第6話 貪欲
「兄様が返ってくる・・・だと?」
兄弟について説明しよう!我が兄弟は全員カス!説明終了!
「はい、噂では学園で平民の男性相手に下らない嫌がらせを続けた挙げ句、決闘を申し込んでボコボコにされた上に婚約者も奪われて退学になったそうです」
「負けた後の悪役貴族じゃん」
「先触れが届いて大騒ぎで準備してます。ルカ様も着替えて出迎えのご準備を」
「着替えまではいらないよ、流石にもう伯爵家を継ぐことは無いでしょ。そもそもまだグランパが頑張ってるし」
「また揉めますよ?」
「いいよ、僕はもう戦力を手に入れたし覚悟も済んでるんだ。ごちゃごちゃ言うなら叩き潰す」
「そうですか、その方が面白そうなので賛成です」
今更兄なんてどうだっていいのだ。何故なら兄は俺に感謝をするような男ではないから。
夕方、夕食の準備をしている最中に長男のアドルフと次男のヨセフが共に馬車で帰還した。なぜ二人セットなのか?素行が悪いからセットで放逐されたらしい。カス過ぎて草。
使用人たちが屋敷の前に並んでお出迎え、母上達や姉妹は屋敷の中、父上は自室待機、俺は屋敷の前組になったわけだが当然無視した。
そしてその日の夕食時。
「お前、なぜ挨拶に立たなかった!」
「アドルフ兄上、勉強の時間だったのです」
「貴様ぁ!妾の子供の癖に無礼だぞ!」
「はぁ。ヨセフ兄上、ご指摘ありがとうございます」
貴族の跡取りとしての価値を失い、学園も退学となり、支えてくれるはずの婚約者の家との繋がりも失った。自分たちが無価値なカスという事を全く理解していないようだ。
「貴様、最近チョロチョロと動いているらしいな?二人共、少し稽古をつけてやれ。死ななければよい」
「はい父上!」
「お任せください!」
父上もカッスで笑える。母上は食事を一緒にしないが、義母二人は心底ウンザリした顔を見せている。こっちも離縁するんじゃね?ちなみに姉が二人いるが、二人共婚約済み(実質売約済み)であり、全てを諦めた顔をしている。
稽古と言う名の折檻は明日の昼から。覚悟をしておけと言ってきたので感謝を返しておいた。
「やっぱりこうなっちゃいましたね。どうするんですか?」
「うむ、ひとまずそれは置いといてだな。僕は、いや俺はもうこの家を出ようと思う。アリアも付いてこい」
「えぇ~~?アテはあるんですか?」
「以前から調べていたんだが、ここから丸一日程の位置に使われていない古い要塞があるんだ。そこに盗賊だか傭兵くずれだかが住み着いていて討伐の請願が出されている。当然無視されてるから、そこを奪って根城にするんだ」
「それって盗賊に成り代わるだけでは?」
「何を言うんだ。俺は感謝さえあれば何だって出来る。砦は綺麗に改装され、毎日働かなくても美しく、精強な兵士、美味い飯、病や怪我を恐れない生活が出来るぞ。まぁ嫌ならいいんだ、ここでカス共のパワハラを受け続ければいい。兄上も帰ってきたからセクハラも楽しめるぞ!子供も出来るチャンスだ!」
「やめてくださいよ!わかりましたー!いきますー!」
「よしよし。ではシエラに今晩隙を見て部屋に来るように伝えてくれ。それとお前が信頼出来る使用人もな。馬達は全部掻っ払うぞ、馬丁はいらん」
「はぁぁぁ、本当に大丈夫なんでしょうか」
「お前が俺に感謝し続ければ一生食うには困らないぞ」
「え、いきなりプロポーズですか?きも……」
「気持ち悪いのはお前の頭だ!さっさと行け!!」
「ルカ様がグレた~!」
アリアとシエラは俺のスキルを知っているからな、連れいくのは確定なのだ。
その辺の事情を口に出す気はないが、置いていくなら記憶を失わせるくらいは必要になる。しかも今はポイントが枯渇しているから、場合によっては殺すしか無くなるんだ。
なんとかしてシエラを説得しなければならない。
「お兄様家を出るんですか!?私も連れて行ってください!」
「オウ、そーいーじー」
「お兄様の行いを見て確信しました。ヴァルデス家は間違っています。領民を助け、共に生きる事こそが貴族として成すべきことなのです!」
「?」
「私は家を捨て、お兄様と共に民の為に生きたいと思います。それがきっと正しい事なのです」
「???」
なんかよく分からんが付いて来てくれるらしい。だが民の為?それはひょっとしてギャグで言っているのか?
