第6話 遠くから応援してます!
フェルトーリ家に滞在して五日目の早朝。いよいよヴァーリ領へ出発するときがやってきた。
「ノワール様、ぜひまた来てくださいね!」
「あぁ、必ず」
この数日の間にノワールとリオネラ嬢の距離も随分縮まったもんだ。屋敷の裏門で名残を惜しむ二人を見ながら、感慨深く思う。
滞在中はかなりの時間一緒にいたからそれも当然か。一緒に勉強したり、魔法の訓練をしたり、買い物に行ったりしてたもんね。
あぁ、そうそう。買い物に行ったときに立ち寄った店の一つがマティウス商会って店だったんだけど、あの店ってたしか魔族の息がかかった商会なんだよね。看板を見るまですっかり忘れてたわ。
“黒影”の人に“妙な視線を感じた”って伝えておいたから、あとは公爵様やフェルトーリ伯爵に報告してうまいこと処理してくれるはず。
サキール辺境伯領にある本店には結構強いやつがいたはず。原作のブランたちでも殺し切れなかったあいつを殺すのは難しいだろうけど、何とか弱体化させておいてほしいところ。遠くから応援してます!
「ブラン殿、次は必ず勝たせてもらう」
「あ、はい」
俺に声を掛けてきたのはフェルトーリの騎士ダニエルさん。フェルトーリ家の騎士の中でも期待の若手らしくて、リオネラ嬢たちが襲撃された現場に彼もいたみたい。
で、そんな彼になぜかライバル心を持たれてしまった。
一応、模擬戦では俺の三戦三勝だけど、技量では俺が負けてるんだよね。勝てたのはステータスでゴリ押しした結果。だいぶ上達してきたとはいえ、やっぱり魔法抜きでの戦いになるとなかなか厳しい。
今回の遠征ではもっと接近戦を意識して戦うようにした方がいいかもなぁ……。槍を降らすのが楽だからついつい横着しちゃうんだよね。
ステータスで勝てない相手が現れたときに備えて、技量を磨いておくにこしたことはない。いざというときに、もっと鍛錬しておけば……なんて嘆いてもどうにもならないからね。
この世界にレベルはないようだけど、だからといって無限に強くなれるかどうかは分からない。少なくとも原作にはレベルやステータスに上限があったわけだから、こっちもそのつもりでいた方がいいだろう。
それはさておき、そろそろ出発した方がいいかな。ここで長話していると誰かに見られるかもしれないからね。
別にフェルトーリ家の人たちを信用してないわけじゃないんだけど、念には念を入れてね?
「若様、そろそろ……」
「分かった」
「ノワール様、どうかお気をつけて」
「あぁ、行ってくる」
平民っぽい服を着たノワールと二人で裏門をくぐる。アーノルドさんとシーラさんは、すでにアベルさんが手配した馬車で待機しているはずだ。五人全員で屋敷を出ると目立つから、彼らには荷物とともに先に屋敷を出てもらった。
ちなみにこのことはフェルトーリ家でもごく限られた者しか知らない。正門の方ではエルミーヌさんたちを見送るための準備が進んでいることだろう。
さて、フェトールで購入した馬車に乗って、一路ヴァーリ子爵領を目指しているわけですが……。
「「ぅぷっ」」
早々にノワールとシーラさんが馬車の揺れで酔ってしまった。まぁ、この幌馬車めっちゃ揺れるもんね。公爵家の馬車とは大違いよ。
やっぱり貴族出身の二人にはちょっと厳しかったかな?ただ、これでも平民が乗る馬車の中ではマシな方なんだよなぁ……。
貴族や有力な商人は振動を軽減するようなエンチャントが付いた馬車を使うけど、平民でそんな馬車に乗れる人なんてそうそういないからね?
一応、馬車屋ではエンチャント付きの馬車の販売もしていたけど、今回はノワールにいろいろな経験をさせるということで、あえて普通の馬車を購入することになった。
しかもノワールはアーノルドさんから次期当主としてのあれこれを教わりながら馬車の揺れに耐えるというハードモード。
漏れ聞こえてくるだけでも、王家や有力貴族の家族構成や家風、領地の特産やら風土、各派閥の構成などなど、とにかく情報量が半端ない。
俺、貴族じゃなくて良かったわ。
「「っぷ」」
おっと、これ以上ほっとくとマズいかな?乗り物酔いって魔法で治るのかな?ま、使ってみたら分かるか。
「効くか分かりませんけど……。キュア」
「む……。だいぶ楽になったな」
「……本当ですね。ブラン君、ありがとうございます」
「いえいえー」
これも前世で欲しかったなぁ……。ゲーム酔いって結構きついんだよね。
あ、今は御者台でアベルさんから馬車の操車を教わっているからか、特に酔いの症状はない。もしかしたらブランの三半規管が強いだけなのかもしれないけどね。
ここからヴァーリ領までの道中は、野営と宿での宿泊を交互にすることになっている。野営には野営の、宿には宿の注意点があるからね。
野営のときの見張りは二人一組で前半と後半に分かれてする予定。シーラさんは一応非戦闘員という扱いだから見張りはなし。
一応、最低限戦えるくらいの実力はあるみたいだけど、無理はさせられないからね。
フェトールを発って六日。昨晩ヴァーリ子爵領に入り、今は草原地帯を進んでいる。
今夜の見張りは俺とノワール。キッズ二人で見張りをしているわけだけど、茂みに隠れるようにしていくつもの気配が近付いてきた。
さて、ノワールはいつ気付くかな?
「……来たか」
「そうみたいですね」
お、意外と早く気付いたな。襲撃があるのを予想できていたとはいえ、なかなかの早さだ。
実は道中で冒険者を名乗る連中に道を尋ねられてね。なんか目つきが気に入らないなーと思ってたら、アベルさんがあいつらは盗賊だろうって。
土地勘がないのに荷物が少なめだったり、見えるところに冒険者証を付けてないことから分かったらしい。
冒険者は町の外ではトラブルを避けるために、相手の視界に入る位置に冒険者証を付けるようにしているみたい。それをしないってことは冒険者証を持っていないか、名前を知られたくない。つまり後ろ暗いところがあるということ。
隣に座ってたのに全然気づかなかったわ。
俺たち一行は子どもが二人に老人一人、女性が一人という顔ぶれ。パッと見、戦えそうなのはアベルさんだけだからね。盗賊からしたらちょうどいい獲物に見えるんだろう。
せっかくだから相手がより襲撃しやすくなるように、俺とノワールの二人で見張りをすることになったわけだ。何事も経験だからね。
「――っ」
「ほいっ」
一瞬殺気が強くなった直後に、暗闇を引き裂くように矢が四本飛んできた。せっかく闇夜に紛れたのに殺気のせいで位置もバレバレ。こいつら三流だな。
両手に出現させた槍で矢をすべて叩き落す。ノワールの方に飛んだのも防いでおいたけど、余計なお世話だったみたい。ちゃんと防御姿勢を取ってたわ。
「敵襲っ!!」
ノワールがアベルさんたちに声を掛けるのと同時に、盗賊たちが一斉に駆け寄ってくる。
こいつらの相手をする前に射手を潰しておこうか。両手の槍を矢が飛んで来た場所に向かって投げつける。
「「ぐぁっ!!」」
「もういっちょ」
「「ぐわっ!」」
これで射手は全部潰せたかな?射手がいるとめんどくさいからね。アベルさんが防御用の結界を張ってくれているとはいえ、ノワールにとってはこれが人を相手にした初めての実戦だからね。不安要素はできるだけ排除しておきたい。
さて、ノワールはちゃんと殺せるかな?
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