第2話 馬だって善き行いには感謝する
自室にて考える。伯爵になると言ってもどうすりゃいいのかな。とにかく継承権は無いので通常の方法では不可能だ。仮に兄弟全員が継承不能になっても叔父や従兄弟が優先される。
一族の女性が爵位を引き継いでその夫になるとか?まぁ普通に難しい。俺が全員を始末した上で逃れられない状況を作って無理やりって事だろ?そりゃ流石に遠すぎる。
まぁよくよく考えれば伯爵じゃなくて領主ならいいんだよな。人口が1000人くらい居れば領民と距離の近い領主様はみんなに感謝されて~ってのもあり得る。
そうなると・・・、何か功績を立てて新しく爵位を貰うとか?いや、伯爵なら寄り子の男爵は新たに立てる権利があるよな。
「でもなぁ、やっぱなぁ、伯爵がいいよなぁ」
「どしたんですか?伯爵様に会いたいんですか?」
ノックもせずに平然と入ってくるメイド。俺が甘やかしまくった結果です。
「アリア、よく来たな。ほら、お気に入りのクッションは綺麗に洗っておいたぞ。今日のおやつは何がいい?」
「ありがとうございます~。ん~、今日はケーキがいいですね、フルーツがたっぷりのったやつでお願いします」
「勿論いいぞ!」
無料で貰える部屋インボーナス感謝をしっかりいただいてからオヤツのリクエストを承る。
「ポイント交換発動!ケーキ」
特に言わなくてもいいセリフでスキルを発動すると、薄っすら透ける謎のボードが宙に現れる。これで交換品を選ぶわけだ。検索機能付きで、品物の場合は映像まで付いて分かりやすいぞ!行き届いたユーザーインターフェイスに感謝!
「あ!でもこれちょっと高いなぁ、でもアリアが喜んでくれるなら!」
等と呟きながら商品を選んで交換する。この時、高いからいっぱい感謝しろ等とは言ってはいけない。
感謝というのは相手の真心である。例え打算であろうと欺瞞であろうと、相手に要求するものではないのだ。
テーブルの上に音もなく現れるケーキ。綺麗な皿とケーキフォークもセット購入だ、本当に行き届いてるぜ。
「わぁ!凄い美味しそう!ルカ様いつもありがとうございます!ほんとうにおいしそ~」
確かに美味しそうだ、俺も食いたい。だが我慢だ。アリアのケーキに対する感謝ポイントは8、対してケーキセットの交換レートは5と少々お高い。俺が食ったら赤字だ。
「紅茶を淹れるからゆっくり食べてくれ。最近練習して淹れるの上手くなってきたんだぞ」
「ありがとうございます~」
ポイント1、返事代わりの適当なありがとうでもチリツモなのだ。
紅茶を淹れて俺も座る。
「なぁアリア、僕はもっと沢山の人に感謝されたいんだ。その為には伯爵になってみんなの為に頑張るのがいいのかなって。どうおもう?」
「えぇ?いきなり凄い話をしますね、人に聞かれると大変ですよ。ん~、ルカ様は凄いスキルを持っているんだから、地道に沢山人助けをすればいいんじゃないですか?」
「僕もそのつもりだったんだけどそうも行かなくなって。具体的には普通の人の100倍くらい感謝されるスーパー感謝されマンになりたいんだ」
「はぁ、凄いですねぇ。でもいきなり伯爵は無理じゃないですか?ルカ様継承権無いですし」
「それな」
「最近気づいたんだけど、こうして地道に感謝を集めようと思っても上手く行かないんだ」
「どうしてです?私はすっごい感謝してますけど?ルカ様生まれてくれてありがとうございます」
「ありがとう、とても嬉しい。だけどアリア、他の人連れてこないじゃん?なんで?」
「え?そりゃあ、ここにはお仕事で来ていますから…、ルカ様が自分で掃除してくださっているからサボれますけど。いつもありがとうございます」
「うん、ありがとう。クッキーをあげるから持っていきなさい。それってつまり、美味しい事を人にバラしたら自分の旨味が減るって事だろ?だから増えない広がらないんだよ。アリアを責めているわけじゃないぞ」
「ありがとうございますー!確かにそうですね、他の人に話したらここに来る人は増えるけど、私はサボれなくなるし変に広がると余計な問題もありそうです」
「だからさ、最初から多くの人に感謝される事をしないと広がらないと思うんだよ」
これは難しい問題である。
例えば、教会でお婆さんの膝を治療した時は魔法と分からないようにしたが、これを公開して広く行ったらどうだろう。
多くの人が感謝をくれるだろう、でも一日に相手出来るのはがんばっても100人程度だ。他の事をしている時間は無くなるし、客を取られた治療院には恨まれるし対抗手段を取るかもしれない。簡単に治療できない人ならどうか?簡単な治療でも当たり前と思われてしまって感謝の質が下がったら赤字になるかもしれない。
100倍の感謝を集めるために100倍頑張るのは不正解だ。100倍の規模で行うべきなんだ。
食糧危機の時に食料を放出する、戦争や災害から民を守る、仕事を与え豊かにする、それらによる薄い感謝を集めるべきだ。と俺は思う。
「それで伯爵ですか~」
「そうなんだよ、何かいい手は無いかな」
「ん~、やっぱりいきなりは無理ですよ。補佐役狙うとかどうですか?どこか小さな領を任せてもらうとか、代官とか」
「それらを考えて、やっぱ伯爵だよな~って」
「なるほど。まぁ、あんまり欲張っちゃだめですよ。ルカ様ならどこかの男爵様に婿入りとかもありえるんですから。私はそろそろ仕事に戻りますね」
「うぃ~」
男爵に婿入りねぇ。まぁ有り得そうな話ではあるか。
考えてみりゃ父上ですらまだグランパの手伝いをしている程度だし、伯爵位の継承を望むのはかなり気の長い話なんだよな。
「ポイント交換発動、変身」
希望の姿に変身 5時間まで 5P
希望の姿に変身 永続 50,000P
変身魔法 5,000,000P
誰かと成り代わる事は不可能じゃない、5万なら地道に集める事も出来る。だが、流石に最終手段よな。
母上は平民上がりで伯爵のお妾。すんごい美女なのだ。つまり俺も絶対イケメンに育つ自信がある、不可逆な変身などしたくない。
う~ん、う~ん、、、、、とりあえずポイント集めでもするか!
