第13話 女子高生新妻? 半同棲生活がこれから始まる ACT3
「ん、……大丈夫。……だけど」
「山田さんまた眉間に皺寄せて顔こわばってるんだけど」
え、そうなの? 俺別に意識してねぇんだけど。
「なんかさぁ山田さんて、困ったことあるとすぐに顔に出るタイプなんでしょ」
「そ、そんなことねぇぞ」
「でも顔に出てるけど。……」
そうなのか? もしかして水瀬の言っていた癖ってこのことなのか?
「でさぁ、私やぱりの従妹なんだ。……妻じゃないんだ」
「妻? ば、馬鹿な。そんなことある訳ねぇじゃねぇか」
「あのね。私もう結婚できる年なんだよ。山田さんもそうだし……そうだこれから役所に行って婚姻届出してきちゃおっかぁ!」
はぁ! おいおい、頼む勘弁してくれよぉ。昨日の夜俺たち知り合ったばかりなんだぜ。実際。
「なんてね」と繭は舌を出しながら言うのである。
ったく、此奴の冗談には毎度驚かされるよ。こいつって本当はめちゃくちゃ悪女でみんなをたぶらかしてんじゃねぇのか? でも……なんでだろう? 俺さ確かに繭とは昨日出会ったばかりだし、それにまだお互いのことだってよく知らない。
だけどなんかこう……ほっとけないって言うかさ、守ってやらねぇとって思うんだよな。
これって俺の男としての本能的なもんだろうか?
「なぁ繭」
俺は思わず繭に声をかけていた。
「……何?」
と繭は俺を見つめる。その目を見るとドキッとするんだよな。なんか吸い込まれそうな感じになるんだ。
「あのさぁ、お前って……今彼氏とかいるのか?」
「え? いないけど……」とちょっと驚いた表情の繭である。
「そ、そうなのか?」
「うん」と言って少し間を置いてからこう続けたのだ。
「でも、山田さんがなってくれたらうれしいかなぁ」
「え! それってどういう?」
俺が繭の彼氏になる? なんでそうなるんだ。でもなんか冗談って訳じゃないって感じなんだよな……これがまた。
「……なんてね」と繭は笑うのである。
その笑顔は屈託のない笑顔で、そう言う顔を俺に見せつけられるとなんだかずっと前から俺は繭のことを知っているかのような錯覚におちいる。
この子は何か不思議なものを持っているのか?
それとも単にこんな短期間でこんなにも通じ合える? といっていいのかはまだ分からないがこの子をほっとけないという気持ちは次第に強くなってきているのは事実である。
「さっきの水瀬さんだっけ。会社の人なの?」
「ああ、俺の部下だ」
「へぇ山田さんて意外とえらいんだ。部下なんているんだから」
えらいと言うか、単なる俺は水瀬の教育係なんだけどな。
「私の事やっぱり会社にばれちゃまずいでしょ」
「そりゃ、まぁなんだそうだよな。一緒に暮すという訳じゃねぇけど、なんだ女子高生とこうしているって言うだけで犯罪に近いからな」
「ま、ギリ。犯罪じゃないんだよねぇ。そうでしょ」
「だとしても公には出来んからな」
「そっかぁ。じゃぁ、やっぱり婚姻届け出してこよか。そうすればさぁ、こそこそする必要もなくなるんじゃない」
「……それは無理だ」
そう言って繭の頭を軽くこつんとしてやった。
痛いはずは無いんだが繭は「いたぁーい!」と言った。
「大袈裟な」
「えへっ」とにヘラと笑う繭である。
荷物をいったん家に置いてすぐにまた出かけた。
今度は食材を購入しないといけない。購入場所は繭のリクエスト、駅商店街で購入することになっている。
こうして繭と歩いているところをもう知り合いに見つかることは。誰かと遭遇するのではないかと気にすればドキドキと鼓動がなってくる感じが否めない。
それにしても水瀬と会いうカタチで出会うと思ってもみなかった。
そう言えば水瀬ってどこに住んでいるんだ? この駅にいるって言うことは俺と同じ街に住んでいるのか?