この後シエルは母親の説得にも成功したそうだ。離縁して家に帰りたいが、妨害は確実だし最悪暗殺されるまで考えていたようである。シエラは快適生活をアピールしていたが、途中で逃げる事を算段しているんだろう。
シエラの母親である第2夫人と実家筋の使用人、アリアの使用人仲間二人だけ、馬10頭がチームに加わった。
「冷たいわね、母も連れて行ってよ。こんな落ち目の家は嫌よ」
「はい」
「私には発言権は無い、息子達は私の言うことなんて聞きもしない、夜会どころか昼間の茶会にすら出掛けられない。ほとほと愛想が尽きました」
「はい」
母上と第1夫人まで参加する運びとなりました。
なんなの?兄はヒーロー物の悪役貴族で、父上は恋愛物の悪役貴族なの?戻ってこいと言われて「もう遅い!」とか言わないと駄目なの?
時期伯爵夫人の立場を捨てて盗賊の棲家強奪に参加するって正気ですか?一体どういう説明をしたんだよ。
俺の部屋には付いていく使用人も併せて10人以上がひしめき合っている。もう隠せる状況じゃねぇよ、夫人と妾の三人が集まってるだけでもおかしいんだ。
開き直って広くもない部屋に椅子と机を並べてお菓子を出した。猫足のオサレな家具と見目麗しい現代ケーキ、珍しいインド産の茶葉を淹れて全員に振る舞う。使用人も含めて全員だ。
既に一蓮托生というのもあるが、とにかくポイントを稼がにゃならんのだ。今のままじゃ警備兵一人だけ、馬車は実質ただの荷車である荷馬車1台だけ、とても足りねぇよ。今から稼げるだけ稼ぐぞ。
「凄い!凄いわ!こんなに素晴らしい物を持っていたのね!」
「これからはずっとこれを味わっていただきたく」
「まぁまぁまぁ!」
「お母様方、お兄様は人に感謝されるのが大好きなの。沢山感謝すれば沢山の物を返してくれるのよ、ただ感謝さえすればいいの」
「えぇ?それじゃあプレゼントを貰って感謝をしたら、その御礼にプレゼントを貰えるっていうこと?」
「Exactly ! その通りでございます」
現れる花束、この世界には無い豪奢で色とりどりの薔薇の束だ。
美しい宝石、この世の物ではない艷やかな生地、香しい香木。言われるがままに生み出した。
花は少々高いが、石は安い。こんな物は人間が勝手に価値を信じているに過ぎないからだ。
次々と品物を出しながら、俺は恐ろしい化け物と対峙している気分だった。彼女たちに悪意は無い。そしてその欲には限界が無い。
俺の差し出す物に感動し、感謝を捧げてくれる。大きな感謝、そして一向に減らない感謝。
両の手を超える指輪を持って何をするのか?美しい花はもう飾る場所が無いだろう?その生地で何十着のドレスを作るのだ?
間違えていた、虐げられた弱者こそが強い感謝を示してくれるのだと勘違いしていた。
彼女達こそが真のパトロン。底が抜けた闇。俺はその闇に向かって、彼女達の希望に叶う品を投げ込み続けた。
彼女達はお互い競う様に品を注文し、それを手にとって歓喜した。
悍ましい。だがこれが俺の望むもの………。そうだろう?
増えるポイントを眺めながら冷めていく心。
暗い闇の中で、くしゃくしゃに潰れた泣き笑いの笑顔を思いだしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます