ、一番に食事を始めてもらう。

 伯爵家であってもそうそう出来ない贅沢、見たこともない食材、明らかに手のかかった料理達。みな声を上げて感謝してくれた。これからの生活への不安も少しは軽減されたことだろう。

 スラム住人には前回と同じ糧食だ。これでも十分なご馳走である。


「見ろ、あちらの奥様方を。お前たちよりずっと価値のある物を食べている。何故だと思う?身分が違うから?何か仕事をしたから?違う、答えは飴の時と同じだ。最初は俺が施した、お前たちがそれに対して反応し、それがまたお前たちに帰る。こんな風にな」

 妹を助けてやったクソガキの前にホールケーキを丸ごと置いてやる。1つ20P、たっぷりの生クリームとイチゴ、間には桃やキウイも入っているスタンダードなやつだ。

「食え、だが分けていいのは妹だけだ」

「いいのか!?すげぇ…こんなの……ありがとう!ありがとう!」

「こちらこそありがとう。遠慮せず食え」


「お前らそんな目で見るな。羨ましいか、恨めしいか、だがそんな気持ちになる必要はない。これはお前たちにも与えられる物だ。必要なのはただお前たちの気持ちだけ。分かるだろう?今晩、綺麗な寝床とご馳走を手にするかどうかはお前たち次第だ」



 貧民たちを煽りまくった。もっと望め、欲望を肥やせ、俺に感謝を捧げろ。お前たちはただ救われたんじゃない、仕事を貰ったんだ。感謝する機械となれ。

 休憩の度、飲食物だけでなく魔法の水洗トイレも出した。一々使い方を説明するのが面倒だったが、拠点も綺麗にしたいしな。これもやはり奥方と使用人からとても感謝された。貧民の方は困惑が大きいようだ。



 そんな贅沢な休憩をしていた為、目的地に着いたのはもう日も暮れた後だった。

「なんだてめぇら!ここが俺達サンセット・ジャイアント・ブラザー&シスターズサティスファクションの居城と知らねぇのか!」

「知らん、撃て」

「撃てぇ!」

 一斉射撃。ゴム弾だからまぁたぶん大丈夫だろう。もっと安全で使いやすい非殺傷兵器もあるんだが、これが単純で安かったんだ。

 倒れた賊にはスタンガンで追撃してから貧民達に縛り上げさせた。警備兵達は機敏な動きを見せ、走り回って賊を無力化していく。逃げ出す者もいたが圧倒的な速度と精密射撃で仕留めてみせた。

「リブラ、素晴らしい働きだ。今はまだ余裕がないが、望みを考えていてくれ。部下達もだ、必要な限り働きに応えたい。今日はありがとう」

「はっ!ありがたき幸せ!」



 もうさっさと食事を取らせて休ませたい。だがまずは盗賊共だ。

「さて、時間がない。尋問は明日以降にするが、その前に簡単な問いに答えてもらいたい。生きたいか、死にたいかだ。今回は特別に選ばせてやるから感謝しろ」

「けっ!こんなクソガキが頭か!クソ貴族が!」

「指三本落とせ」

「ま、まて!うぎゃぁぁぁぁ!」

「生きたいか?死にたいか?」

「殺せ!殺しやがれ!」

「分かった。こいつらを指一本動かせない様に頑丈に縛りなおせ。このままここで餓死させる」

「ちくしょう!クソ野郎!!」

「散々殺してきたんだろう?俺に逆らうとどうなるかの見せしめに丁度いい。俺の為に死んでくれてありがとう」

「待ってくれ!俺は死にたくない!助けてくれ!」

「ん?じゃあ2日後にまた聞くから頑張って生き延びろ。喉乾くから叫ばない方がいいぞ」

「なんだと!助けるんじゃねぇのか!」

「助けてやる、3日後に聞きに来る。騒ぎたいなら騒いでいいぞ、いい見せしめだ」



 まぁあんな連中はたっぷり苦しめてからの方が感謝が引き出せるだろう。死んでも惜しくない。

 皆を待たせているので急いで砦の状態を調べた。

 盗賊たちが生活をしていただけあってどこも汚い。砦の基礎は使えそうだが、放棄されているだけあって手入れしないとひびが酷いな。

「お兄様、こんな所に住むんですか?」

「これは手直しが大変そうですねぇ」

「大丈夫だよ、新築より安く済むからここを利用するだけだ」


「ポイント交換発動、目の前の砦のリフォーム、住み心地重視でお任せ」

 おまかせリフォーム 5686P


 これでいいだろ。素材とか配置とか一々考えるの面倒くさい。ぽち~。



 スキルを発動させると夜の闇より濃い闇が砦を包む。もっとこう、光りに包まれるとか出来ないのかな?

 ぐぉぉん!ぶぃぃぃぃん!ドガガガガ!

 何やらすごい音が聞こえるんだが、これガチでやってたりしないよな?地獄の獄卒のヘイト買ってるとか無いよね?とりあえず、作業員の皆様ありがとうございます。


 騒々しい工事はわずか5分で終了。立派な黒い城壁の砦となった。

 中には何に使うのか分からない尖塔なども建っており、なんか魔王が住んでそうな城に仕上がっている。住み心地重視とは?




「ここが我々の新しい拠点になる!まずは飯だ!お祝いだぞ!!」


 暫くは拠点整備に力を入れよう。奥方連中の欲望の闇に財宝を投げ入れ、使用人の希望を聞き出し、貧民に教育だ。

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