第14話 女子高生新妻? 半同棲生活がこれから始まる ACT4

「あのさぁ山田さん」と繭が俺を呼んだ。


「ん?」

「あ、あのさ……」

「どうした」

「ちょっとお手洗い借りてもいいですか?」


「え?  ああ、かまわねぇよ。そこ出てすぐだから」

「うん、ありがとう」と言って繭はトイレに駆け込んでいったのである。


俺はそんな繭を目で追いながらベランダの戸を閉めた。そしてまたたばこに火を点ける。おっと、洗濯もの干しているところから少し離れねぇと……。においがつく。て今まで何も気にもしていなかったが、あいつも女の子だ。いろいろ気にすることもあるんだろうなぁ。


でも……家出か。

繭のあの表情、そして俺への思い。


なんかあいつって訳ありなのか?  いやそれはねぇな。だってあんないい子にそんな過去があるなんて思えねぇし。

「ふぅ」と俺はたばこを吹かし煙を吐き出す。

それにしても遅いなぁ繭の奴。

まぁ女の子はいろいろあるから時間がかかるのか。


それにしても時間かかりすぎちゃいねぇか? ……あっちなのか?

でも万が一って事もあるしな。ちょっと見てくっか。

俺はベランダの戸を開けてトイレを見たけど繭の姿はそこにはなかったのである。

「あ、あれ?」と言ってみたがやっぱりいない。いったいあいつはどこに行ったんだ?


