第7話 権力と暴力で時短

「死ねぇ!」

「はいはい」

「づぅっ!?」



 斬りかかってくる賊の太ももに槍を一刺ししてノワールの方に転がす。動きがガッチガチになってるノワールだけど、とどめを刺すくらいはできるでしょ。というかやれ。



「……っ!」

「舐めるな!クソガキィ!!」

「――っ!?」



 あーあ、躊躇してる間に相手が立ち上がっちゃったじゃん。相手が手負いだから今のノワールでも余裕をもって躱せてるけど、敵はそいつだけじゃないからね?さっさと殺さないとまずいよ?


 やばくなったら助けに入るつもりだけど、こっちも戦いながらだから万が一が怖い。そう思ってアベルさんを見ると、一つ頷いて敵中に飛び込んでくれた。

 賊を引き付けるように立ち回りながら、適度にこちらに流してくれる。こういう気遣いはさすがだなぁ……。


 というか、アベルさんって結界術士だったよな?なのに普通に前衛もできるの凄くない?




 そんな状況でしばらく回避に徹していたノワールだけど、さすがに覚悟を決めたんだろう。普段は出さないような大声を上げながら賊に斬りかかる。



「ハアアアァァッ!!」

「ぎゃあぁぁっ!」

「……っ」



 めちゃくちゃ腰が引けてたけど、何とか賊の一人を討ち取ることに成功。とはいえこれ以上は無理そうだな。あとは俺たちで始末しますか。






「こんなところですかね?」

「そうだな。尋問は私がやっておこう」

「すみません。助かります」



 アベルさんと二人で賊の制圧は完了。もちろん情報を得るために数人は生かしてるけどね。

 途中で逃げようとしたやつもいたけど、そいつらはアーノルドさんが小さなナイフみたいなものを投げて倒してくれた。ああいうのも家令や執事の必須技能だったりするのかな?こっわ。


 おっと、それよりも肝心のノワールはっと。



「ぉぷっ……ぉえっ」



 討ち取った賊の死体の前で嘔吐えずいていた。俺も最初に人を殺した時は吐いたなぁ……。今では経験値が財布持って来た、ラッキー!くらいにしか思ってないけど。


 しんどそうなノワールにダメもとでキュアをかけてみたけど何の効果もなかった。さすがにそう都合よくはいかないか。



「若様、こちらを」

「あ、あぁ……」



 そんなノワールに気付け代わりの酒を飲ませるシーラさん。シーラさんも少し顔色が悪いけど、思ったよりも平気そう。タフだなぁ……。

 と思ったら、公爵家のメイドになることが決まった時に、お父さんに盗賊狩りに同行させられたんだって。いざというときに動けなくなったりしないようにって。

 スパルタだなぁ……。



「すまん、もう大丈夫だ」



 シーラさんとそんな話をしている間にノワールもなんとか復活したみたい。



「どうでした?」

「……あまり気分のいいものではないな」

「そうでしょうね。まぁ、こればっかりは慣れるしかないですね」



 最初から何の抵抗もなく人を殺せる人間なんてそうそういないだろうからね。とはいえ、これもノワールにとっては必要なこと。


 公爵様が言っていた“いろんな経験”には当然、人を殺すことも含まれている。

 ノワールがジェレッド・ワイヤックのような在り方を目指す以上、人殺しを避けることはできない。魔族はもちろん、こういう盗賊や刺客、場合によっては他の貴族を手にかけなきゃいけない場面も出てくるはずだ。


 その時のためにこういう雑魚相手に経験を積ませておきたかったんだろうね。強敵を前に躊躇してたら死ぬのはこっちだから。



「今アベルさんが賊の尋問をしてくれてるんで、それが終わるまではゆっくりしててくださいね」

「あぁ、そうさせてもらおう」

「アジトの場所や敵の数次第ではすぐに襲いに行くんで」

「…………」



 襲撃に行ったメンバーが一人も帰ってこないとなると、拠点を変えたり報復してきたりって可能性が出てくるからね。後手に回らないためにもこっちから仕掛けるのが一番なのよ。

 特に今回は裏がある可能性が高いしなぁ……。



 原作ではヴァーリ領の西の領を治めるグラスナー男爵が中央の貴族や冒険者ギルドと結託して、ヴァーリ子爵家の乗っ取りを画策していた。


 ギルドが各地の素行の悪い冒険者を少しずつヴァーリ領へ送り込み、治安を悪化させるのが計画の第一段階。

 第二段階はグラスナー男爵が雇ったならず者たちがヴァーリ領に近いを襲撃し、ヴァーリ領に逃げ込むというのを繰り返す。ヴァーリ領の治安が悪化したせいでグラスナー領に被害が出たって形にするためだね。


