帰る先と行く先
元の場所に引き返し、コトリと合流した。
質屋に関しては、とりあえず言われた録音機は壊したし、これ以上できることはない。
手に入れた情報は、船便で氷銃の引き渡しがあること。日付も場所もわからないから、また調べないと。
マスターがやられたことをコトリに話すと、電話の時点で予期していたから、驚く様子はなかった。
そういう出来事には慣れているってこともある。
これ以上スラム内部にいて、グループの人間に目をつけられるのは危険すぎるから、帰ることにした。
もう立ち入るつもりもない。
スマホは取り戻せなかったけど、知れたことは多い。
必要な代償だと思おう。あの人の命も。
細い路地を抜け、元の住宅街まで戻ってきた。
コトリとは、ここでお別れになる。ただ、気になることがある。
「コトリは、これからどうするつもり?」
質屋はなくなってしまったし、スラムの外で盗品を買ってくれる場所はほとんどないと思う。
あまり他人のどうこうに興味はないけど、一文無し、当ても無しの人間をほっぽり出すのはいくら私でも気が引ける。
それに……私の一件にも大分関わったから、後で狙われることもあるかもしれない。
「ん~、まあなんとかなんだろ。今までもそうやって来たしな」
のん気で、あまり考えていなさそう。
最初に合ったときも割とギリギリだった気がするし、本当に大丈夫なのか、疑わしい。
できれば、安全な場所で仕事を見つけてもらいたいけど……スラムで生きた経験を活用できる仕事って何?
「なんかやりたいことある?」
「ん~、飯が食えればなんでもいいぜ」
希望無し。
今日食べたいものあるって聞いて、何でもいいって言われると、逆に難しいよね。
前にも思ったけど、声はしっかりしてるから、接客業とかどう?
一般常識は、教えればなんとかなるかな。あの逃げ足と戦闘力があれば、店の安全も守れるかもしれないし。
守護役として……あ、いいこと思いついた。
◇
コトリを連れてきたのは、以前お世話になった服屋。
「あ、いらっしゃ……ユキだ!」
店番をしていたのはヨウナ。
ついこないだではあるけど、ヨウナからすれば最後にあったのは誘拐されたときだから、久しぶりといえば久しぶり。
「となりの人は誰?」
「コトリ。ここで働かせてあげてほしいんだけど、店主さんいる?」
「いるよ、何の用かな?」
店主って言葉に反応して、作業を止めて店の裏から出てきた。
いったんコトリはヨウナとおしゃべりしててもらって、私は店主に話を通す。
……あの二人、打ち解けるのが早くないかな?
人見知りしないのはいいことだけど、私は見習えないな。
「突然でごめんね。あの子、雇ってあげてくれない?」
「新しい従業員を入れる予定はないかな……人手があるのはうれしいけどね」
当然の反応。私からはかいつまんで事情を説明し、ヨウナのボディーガードにもなるよってアピールをしておいた。
もしお店のお金を盗むとか、変なことをしたら私が回収しに行く条件で。
スラムの人間に、拒絶反応を示すようなら……諦めよう。
「ご飯をあげれば、言うこと聞いてくれるから」
念押しに付け加えた。
ご飯代が給料に匹敵する金額であろう事は、内緒。
店主は悩んだ末に、首を縦に振ってくれた。
「オレも病気か何かあれば店を開けることもあるし、ヨウナだけに任せるのも難しいからな……どのみち、もう一人くらいはいるか」
よし、これで後は、ヨウナとコトリが仲良くやってくれればおっけー。
店主と話を終えて、二人のほうに注目。
連絡先交換しよ、え? スマホって持ってない? みたいな会話をしている。
その様子を見届けて、私は静かに店を去った。
機会があればまた様子を見に来ようかな。
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