「たっだいま」と玄関の方から繭の声がした。

「お帰り」

と俺は繭に声を掛けたのだ。そして玄関から居間に入ってきた繭の顔を見て俺は一瞬ドキッとした。


なんか、顔が火照っているというかほんのり赤いような感じがしたからだ。しかも髪の毛も濡れている。それに……石鹸のいい香りがする。

「あ、あのさぁ山田さん……」と繭は俺に言うのであった。

「ん?  なんだ?」と俺が言うと、繭はもじもじしながらこう続けたのである。

「……お風呂……シャワー浴びてきました」

「え!  風呂に入ったのか」

「うん」と繭は言う。

俺はこの時、何故か頭に血が上ってくるのを感じた。何故だ?  なんで俺がこんな思いに……。


あ、そうかこの香りが……繭から香るほのかな石鹸の甘い香りが俺をそうさせてるんだ。

なんでこんな気持ちにならないといけないんだよ。くっそぉー!!  でもそんな俺の気持ちなんて知る由もない繭はこう続けたのである。


「あ、あのさぁ山田さん……」

「え?  あ、なんだ」と俺は繭の声に反応した。

「さっきはごめんなさい……変なことを言ってしまって……」

「ん、なんだっけ?」と俺はすっ呆けて見せた。……たぶん家出のことだろう。


「あ!  もう、とぼけちゃって山田さんたらぁ」と言って繭は俺の肩を軽く叩いたのだ。そして続けて言うのである。

「あのぉお風呂に石鹸がなくてですね。それでちょっとお借りしました」と少し申し訳なさそうに繭は言ったのだった。


「ああ、そうかい。別に構わねぇよ」

「うん、ありがとう。……でもなんか変な感じだよね」

と繭は俺に言うのである。


「あ、あのさ山田さん。あのぉー」

「……なんだ?」

「そのぉー、私ね、やっぱりちょっと汗臭いと思うからシャワー浴びた方が良かったよね?」と繭は言うのであった。

俺はそんな時、また頭に血が上ってきているのを感じた。


「はぁ、お前さぁ」と俺は少し呆れ気味で繭に言ったのである。

「な、なに?」

「その言い方だとよ、なんかさ……まるで俺と一緒に風呂に入りたいように聞こえるぞ」

「あ……」と言って繭は急に顔を真っ赤にして下を向いてしまったのだった。

そして続けてこう続けたのだ。


「……うん」と小さな声で言う繭である「もう一度入ろっか」

そんな繭を見て俺はもう我慢の限界だった。

でもそんな俺の気持ちを全く知る由もない繭は、ふと顔を上げて俺にこんな事を言うのであった。


「山田さんってさぁ……」

「ん?」

「山田さんって……童貞なの」といきなり言われて俺は思わず吸っていたたばこの煙でむせた。そして慌てて言う。


「お前!  なんてこと言うんだよ!」と俺が言うと繭は俺の事をじーっと見ながらこう続けたのだった。

「……顔赤いよ」と言ってクスクス笑う繭である。

そんな繭を見て俺は心の中で思った。


ああ、くそ!  こいつ可愛いな……。

でもなんだよその顔。俺が童貞だとそんなに楽しいのかよ。実際童貞ではない。

「なぁ繭」と俺は言ったのだった。

「なに?」と繭は俺を見て答えるのだ。そして続けて言うのである。


「……お前さぁ、本気か?  本気で俺と一緒に関わる生活を送っていくのか」

「うん。本気だよ山田さん」と繭は答えたのであった。


もうここまでくれば俺も引き下がることは出来ねぇし、この子自体俺をたぶらかしているような感じでもねぇ。

どことなくまだあどけない感じとちょっとした駆け引きの不器用さが、この子は自分がこれから生きていくために俺に援助を願い求めているんだということを受け止めている自分がいるのが事実である。


「買ってきたものの片付けの方はもういいのか?」

「うん、もうほとんど終わったよ。でもさぁ、ほんと大きな冷蔵庫だよねぇ。どうしてこんなに大きな冷蔵庫買ったの? 中身はすっからかんだったけど」


「ああ、こいつか。この冷蔵庫、俺の姉貴からのおさがりていうか、姉貴のところで新しいの買ったから俺んところに送り付けてきやがったんだ」

「ふぅーん。山田さんておねぇさんいるんだ」

「まぁな、結婚して甥っ子もいるぞ。やんちゃなんだけどほんとに可愛いんだよなぁ」


「山田さんは子供好きなんですね」

「まぁ―な。嫌いじゃねぇな」

「そっかぁ―、じゃぁ何人くらい欲しいですか子供?」

「はぁ?」

「私頑張って産みますわよ!」


「おい、それはありえねぇだろ!」

「えへっ! 別にいいじゃないですか! 楽しい明るい家族計画……私は3人くらいがいいかなぁ。ねぇパパぁん」


「馬鹿なこと言っておちょくるんじゃねぇの」

「ふぁーい」

と繭は舌を出す。


ったく、なんか調子狂うなこの子は……。

でもなんでか憎めねぇんだよなぁこの感じ。

「なぁ繭」

「はい?」と繭が答える。

俺は少し間を置いてから言うのである。


「……そのなんだ、お前ってさぁ、どうして家出をしてきたんだ」と俺が言うと繭は下を向いてしまったのであった。そして続けてこう答えたのである。

「あ、あのぉ……それは……」と言ったまま黙ってしまった。


「いや、言いたくなかったら別にいいんだ」と俺は慌てて繭に言ったのである。すると繭は俺にこう言ってきたのだ。

「あのぉ……お水を一杯もらえませんか?  ちょっと落ち着きたいので……」と言うのであった。

「あ、ああ、そうだなちょっと待ってな」と言って俺はコップに水を入れてきて繭に渡したのである。


「もう昼すぎちゃったけどお前腹減ってないか?」

「あ、はい。減ってますけど」

「じゃぁなんか作るか?」

「え!  山田さん料理できるの!」と繭は驚いた様子で俺に言うのだ。


「まぁな、これでも一人暮らし長いからな」と俺は少しドヤ顔で答えたのである。

「でも……冷蔵庫がからっぽだったじゃないですか」と繭は言うので俺はこう言って繭を安心させてやることにしたんだ。


「ああ、それはだな、ちゃんと下ごしらえして……」と口は軽やかに動くんだが体は動かすことはないこの俺。

「私やりますよ。お蕎麦買ってきてあるんです。それでいいですか?」

「おう、十分だ」

繭は台所に立ち手際よく蕎麦を茹で、あっと言う間に作り上げてしまったのだ。


「はい、私からの引っ越し蕎麦です。どうぞお召し上がりください」

……私からのって金払ったの俺なんだけど……ま、細かいことはいいか。


出来上がった蕎麦をつけタレに落とし、ずずずずずっとすする。

う、旨いではないか。この蕎麦の茹で加減といい、つけタレの出汁のきき具合も絶品だ。繭が料理をしているその後ろ姿を見ていたが何か難しいことをやっているそぶりは何も感じさせなかった。ごく当たり前に作業して、ごく当たり前に蕎麦を完成させていた。


よっぽど手慣れていないとあの動きは出来なぇよな。



繭の料理は本当に旨いのかもしれん。そうこの蕎麦が物語っていた。


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