 そして治安維持のためにダンジョンの警備が手薄になったところで、今度はダンジョンの内部やその周辺でいくつもトラブルを起こし、ヴァーリ子爵には領地とダンジョンを管理する能力がないと中央に報告する。


 あとは中央の連中があれこれ理由を付けてヴァーリ子爵を引退させ、後継としてグラスナー男爵家の次男が子爵の娘、つまりアルメリアの婿としてヴァーリ家を継ぐことになる。

 そしていずれは二つの領をまとめて伯爵に……という腹積もりみたい。


 そんな計画を偶然知ってしまったのが我らが原作主人公ブランくん。『英魔戦記』はブランが追手から逃げるところから始まる。

 逃げるところを子爵家の騎士に救われたことでヴァーリ子爵に計画の全容が伝わり、その対策に奔走することになるというのが序盤の流れ。


 で、俺はその流れの中に公爵家の嫡男ノワールをぶち込もうとしているわけだ。原作では全てを解決するのに半年以上かかったけど、そんなに時間をかけてられないからね。権力と暴力で時短できたらなって。

 まぁ、ノワール次第ではあるんだけど。




 そんなことを考えている間にアベルさんが尋問を終えたみたい。



「アーノルドさん、ちょっと……」

「どうされました?」



 あれ?重要な情報でも聞き出せたのかな?アーノルドさんを呼んで二人で何事か相談を始めた。

 でも、このへんにいるような連中って下っ端だよな?大した情報は持ってないと思うんだけど……。



「ノワール様」

「どうした?」

「先ほどの賊ですが、ただの盗賊ではないようです」

「……なに?」

「詳細はアベル殿から」



 アベルさんによると、襲撃してきた十四人の賊はいずれも冒険者。なんだけど、問題はその内訳。四人パーティーが一組と三人パーティーが二つ、それにソロの冒険者が四人。しかも以前からの知り合いというわけでもないみたい。

 これは冒険者証に記載されている冒険者登録した支部が王国北部や西部の町だったことからも間違いないだろうって。


 まったく別の場所から集まった見ず知らずの者たちが組織的に盗賊行為をしている時点で、何者かが裏で糸を引いている可能性が濃厚。実際、彼らは酒場で会った男から“うまい話がある”と誘われてヴァーリ領に来たらしいしね。

 よくそんな胡散臭い話に乗ったな……。



「あの者たちが王国の各地から集められていることを考えると、冒険者ギルドが関与しているのは間違いないでしょう」

「冒険者ギルドか……」



 これが特定の地域だけで集められた者たちなら、冒険者ギルドが関与していると断定するのは難しい。

 だけど王国各地となると話が変わってくる。王国全体にネットワークを持つ組織はごく限られている。冒険者ギルドに商業ギルド、あとは一部の大店くらいじゃないかな。

 だけどヴァーリ領には商人がそれほどのリスクを冒してまで欲するような商材はない。となると、残るは冒険者ギルド。



「ですが、ギルドが主体になって動くにはこの地のダンジョンは弱い」



 ヴァーリ子爵領のダンジョンは初心者向けのダンジョンだからね。深層まで行けばそれなりにうまい階層もあるけど、地理的なこともあってギルドが積極的に狙うようなダンジョンじゃない。

 もっと旨味のあるダンジョンが他にあるもんな。



「つまり何者かがギルドを動かしたということか?」

「おそらくは。見返りはダンジョンの管理権でしょう。旨味が少ないと言っても他と比較しての話。こちらのダンジョンも十分な利益が出るはずです」



 ギルドを動かすにはそれしかないわな。そしてダンジョンの管理をギルドに委託する手続きができるのは領主のみ。

 となると黒幕の狙いと正体もおのずと見えてくる。



「……目的はヴァーリ子爵家の乗っ取りか?」

「その可能性が高いかと。今の段階では首謀者は分かりませんが、近隣の領主か中央の貴族のいずれかだと思われます」



 おぉう。アベルさん、ほとんど正解に辿り着いてるじゃん。こりゃまた給料上がりますわ。



「ノワール様、どうされますか?」

「……どうとは?」

「旦那様からは道中で何かが起きたときには、ノワール様の指示に従うように言いつかっております」

「…………」



 アーノルドさんの言葉に考え込むノワール。さて、どうするのかな?

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