いやぁそれはねぇだろ。
「ねぇ、山田さん」と繭が俺を呼んだ。
「……なんだ?」
「なんかさぁ、昨日から思っていたんだけどぉ」
「ああ」
「私たちって……周りからどう見られているんだろうねぇ」
「はぁ? どう言う意味だよ」
「だからぁ、私と山田さんってどう見られているのかなぁって」
「だから、どういう意味なんだよ。もしかして俺とお前は付き合っているとか、そう言うのか?」
と、思わず大きな声で言ってしまったものだから周りを歩いていた人たちが驚いて一斉に俺の顔を見た。
俺は顔を赤くしながらうつむき加減に頭を軽く下げたのだ。
そんな俺の様子を見た繭はクスクス笑いながら俺に言うのである。
「今時高校生でもこんな反応しないのにぃ」とニヤニヤ笑う繭だった。
お、重い。買い物袋の取っ手が異常に手に食い込んでくる。
しかも両手にだ。
正直買い込みしすぎた感ん満載だ。
まぁも繭の買い物っぷりは板についていると言うか、そこらの主婦よりも手慣れている。しかも値切り上手だ。
しかし本当にいろんなものを買った。おかげで俺の財布からは結構な額の現金が飛んでいった。
まぁでもこうして繭がやる気になっているというのを止めることも、その気もねぇ。
なんか暗黙の了解的に俺も納得してしまったが、冷蔵庫を使わせる代わりに食事を作ってくれと言うこの申し出。どんな料理が出てくるのかはまだ皆目見当はつかないが腕には自信があると言うのもこの買い物でそろえた食材なんかを見れば結構なものが出てくるんじゃねのかと期待感もある。
でも……くそおもてぇ。
これでもまだ買い足りないような感じで繭は言うけれど、もう持ち帰るのに限界と言うので妥協させた。
「はぁー。ようやくついた」
「ほんと重かったね」
「ああ、ほんと買いすぎじゃねぇのか?」
「ん―、それを言うなら何にもない方がもっと罪ですよ山田さん」
なんだ俺が悪者扱いかよ。
「さ、生ものもあるからすぐに冷蔵庫に入れないと。私やりますから山田さんは休んでいてください。疲れたでしょ……おじさんは」
はぁ―おじさんだとぉ! とは言われてもなんか怒る気力も湧かない。
ベランダのサッシを開け外に出てたばこに火を点けた。
ふーと白い煙を口から吐き出し、ひと時の充実感にひたる。
本当におかしな展開になったものだ。
俺も最初は断ったんだ。でもあいつのあの涙を見てからというもの、どうしてか断れなくなったんだよなぁ。
なんか放っておけないって言うか……そんな感じだったんだよ。
あいつもあいつでなんで急に俺と住みたがったのか不思議だ。もしかして最初からその気だったのか? いやそれはねぇだろう。
「山田さん」
繭の呼ぶ声に反応して振り向いた。
「なんだ?」と繭に言う俺である。
「ベランダでたばこはやめた方がいいですよ。洗濯物に匂いが染み付いちゃいますから」
と繭は小言を俺に言ってベランダのガラス戸を開けた。
「あ、ああ。そうだな」と言って俺は慌ててたばこの火をもみ消すのである。
「じゃぁ、私冷蔵庫に生ものとか入れますから」と繭は冷蔵庫を開け中を確認している。
「なぁ、繭」と俺は声をかけた。
「なんですか?」と繭が俺の顔を見る。
「お前って……どうして一人暮らしすることになったんだ」
「え?」と繭は驚いた表情だった。そして少し間を置いてから俺にこう答えたのである。
「私ね、ちょっと……家出をしてきたんです」
「家出だと……」
「……はい」と言ったきり繭は黙り込んでしまった。
答えたくないそんな雰囲気が漂う。
「でもちゃんと了解はもらってきています」
そう言ってまた黙ってしまった。
繭の触れてはいけない部分と言うものに俺は触れてしまったのか……。
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