第3話 能力開発

 うわぁ、嫌な予感がヒシヒシとするぞ。スキルを使ってお手軽解決したかったのに。

「何をやってるのかって聞いてるのよ」

「はいシエラ様。今日は馬達が快適に過ごせているか調べていました。概ね良好なようですが、りんごの配給が少ないようです。それと、みながそちらの老馬を気遣っているようです」

「は?なんでそんなの分かるの?」

「昔からたまに動物の気持ちがなんとなく分かる気がする日があるんです。今日はたまたまその日でした」

「………なら、この子がどうして元気がないか調べてみなさいよ」


 まじ?こんな適当な話を信じたのかよ。まぁ所詮10歳のおこちゃま。それも大好きなお馬さんの事となれば何にでも縋っちゃう感じか。簡単に誘拐できそうで草、俺の伯爵簒奪計画の為に覚えておこう。


「それでは失礼します。馬くん、どうして元気がないんだ?僕に教えて欲しい。(ウマ、さっきから聞こえてるだろ。みんなお前を心配してるんだ、どういう状況か言ってみろ)」

「ぶふるるる、ぶふぅ(なんじゃ若造、変な力を使いおって。わしはただ年を取りすぎただけじゃ。人を乗せて走れん者は始末される、それがわしらの世界じゃ)」


「ふむふむ、単純に年を取りすぎて元気が無いだけのようです。本人、いえ本馬も色々諦めているようですね」

「っ!………そんなわけ無い、シルバーはまだまだ走れる。いい加減な事を言わないで!」

「ふむ。………シエラ様、僕実は馬のマッサージが得意でして、ちょっと試してみますね」

「やってみなさい、ちゃんとやらないと承知しないから!」


「それでは馬くん、マッサージを始めるよ(ウマ、ちょっと特別な事をするから騒ぐんじゃねぇぞ、騒いだらお嬢の命は無いと思え)」

「ブヒ!?ヒヒィィン!(な、なにをするつもりじゃ!お嬢には手を出すな!)」

 適当だったんだが効いてしまった様だ。クソガキなのに動物には愛されてるんだな。

 馬の反対側に回り、馬がブラインドになる位置でスキルを発動する。


(ポイント交換発動、若返り)

 若返り 1年  10P

 若返り 10年 80P


 まぁこれだな。リストには不老等もあるが馬鹿高いので割愛。

 この能力をくれたのが閻魔様(仮)だからか、この手の効果は特別にお安い。ケーキ10個と10年若返りが等価ってどうなってんだよ。

 とりあえず1年若返りをぽちり。


「むっ!ここだな!ゴォォット!フィンガァァァァァ!!」

「ブヒヒヒィィン!(むぉぉぉぉぉ!)」

 大声を上げて若返り効果を発動!しかし無常にもエフェクト無し!

 光よ!我にエフェクトを!

「なにやってるのよ、真面目にやりなさい」

「はい、いえ真面目です。ちょっと元気になってます。ほらどうだ」

「ヒヒーーーン!」

 後ろ足で立ち上がって前足ぐるぐるポーズを取る馬。随分元気だな、オマケ効果付きだったのか?


「シルバー!シルバー!あなたはやっぱりまだまだ元気よね!」

「乗って欲しいそうですよ。(興奮しておとすんじゃねぇぞ)」

「バフォォ!(誰に言うとるんじゃ若造!ぶちころすぞ!)」




 シエラお嬢は踏み台も使わずにヒラリと跨がり、馬はすっ飛んでいった。

 元気が出たようで何より。まぁ1年後には同じ状態になるんだが流石に知ったこっちゃない。何度もやってたら怪しまれるし、バレたら最悪な結果が想像できるヤバイ能力だ。

 さて、そんな事よりお楽しみタイム。

(見ていたかね諸君)

「ぶひぃぃぃ!ぶふるる!ぶっひん!」

 興奮しててなに言ってるのか分かんねぇよ。いやこれ効果が切れたのか。

 だが構わない、馬の頭上に浮かび上がる俺にしか見えない数値、その数値は20!

 これは凄い数値だ!美味そうなケーキに感激していたアリアの数値が8、膝を癒やしてやった老婆の感謝が10である。

 自分では無い、仲間を救って貰っただけで20!馬って変わってんなぁ!


 馬は9頭いるので合計180余りいただいた。感謝のお裾分けでりんご(箱なし)10Pを注文して皆に分けてやった。そうすると更に感謝が帰ってくるという寸法だ。


 やはり馬を対象にしたのは正解だった。普段自分の言葉を聞いて助けてくれる相手なんて居ないから。虐げられた者が救われた時に生まれる大きな感謝、超おいしいです。

 そう考えると我が家のクソ達が領民を虐めてるのは俺にとってプラスなのか?貴族に虐げられた弱者を救い戦うレジタンスヒーロー!それが俺!そうだ、悪役貴族を打ち倒すのだ!万雷の拍手と圧倒的な感謝が俺を包む!

「はっはっはっ!世界の平和は俺が作りました!もっと感謝しろ!」

「何やってるの?」

「これはシエラ様。ちょっと自己啓発の練習を行っていただけです、大丈夫ですありがとうございます」


 ちょっと恥ずかしいところを見られたが、あまり気にした素振りもない。興奮して馬で駆けて少し息が上がって、上気した顔で嬉しそうに俺を見ている。

「シルバーがとっても元気になってたわ!ありがとう!ありがとうルカお兄様!」

「お兄様!?」

「あ、あの、父様と母様から兄と呼ぶなって言われてて……、でもお兄様はすごい人でした!ありがとうございます!」

 感謝・・・!圧倒的感謝・・・・・!流れこむ!無垢なる感謝の心がっ!

