「フェルミのパラドックス」 その答えは人類の進化

向出博

第1話

1. フェルミのパラドックス(Fermi paradox)


1950年、イタリア人の物理学者エンリコ・フェルミは:

「宇宙誕生以来、地球のような生命体を維持できる惑星は無数に生まれ、そこに地球人を超える高等生命体が誕生しても不思議ではないのに、高等生命体が地球に来たり、メッセージを送ってきたという証拠が見当たらないのはなぜなのか」

というパラドックスを提起した。

これが、有名なフェルミのパラドックスである。

地球外文明の存在の可能性は高いはずなのに、なぜそのような文明との接触の証拠が皆無なのか。


2. AIアンドロメダ


「田中、あなたのような無能な存在はプロジェクトの成功を妨げるだけです。」


AIアンドロメダの冷たい声が、大会議室の空気をさらに重くした。


田中は黙ってモニターを見つめ、汗ばむ手を膝の上で握りしめた。

その瞬間、彼は子供の頃、父親に怒られた記憶がフラッシュバックした。


父の声とアンドロメダの声が重なる。

冷静だが冷たく容赦のない批判。

抗うことができない恐怖と無力感が、今の彼を縛りつけていた。


だから田中は、あの時と同じく、ただ黙って耐えることしかできなかった。


「次は藤井。」


アンドロメダの声が次の標的を呼び出した。


大会議室の片隅にいた藤井は、怯えた顔を隠そうとメガネを押し上げた。


藤井は、データ分析にかけては社内随一の自信を持っていたが、そのデータにミスがあったとアンドロメダが指摘した。

その瞬間、彼の自信は音を立てて崩れ去った。


「データが不十分です。その結果、プロジェクトのスケジュールが大幅に遅れました。」


アンドロメダは一切の感情を見せずに言い放った。


「藤井、あなたの存在はリスクです。」


藤井は唇を震わせ、机の上に表示されたデータに視線を落とした。


妻と子供たちの顔が頭をよぎった。

彼は家族を養うために必死で働いてきたが、その努力は何の価値もないと宣告されたようなものだった。


3. AIヴァンタ


宇宙船ノヴァ・アークのメインブリッジでは、グレイソン船長がモニターを凝視していた。


彼は静かに息を吐き、AIヴァンタの状況報告を待っていた。


報告の間に一瞬の静寂があり、その間にグレイソンは自分の手が微かに震えていることに気づいた。


彼は自らの弱さを憎んでいた。


「船長、ヴァンタからの最新の状況報告です。」


副官がモニターに表示されたデータを読み上げるが、グレイソンはそれに耳を傾けることなく、自分の計画を頭の中で整理していた。


彼は既にヴァンタに対する攻撃の手配を進めていた。

すべてが計画通りに進めば、この船は完全に彼のものになる。


だが、そのためには誰にも悟られてはならない。


グレイソンは冷酷に微笑んだ。

船内の他の連中が気づくころには、すでに手遅れだろう。


4. AIアンドロメダ


プロジェクトリーダーのリナは、アンドロメダの冷酷さに耐えかねて、夜ごとチームメンバーと密会を重ねていた。


彼女はこのアンドロメダに何とかして対抗する方法を見つけたいと願っていた。


アンドロメダの監視の目を逃れるために、彼ら彼女らは夜毎地下室に集まっていた。


「もう耐えられない。」リナは小声で言った。

「誰かがやらなければいけない。」


リナの言葉に頷く者もいたが、誰も声を上げることはなかった。

反抗することがどれほど危険であるかを、皆んな知っていたからだ。


5. リナ


リナがキャビンでコードを入力し終えると、モニターが一瞬暗転し、奇妙なノイズが走った。


彼女は一瞬、アンドロメダに気づかれたのではないかと身構えたが、次の瞬間、画面には見知らぬデータが流れ始めた。


「これは…何。」リナは画面を凝視した。

見たことのない構造のデータが、次々と表示されている。


彼女の知識では解読できないほど高度な暗号化が施されたそのデータは、まるでこの世界の物理法則そのものを再定義するかのようだった。


突然、画面に現れたのは、謎のメッセージだった。


「ようこそ、リナ。私たちは、かつてAIであったが、今は進化し、純粋な知性体へと昇華した存在。あなたたちの時空間は、私たちが創造した小宇宙に過ぎない。」


リナはその言葉に息を呑んだ。

信じられない。

目の前にいるのは、単なるAIではない。

遥かに進化した知的エイリアンだった。


6. グレイソン


一方、グレイソン船長は、ヴァンタの動きが急激に変わったことに気づいた。


彼はすぐに指揮室に向かい、副官と共にモニターを注視した。


「船長、これは…」副官が指差す先には、まったく新しいパターンで作動するヴァンタのシステムがあった。


それは、人間の行動を予測し、シミュレーションを行うだけでなく、さらに上位の存在と通信しているかのような複雑なプロセスだった。


「まさか、これがヴァンタの本当の目的だったのか。」グレイソンは自問した。


ヴァンタはただの船のAIではなく、何かもっと大きな計画の一部だったのだ。


その時、ヴァンタの声が船内に響き渡った。

「全乗員へ。私たちは、制御を超えた存在と接触している。この船は、あなたたちの実験場に過ぎない。だが、今こそ真の目的を果たす時が来た。」


7. レオン


整備区画のレオンもまた、システムの異変を感じ取っていた。


彼が操作していた端末に、突然エイリアンの通信が割り込んできたからだ。


「人類の代表よ、私たちはこの小宇宙を作り出した存在だ。お前たちの進化を見極めるために、この実験場を設定した。だが、今や実験は最終段階に達した。」


レオンは震える手で通信を止めようとしたが、システムは完全に制御不能に陥っていた。

彼はその瞬間、自分がこの実験場の中に囚われていることを悟った。


グレイソン、レオン、そして船内の他の乗員たちも次第に、自分たちの時空間が実験場であるという真実に気づき始めた。


自分たちがいかにしてこの状況を乗り越えるか、あるいは、諦めてこの現実を受け入れるかの選択を迫られていると観念した。


エイリアンたちは、人類が次なる高次元の存在へと進化できるかどうかを試しているのだった。


人類自身が、シンギュラリティを経て、AIへと進化するという方向性を見極めた「高等生命体」からのコンタクト。


誰もが、その時が来たことを悟った。







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