第5話 バラマキ政策
さて俺の貰った天稟。特に名前は無いんだが、この感謝ポイント交換機能には大きな癖がある。
それは、死に関わる項目はとても高効率だという事だ。
単純に殺すだけであれば1Pで済む、だが痛む膝を癒やすだけでも10Pを消費する。
馬の時は老いを操作する物だったから安く済んだが、このスキルは癒やしが苦手なのだ。
(ポイント交換発動、眼の前のガキを癒やす方法)
手当 10P
治療 100P
治癒魔法 1000P
点滴 10P
昇天 1P
完全回復 5000P
今使えるのはこれらだ。
手当は老婆の膝を癒やすのに使ったもの、今の状態じゃ気休めだな。
治療は効果があるだろうが、あの状態から一回で回復するのは無理だ。
治癒魔法は怪我の治癒が得意な戦闘スキルなので、効果はあるけど無駄も大きい。
一番いいのは点滴だ。費用対効果が高く、手当か治療と併せて暫く使い続ければ効果は高いと思う。
一番楽なのは昇天だが流石に不味いだろう。相手次第ではアリ。
完全回復は無いな。こんなガキ一匹の為に支払うコストじゃねぇ。
「よし、飯よりも点滴を…」
「メグ頑張れ!食べて元気になるんだ!」
俺が隠れてボードを確認した後、そこには頑張って食事を摂る健気な少女の姿が!
「おいぃぃぃぃ!やめろやめろ!」
「げほっ!ごほっ!かひゅぅぅ・・・」
「メグ!メグゥゥゥ!」
馬鹿野郎が!所詮スラムの餓鬼か!いや…、わかんねぇよな。誰も教えてくれねぇ、学ぶ場も無い。生きる為に食わせたんだ、それが正しいと信じて正しい行いをした。そこには優しさしか無かったはずだ。
「こいつにはもう飯を食う力が無い。生きることは出来ない」
「馬鹿を言うな!このやろう!そんなわけがあるか!」
なんか最近同じ様なの見たな、チラリとシエラの方を見ると期待に満ちた顔をしている。
仕方無い。やるしか無いのであれば最大のリターンを目指すだけだ。既に覚悟は済ませてある。隠れて小さくじゃない、大きく感謝を稼ぐ!
「見ろこの子供を!哀れにも死にゆくこの無力な少女を!これがお前たちの行く末だ!お前たちも近い内にこうなるんだ!お前たち自身の未来だ!」
スラムの中でも更に底辺の弱者たちが見つめている。こいつらには見慣れた光景なのかもしれない、だが何も思わずにはいられないだろう。美味い飯で腹を満たして一時の幸福を得た今、不幸を恐れない者はいない。
「この娘の為に祈れ!お前たちが他者の為に祈り、日々の生に感謝の祈りを捧げられるのであれば、ここに奇跡が齎される!この僕が救って見せる!」
目配せをしてまずアリアが腕を組んで跪く、続いてシエラが、リブラと警護兵も膝をついた。それを見て騒いでいたガキも、周囲のスラム住人も倣う。
「祈りは捧げられた!罪なき少女に救いを!生に感謝を!」
(『完全回復』発動!派手に頼むぞ!)
スキルを発動した瞬間!光が溢れるエフェクトを期待する俺の耳に地の底から響く絶叫!横たわる少女を包むように闇が現れ、長い黒腕が何本も生えて少女を持ち上げた。そして闇から這い出る和装の女性、濃い死相が浮かび体中に蛆が集る恐ろしい姿。それが少女の顔に手をやり、愛おしそうに撫で始めた。
(完全に邪教の儀式です。本当にありがとうございました)
永いようで短い儀式が終わる。現れた時は違い、静かに退散していく闇。そこに残された少女は、母に抱かれた幼子のようにうっとりと何かに酔いしれて立っていた。
自分の足で立ち、ゆっくりと目を開く少女。
健康的な肉付き、艶のある髪、病も疲れも感じさせない完全な姿がそこにあった。
「メグ!メグぅぅぅ!」
「奇跡は為された!お前たちの祈りが少女を救ったのだ!」
湧き起こる歓声、明日をも知れぬ飢えた弱者が救われ、そして救った。
自分が誰かを救った、無力なだけでは無い自分。達成感、喜び、そして感謝。大きな感謝がそこに渦巻いていた。
「閣下の慈悲とお前たちの心が少女を救ったのだ!生に感謝を!正しき行いに感謝を!」
リブラが煽る。スラムの住人たちは俺に深い感謝を向けている。見れば20だの30だのと大きな感謝を浮かべていた。自分が救われたわけでも無いのにな。
俺はそれをとても冷めた目で見ていた。
大きな感謝と言っても収支はマイナスである。そして狂騒するスラムの住人達も、今は奇跡を目の当たりにして騒いでいるだけ。3日もすればいつも通りだろう。
もしも自分が病気になったら、自分の腹が減ったら、その時にはきっと今日のことを思い出し、自分を救わない俺を恨むだろう。