「ひゃひゃひゃ、ひゃくぅぅぅ!?」

 浮かび上がるその数値!100!今まで一度も見たことのない3桁表記!

「ありがとー!」

 しがみついてくるクソガキ!いやもうクソガキではない!大天使シエラお嬢様(妹)だ!

 ただの数値じゃあねぇ、心の底から絞り出す感謝!偽りの無い100%の感謝の心!眩しい!焼かれそうだ!感謝を集めているこの俺が感謝に焼かれる!?

 苦しい、そんな目で俺をみないでくれ・・・!汚れた俺の魂が!煉獄での浄化から逃げた俺の魂がぁぁぁぁ!!




「それでこうなった」

「はぁ、左様でございますか」

「これもとっても美味しいわ!お兄様すごい!ありがとうございます!」

 結局シエラには俺のスキルで治しただけなんだと説明した。仕方なかったんだ、救世主を見つけましたみたいな目で見つめられて俺の魂が耐えられなかった。あのままだったら俺は綺麗な魂に生まれ変わってしまっていた事だろう。危ない危ない。


「まぁ大丈夫だろう。シエラは曇り無く俺を信頼してくれているし、俺のブレーンとしてこれからは協力関係で行こう」

「お任せください!それとこのスムージーという物をおかわりください!」

「はぁ、大丈夫かな・・・」



 この日は大変なプラスになったが、それでも+300ほどだ。常人の感謝量がどれだけかは分からないが、仮に平均10と考えると100倍にはまだまだ届いていない。


 だが今日は三つのヒントがあった。

 1.貴族家で働く使用人相手ではなく、虐げられた相手の方が感謝が大きい。

 2.大きく深い感謝もある。たぶん100でカンストかな。

 3.誰かに慕われた相手を助けると他多数からのボーナス感謝が入る。


 これを踏まえて今後の活動を考えよう。



「それでシエラ、俺が沢山の人に感謝されるにはどうすればいいと思う?」

「私考えました。それってルカ・ヴァルデスが感謝される必要があるんですか?お兄様であれば偽名でもいいんですか?」

「ん?馬達は俺の名前なんて知らなかっただろうし、関係ないだろうけど」

「それじゃあ市井しせいで活動するのがいいんじゃないでしょうか。食べ物を恵むくらいなら負担は少ないです」

「そういうのって父上が怒るんだよね」

「だから変装してやるんです!こんなに美味しい食べ物が出せるんですから!」

「ふむ・・・、いいかもな。いつか正体を明かせる様に覆面とかしてな」

「あの、それって危なくないですか?警護の兵士とか居ないと」

 兵士、兵士ね……。


「ポイント交換発動、警備兵なりきり」

 警備兵装備セット        10P

 騎士装備セット       100P

 聖騎士装備セット      300P

 ホムン警備兵 成人 男性   1000P

 ホムン警備兵 成人 女性   1000P

 希望の姿に変身 五時間まで   5P


「どれにする?」

「なんで私に聞くんですか!?私メイドですよ!」

「でもサボってるし、たまには仕事してもいいんじゃない?多分立ってるだけでいいと思うよ」

「いーやーでーすー!」

「お兄様、このホムン警備兵っていうのはなんですか?」

「高いから試し事が無いんだが。多分人間ぽいっけど人間じゃないやつだと思う」

「それでいいじゃないですか!ちょっと高くてもそれで!」


 確かにずっと興味があるシリーズではあるんだが、使い終わった後にどうなるのか分からんのだ。

 役目が終わったら消えるのか、ずっと維持しなきゃいけないのか、維持コストはどの程度か、そういうのが分からん。

 人の様にずっと食わせるのは現在の環境では無理だ、使い捨てなら高すぎる。現在のポイントは地道に貯めて5万弱しか無いのだ、1000はデカイ。


「お兄様の能力で管理出来ないんですか?」

「お、それもそうだな。ホムン警備兵管理」


 ホムン待機所補給付き 延べ10人まで   100P

 ホムン待機所補給付き 延べ100人まで 800P


「これがよさそうだな。だが映像が無いからどんな物か分からん」

「やってみましょう!お兄様の野望の為に!」

 そうか、そうだな、規模の拡大の為には手段の開発は不可欠。恐れずにやってみよう。まずは警備兵からぽち~っとな。


 シュイィン。

 何もない床に突然魔法陣の様な物が発生したかと思うと、簡素な革鎧と槍を装備した警備兵(男)が現れた。

「凄いです!人が召喚されました!」

「お前はホムン警備兵だな。何が出来る?言っていることが分かるか?」

 コクコクと頷いた後にちょっと困った様子で首を振る警備兵。なるほど、考える能力はあるし言葉も理解できるが声は出せないのか。


「声を出せないのは警備に不向きだが、まぁ後ろに立って威圧するなら十分そうだな」

「これで外に出られますね」

「うん、ついでに待機所も試してみよう。ぼち~」

 ボタンを押すと目の前の机に小さな金属の環が現れた。何?指輪?なんで?

 とりあえず指に嵌めてみると、スキルを発動した時の様なボードが現れた。


【0/10 残り10回】

「お、なんかこれに仕舞えそうだぞ。もしかして滅茶苦茶便利なのでは?」

「やりました!これで明日は恵みを配れますね!」

「そうだな、何でも試していこう。今日は二人共ありがとう」

「こちらこそありがとうございますお兄様!」

「美味しいお菓子をありがとうございました」

 仲良く感謝を言い合って解散。

 感謝っていいよね、みんなちゃんと感謝を言葉にするんだぞ。




 明日の事を考えてワクワクしながらベッドに入った。

 ベッドの脇からは無表情でこちらを見つめるホムン兵。何も言わないし表情も無いのに物凄く責められている気がして待機所に放り込んだ。


【1/10 残り9回】

「納得行かねぇ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る