伯爵ぶっ殺して成り代わろうと考え始めたところでやめた。そんな陰気な人生は嫌やでわし。
折角便利なスキルを持って転生までしたんだ。愉快に楽しく!多くの人に感謝されるんだ!
今日のところは屋敷の中で困ってるやつを探そう。
屋敷には30人ほどの男女が家事使用人として交代で働いでいる。他にも厨房や庭、厩舎での働きもある。どこに……はっ!!
びしゃどぉぉん!
俺の頭脳に電流が走る!そうだ!人間以外の感謝がどうなるか試したことがないぞ!厩舎だ!
屋敷の中で探すと言ったな、あれは嘘だ。まぁ厩舎は屋敷の裏に建ってるだけなので似たような物さ。
早速厩舎へやってきた。少々臭っせぇが、2階には担当の使用人たちが寝泊まりしているのだ。ぱねぇ。
「こんにちは、馬を見せてもらっていいかな」
「あぁルカ様、おすきにどうぞ」
適当な対応だ、まぁこいつらには期待してないからいい。
「やぁ馬くん!なにか困っていることはないかい」
「ぶひん」
「なるほど分からん」
馬丁共が呆れた顔をして離れていった。よし今だ!
「ポイント交換発動、馬と会話」
念話 1時間 10P
テイマーの心得 1時間 3P
以心伝心 1時間 5P
目ぼしいのはこの辺りか。お世話をしてやりたい訳だからテイマーでいい気もするが、テイマー=馬丁はここに何人もいる。ちょいと奮発して念話にするか。ぽちり。
(馬くん、馬くん、きこえますか…あなたの脳に直接呼びかけています)
「ぶひぃ!ぶるるるるる!」
(落ち着け落ち着け、何か困っている事は無いか?今なら僕が聞いてあげよう)
「ぶふ!ぶるるるる(まじかよ!じゃあちょっとそこの箱のリンゴとってくれ!)」
「ほいどうぞ」
「ぶひぃいいん!しゃくしゃくしゃく(こいつぁありがてぇ!しゃくしゃくしゃく)」
(分かってくれたか?俺はお前たちに喜んで貰えるとすごく嬉しいんだ。他に何か無いか?)
「ぶふん、ぶひん(なら!ちょっと厄介な事を聞いてくれ!頼む!)」
(いいから言ってみな。出来ることならする)
「ぶひひん、ぶひ、ぶっひん(実は、俺達のボスだった爺さんが引退するんだ。いや、引退なんかじゃねぇ!殺されちまうんだ!)」
(なんで?理由も分からんが、なんでお前たちが知ってるんだ?)
「ぶひぶひん!ぶふる!ぶっふるるる!(それくらい分かる!連れて行かれて戻って来たやつはいない!それにあいつらみんなクソ野郎だから!とにかく爺さんを救ってくれ、いいやつなんだよ…みんなが世話になった)」
「ぶひひひーん!」
「ぶるんぶるん!」
他の馬たちも同調している。こいつらみんなに認められた老馬ってことか。
ふーむ。馬の言うことだし、ただの思い込みかもしれんなぁ。
だがそんな事は関係無い。俺はこいつらから感謝を貰えたらそれでいいのだ。真実など瑣末事よ!
馬たちの話だと今はちょうど散歩に連れられたらしい。お嬢が連れ出しただけなのでそろそろ戻るはずだとか。お嬢?
「あんた、ここで何やってんのよ」
そこに現れたのは、くたびれた雰囲気の馬を曳くシエラお嬢様(妹)だった。
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喜びには感謝を ~感謝の為なら飯も炊くし流星も砕く~ 無職無能の素人 @nonenone
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