散歩リトライ
今日はどこで寝泊まりしようか。
そういえば、結局スマホを買わないといけないから、新しいのもショップで探さないと。
気分転換に散歩しながら、そう考えていたとき。
電話が鳴った。
マスターに渡された、安いスマホだ。
画面を見ると、電話番号だけが表示されている。
それは、私の電話番号。
盗んだ私のスマホで、電話をかけてきたに違いない。
良い人じゃ、ないはずだ。
念のため、ボイスチェンジャーアプリを速攻でダウンロードし、エフェクトをかけて私の声がバレないようにする。
電話は長いこと鳴っている。
準備が終わったので、取った。
『こんにちは。君は、盗聴していた人物で間違いないかな?』
「そう」
相手の声は、おそらくグループのボスと話していた相手。
氷銃のブローカーだろうか。
向こうはバレてもお構いなしと、生の声で。
「それは、私のスマホからかけてきてるの?」
『その通り。ところで、君のスマホには連絡先が一人も登録されてないじゃないか。友達、いないのかい?』
「あなたよりはいると思うけど」
念のため、スマホに他人のことを保存しないようにしていたのが
「どうやって私のスマホのロックを突破したの?」
『この時代に123456をパスワードにするのはやめたほうがいい』
……私が悪い。
「電話なんて、なんのつもり?」
『最近うわさになっているからね。あちこち歩き回って、危険な場所に自ら突っ込んでいく不審者がいるとね』
どの口が言うってやつだ。無言の圧で、返答をする。
『冗談だよ。味方か敵か知りたいっていうのが本音かな。君も氷晶石を持ってるそうじゃないか。どこから奪ったんだい?』
「私はあなたとは違って、奪ったんじゃない。託されたの」
『……これはこれは。友好的ではなさそうだね』
「逆に聞くけど、海氷街の氷晶石を奪って武器に変えてるのは本当?」
『よく知ってるじゃないか。あの質屋の男から教えてもらったのか?』
「私の街は氷晶石を奪われたせいで、海に沈んだ」
『そうか。それは残念だね』
「あなたがやったの?」
『やってたらどうするんだい?』
「武器は全部壊すし、あなたは二度と外を歩けると思わないで」
電話越しに、笑い声が響いてくる。
私の怒りなんて向こうからすれば、ほえた子犬程度の印象なのかもしれない。
余計に腹が立つ。
『そうだ、新作はどうだった? あの男に撃ったものだ』
「あなたが作ったの?」
『そうだよ。氷銃は威力があんまりないからね。体を貫通するほどじゃないのを逆手にとって、相手の体に氷晶石を埋め込む方式も試しているんだ』
「……絶対に、好きなようにはさせないから」
『答えてはくれないか。まあ頑張ってくれ。武器を使う機会が増えるのは、僕としてもうれしいことだよ』
相手は電話を切った。ツー、という音が、氷に反響して耳に残る。
いろいろあったけど、黒幕は見つけた。
あとは、なんとしても捕まえる。
◇
昨日は、ホテルにつくなりすぐに寝てしまった。自分が思っていた以上に疲れてたみたい。
考えて見れば、肩に力が入ってたり、緊張したままだったりと、消耗することが多かった。
体を壊さないように、気をつけて生活しないと。
まずは、朝の散歩から。
今日も晴れていて、日差しはいい調子。
日光浴を楽しんでいると、まだ朝早いのに、走っている人の姿。
あれだ、前もあったランナーの人。
毎朝ランニングしているのかな。
体力作りも大変だね。
すると、今日は後ろから追いかけるように走ってくる人もいる。
ランニング仲間までいるらしい。
「そこの人! そいつを捕まえてくれ!」
そこの人とは……私か。そいつっていうのは誰?
反応が遅れて、戸惑ってしまった。
後ろからランナーを追いかけていた人は、ぜえぜえと息を切らして、私の前に止まった。
「いや、ごめん。つい叫んじゃったけど、女の子だったのか。無理をさせるところだった」
「どうしたの?」
「今日こそはあいつを捕まえようって、店を出るところを追いかけたんだ。でもあいつ、マジで足が速すぎるんだよ!」
積年の恨みを感じる怒り方。
私のスマホが盗まれたってこと、教えてくれたし。
捕まえるような理由はなんだろう?
「あの人、いい人だったけど」
「そんなわけないって! 何回俺の店で食い逃げしたと……はあ、君に怒ってもしょうがないね。ごめん」
しょぼーんという効果音が似合うほどに意気消沈。
とぼとぼと歩いて帰っていった。
つまり、ランナーが毎朝走っているのは、食い逃げで逃走してるってこと。
……私もだまされていた。
冷静に考えると、コトリの熟練した盗み技術を見抜いたし、スラムへとつながる通路を知っていたし。
最初から、一般人じゃなかったか。
いい人だと思ったら悪い人だったり、悪い人だと思ったらいい人だったり。
第一印象で判断するのは、よくないね! じゃあどうすればいいかって言われたら、私にはわからないけどさ。
いい日差しも、実は悪いやつなのかも? そういえば、私って日焼けするのかな。
……早めに帰ろうかな。
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