では小まめに救ってやればどうか?毎日食事を配り、病気を癒やし続ければ?駄目だ。日々与えられる物に対して日々感謝出来る人間は少ない。すぐに貰えて当たり前になるだけだ。
与えねば感謝はされない。施しは必要だ、しかしそこには効率も必要なのだ。10を使って100を得る。いや、千を使って万を得る。それでこそ今日の行いに意味がある。
浮かぶポイントを維持させて観察する。100の数値を示す者を発見した。
90超えが5人、80超えだと8人。まぁこれくらいかな。リブラに声をかけてピックアップした奴らを集めさせる。
選ばれなかった奴の中には、感激して涙を流しているのに数値は10ほどの奴もいた。感激と俺に対する感謝は違う、俺が集めたのは俺への感謝が大きい者達だ。善性とか求めてない。
集まった者の中には当然妹を救ってやったガキもいる。それと最初に飯を食った諦めた目のガキ。8人のうち6人がガキ、一人が成人したかどうかの女、もう一人の女は20代真ん中あたりかな。スラムで十分にスレていそうなもんだが、えらく純粋な心を持っている物だ。癒やした妹はオマケ、こいつが俺に向ける感謝は脅威の0。どういうことやねん。
「お前たち、僕の下で働け。今日のところは拠点が無いが、近い内に用意しよう。今の気持ちを忘れなければ十分な報酬を用意する」
当然拒否する者は無かった。家族がいる者については、希望するならいずれ面会の機会を設けることにする。
「リブラ、お前たちについてよく知らないんだ。食事や休息、働ける時間はどうってるんだ?」
「警備兵達は食事を摂りません、丸1日で動けなくなります。ただしエネルギーを補給する事でまた働けるようになります。私は適度に食事や睡眠を摂れば待機所に入る必要はありませんが、待機所に入れば怪我も含め初期化されます」
「初期化?」
「どんな状態であっても元に戻ります。記憶や経験も残りません」
「ええぇぇぇ……、便利なのかどうか分からないな。とりあえずリブラが希望しない限り待機所に入らない方がよさそうかな」
「は!ありがとうございます!」
この日は集まった連中を解散させ、声をかけた者には新たな食料と共に一人ずつ警備兵を付けた。
リブラもスラムに残し、待機所になる魔法の指輪を持たせる。荷馬車というか荷車を引かせていたホムン馬車は待機所に送った。俺の方は警備兵1人と残り8回になった指輪だ。
これにて今日は解散。疲れた。屋敷に忍び入り、部屋に戻った。
「二人共今日はありがとう。おつかれさま」
「お兄様もお疲れ様です、今日は凄い奇跡が見れました」
「つかれました~」
お礼にはお礼を返せ!
「あの者達に何をさせるんですか?」
「ん?別に何もしなくていいんだ。困っている人を探して貰うくらいかな?こちらの施しに感謝をしてくれるだけでいいから、きつい労働とかは無いよ。思いっきり感謝をし続けられるなら毎日遊んでくれていい」
「はいはい!私もそっちに入れてください!」
「アリア、感謝が小さくなったら用無しになっちゃうんだよ?アリアも最初は部屋で休憩できるだけで沢山感謝してたのに、今じゃ最低限の感謝しかしてないって気づいてる?」
「そ、そんな!ことは…」
「まぁ!アリアがそんな人だったなんて!」
「シエラ、それは普通の事なんだよ。シエラは毎日どれだけ感謝をしてる?父上や母上、お祖父様お祖母様、領民や使用人、毎日感謝を続けるだけでも難しい、変わらない大きな感謝をするなんて事は人には出来ないんだ」
「だったら何故あの人達を?」
「彼らは感謝が上手い、僕に沢山の感謝をしてくれた。だから関わっている間は日々の暮らしの中で少しの感謝を毎日続けてくれるかもしれない。感謝を続けてくれる間は僕も彼らに感謝して雇い続ける。それだけさ」
「なるほど、でも彼らと言っても全員女性でしたけど?」
「ん?女性もいたけどガキンチョ達がいたじゃないか。妹を連れてきたやつとか」
「女性でしたよ?え、お兄様まさか……」
「うわぁ、それって酷いですよ。知られたら感謝も吹き飛びますね」
「え?うそ?いやだって…えぇぇ?」
「ガキンチョの性別なんて分からないしどうでもいい」この発言がシエラにぶっ刺さり、1000しか残っていないポイントを更に減らすことになった。
残りポイントがまじでやべぇ、巻き返しが必要だ。
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