都市の歓楽街

狭義の迷子

 発展した都市にある場所といえば。そう、ショッピングセンター。

 

 海氷街の中でも中心の、都市部にあるショッピングセンターで、ビル群立ち並ぶうちのひとつの施設。

 

 来たのは、スマホを新調するために。

 

 盗まれたほうが不正利用されないように、前の契約を解除して、とか、どのプランがおすすめとか、長い時間契約のあーだこーだを聞かされた。

 

 ずっと座ってたから、腰が痛くなってきた。

 椅子が硬いし。

 せっかくなら、お客さん用の椅子はもっと高いのにしてくれてもいいのに。

 

 それから、ウィンドウショッピングをすることにした。

 もう買いたい物があるわけじゃないけど、街の中を歩き回るのは好きだから。

 息抜きもかねて、ぶらりと。

 

 今日は休日だから、人もいっぱい。

 私の身長だと人の波に流され、どこかへ連れて行かれてしまう。

 親と一緒に来ていたら、手をつないでいないと迷子になってしまいそうだ。

 

 いないけど。

 

 ちなみに、海氷街において休日の存在は絶対だ。

 

 あまり氷を作ったり削ったりの活動を活発にしすぎると、冷却器の性能を超えてしまって、どこかしらの氷が溶け出しまったり、新しく作る氷がもろくなったりするから。

 

 人が休む日というより、機械を休ませるための日。

 生活する人にとっては、休日の理由なんてなんだっていいけどね。

 

 遊びに来てる人も多いから、明るい話し声に満ちている。

 

 そんな中、通路に設置された休憩用のソファーに、一人の青年が腰掛けていた。

 私服姿で、彼も休日を楽しみに来たに違いない。

 

 一見すると普通の光景だけど、私が目をとめたのには理由がある。

 通り道だったのが一番だけど。

 

 とっても、何かを悩んでそうだ。

 悩みすぎて、口からブツブツと独り言がもれだしている。

 不審者と間違って、通報されても文句は言えないな。

 

 何をそんなに考えてるのか、つい気になったけど、今日のところはそっとしておこうかな。

 

 スマホの契約で、人の話を聞くの、疲れちゃった。

 

 すっと彼の前を、別の場所を見に行こうとした、そのとき。

 

 彼は顔を上げて、前を見た。彼の正面にいるのは、私。

 

 目が合ってしまった。

 彼はツチノコを発見したかのように目を見開いて、今にも私に話しかけようとしている。

 

 ちょっと遠くに見えるゲームセンターに、RPGゲームの広告が流れてる。

 もし現実がゲームなら、私の目の前にはこんな文字列が。

 

 逃げられない!

 

 ◇

 

 長話はしたくなかったから、カフェに入ったりはしない。

 立ったまま、話を聞くことにした。

 

「俺は今、迷子なんだ」

「迷子センターに連れて行ってあげようか?」

 

 子どもの年齢には見えないけど、一応聞いとく。

 

「迷子センターで、人生の行く先を解決してくれるのかよ。迷ってるのは道にじゃなくて、運命の決断になんだ」

 

 話しかけて損した、はよくあるけど、話しかけられて損した、は久しぶりかも。

 

「親は呼んでくれるんじゃない?」

「やめてください。こんなことで親を呼ばれたら、たまったもんじゃない」

 

 人生がどうとかはどこに行ったの?

 って言ったらまた話が脱線しそうだから、口をつぐむ。

 

 ところどころ自分語り的な余談が混じるのを、私の聞く力でうまくカット。

 どうにか、彼が悩んでいる事情は理解できた。

 

 まず、彼は学生。

 名前はリョウ。

 学校の帰りに、このショッピングセンター内のゲームセンターでよく遊んでいる。

 

 彼が遊びに行くと、ほぼ毎回見かける女の子がいるらしい。

 

 基本的に話すことはないけど、この前は一緒に適当なゲームで遊び、ちょっと仲良くなった。

 

 そして前回、なんと告白された。

 彼はどう答えるか迷った末に、次来たときまでに決めておくと言ったらしい。

 

 この時点で優柔不断だけど、結局今日、今になっても答えは出せず、ゲームセンター近くのソファーで悩んでいた。

 

 以上が彼の事情らしい。

 

「帰っていい?」

 

 最近、誘拐事件とかに関わってたせいで、この程度だとあまり感情が動かない。

 青春っぽい悩みだから、むしろいいことなんじゃない?

 

「待ってよ。女の子サイドの意見が聞きたい。告白されたとはいえ、遊んだのは一回だけ。彼女はどこかで俺を知っているのかもだけど、俺はあの子の名前すら知らない。俺のどこにほれたんだ?」

「本人に聞きなよ」

「聞けないから君に聞いたんだって!」

「連絡先とか持ってないの?」

「持ってるよ。でも俺の気持ち的な問題! やれるとやるは違うんだ!」

 

 彼の姿を見る限り、普通な印象だ。

 私はあんまり人の見た目の良し悪しを判断できない。

 でも、顔は悪くないと思う。

 

 身なりはかっこよくはないけど、ダサくはない。

 

 アクセサリーはつけていないし、靴はよくあるスニーカーだから、プラスでもマイナスでもない。

 

 つまり、特筆して褒めるところはないけど、特筆した欠点もなさそう。

 強いて言えば、こんなことを見知らぬ私に相談する性格くらい?

 

 メンタルが強いって考えれば、良いことかもね。

 

「相手は好意を持ってくれてるわけだし、とりあえず会ってきたら? 悪いことにはならないと思うよ」

 

 無難なアドバイスで、会話を終わらせようとした。

 

「やっぱそうだよな……ありがとう。プレゼントも用意してくれてるらしいし、相手の気持ちには答えないとだ」

「いいじゃん。何くれるの?」

「これからも一緒にゲーセンで遊ぶために、お金稼ぎの本? かなんかをくれるらしい」

 

 おっと? それはちょっと話が違わない?

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