第6話
「…は。」
俺から漏れたのはその一文字だけだった。
吐く息と共にたまたま出ただけにも思えるその一文字。
その光が見えるのは同じ異能力者のみ…つまり、その理屈で行くと光が見える俺も異能力者だということだ。
「どういうことか…わかる?」
先ほどとは打って変わって少し声が柔らかくなった湊副隊長がこちらを見る。
声を出すことはここ数年ほぼなかったのと、驚きが隠せなくて首を縦に振ることしかできなかった。
でも、俺のその行動で湊副隊長はわかってくれたらしい。
「今から皆さんを各々の住んでいる場所に転送いたします。」
前の方では耶雲大佐が他の救助者に向けて、声をはっていた。
周りの人は、転送と聞いてざわざわしている。それもそうだろう。
また端と端ではあのここへ来るときに床に手をついていた二人が待機している。
おそらくあの2人が瞬間移動の異能を持っているのだ。
…よく見ると、彼らが立っているところの周りには丸い陣のようなものが白い光で描かれていた。
光。あれも異能力というものがある人にしか見えないのだろう。。
「では、皆さん。お元気で…そしてどうかこのことはご内密に」
そう言って耶雲大佐はニコッと笑って
「異能力___隠記(いんき)__」
パンと手を叩いた。
____
隠記とは操考(そうこう)系に属する記憶に関する異能の一種である。
その中でも『隠記』とは対象の記憶を思い出せないほどの深いところに隠す異能力。
つまり、忘れさせるということでる。
発動条件:対象者全体を視界の中に入れ、手を叩くことである。
代償:異能力使用後は少しの間、忘れっぽくなる。使用範囲や時間によっても左右される。
_____
それと同時にあの容姿が似た2人が床に手をついた。
黄色の光と青色がぱちっと火花のように飛び散ってから次の瞬間には陣の中にいた人たちは消えていた。
「耶雲が今使った異能力は、記憶を消す異能だよ。あれのおかげで、俺たちの存在や黎たちを被験体としていた奴らの存在を隠せているんだよね。」
横に立っていた湊さんはみんなが消えたところを見たまま口を開く。
「そんで、黎。お前はどうしたい?」
どうしたい。それは、幾らかの選択肢が与えられた上での質問。
俺に残された選択肢はなんだろうか。
このまま湊副隊長たちについていくか。
それとも、孤児院へ行くか。
この2択………
「…どっちでも、いい…です…別に。」
俺が、少し掠れ気味の声でそういうと…少しの沈黙があった後、湊副隊長は俺の肩に手を乗せた。
「じゃあ、ついてきてもらおうかな。このまま孤児院行きにしてもいいけど、きみの異能が暴走してまた出動するのは面倒だからね。おいで」
そしてまた門をくぐっていった湊副隊長の後ろを俺はついていった。
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