穴の塞がったコート

「借りた服の弁償は、これで何とぞご容赦を……」

 

 思い出の分まで考慮して、服の修繕費に加え、服二着分の代金をカウンターに乗せた。

 

 昨夜の誘拐事件、後のことは警察に任せることにした。

 悪党たちは無力化できたし、変なドレス姿の私が氷を溶かして助け出そうとしても、捕まってる人たちはさぞビックリだと思うし。

 

 ヨウナのスマホから通報した後、脱ぎ捨てた服と手袋、靴を回収して着替え直したけど、服の修繕の間だけの借り物の服だというのに、銃で撃たれた穴があいていた。

 

 冷や汗が出たね。

 

 そして今日、とっても気まずい気持ちを抱えながら、弁償の代金を差し出した。

 

 私のコートは、ヨウナの無事を確認し、私も関わっていることを聞いてから、大急ぎで直してくれたらしいね。

 ありがたい話。

 

「いや、恩人からお金を取るわけないって。むしろ、こっちが払わないといけない」

 

 店主は私が出したお金を倍に増やして、私に返す。

 

「私はいらないから。それは受け取っておいて」

「……まあ、そう言うと思ってたよ。わかった」

 

 店主は身を引いてくれた。

 面倒なやり取りはしたくないから、そうしてくれると助かる。

 

「服は大丈夫そうか?」

「うん、バッチリ」

 

 コートの胸の部分にあいていた穴はきれいに補修されている。

 洗濯も服屋だけあって丁寧だから、むしろ前よりコートは輝いてるんじゃないかな。

 

 ものは受け取ったし、あまり仕事の邪魔しちゃいけないから、さっさと立ち去ろう。

 服屋の玄関扉に手をかけた。

 

「ヨウナに会っていかないのか?」

 

 ヨウナは病院で検査を受けている。

 話を聞く限りでは全く問題なく動き回っているらしいけど、蹴られたりもしてたし念のため。

 

「私を狙う人もいるかもしれない。あなたにも、ヨウナに関わるのも、これ以上は避けた方がいいから」

 

 今回の誘拐事件は、たまたま近場で起きた事件に私が首を突っ込んだ形だけど、次は私を狙ってくるかもしれない。

 

 ただの誘拐事件にしては相手の人数も多いし、手口も慣れていた。

 

 裏に、もっと大きなグループがいるに違いない。

 

 それに……久々に氷晶石の侵食の結果を見せられて、改めて思った。

 

 いくら氷を溶かす体質とはいっても、私も少しずつ氷晶石の侵食を受けているのかもしれない。

 かけら程度じゃなくて、原石を常に身につけている訳だから、私の先もそう長くはない。

 

 長く人同士の縁を持ったところですぐに居なくなってしまうのだから、下手に関係を引き延ばすのは迷惑だ。

 

「それじゃ、服はありがとね」

 

 服屋の玄関扉を開け、そそくさと出て行った。

 

 ◇

 

 さて、次はどこに行こうか。

 しばらくは大人しくして気配を消す予定。

 あんまり活動しすぎると、私の居場所や情報がバレてしまうから、息抜きでもして時間をつぶさなきゃ。

 

 そういえば、前回は宿を取り忘れて、そこら辺で寝る羽目になっちゃったな。

 今回はその反省をかして、先に宿を取ることにしよう。

 

 そう思って、ネットで良さそうな宿を見つくろい、ホテルマンに部屋の料金を聞いたわけだけど……。

 

「わたし、六さい。おかね、もってない」

「……おうちに帰るのはいかがでしょうか?」

 

 一言で言うなら、高い!

 疲れたし、たまにはちょっといいとこに泊まろうと思ったら、すぐコレ!

 たまにはぜいたくしたっていいじゃん!

 

 やっぱりを張らずに、店主からお金をもらっておけばよかったか。

 

 なんて品のない思考をしながら、財布にしまい忘れたお金がコートに入ってないか、ポンポンと手でたたいて探していると。

 

 胸のところで、くしゃっとした感触があった。

 補修してもらったところ。

 

 コートに手を突っ込むと、内ポケットが作られていた。

 中身を取り出すと、封筒が三枚。一つはヨウナから、もう一枚は店主からの手紙。

 

 最後の一つには――お札が入っていた。

 人からもらったお金を数えるのはあんまり良くないけど、感触からして、この宿くらいなら間違いなく余裕。

 

「私、大人。大金持ち、イケてる」

「……部屋はあいていますが。ご宿泊なさいますか?」

 

 手紙を読むって時間つぶしも見つけたし。

 たまにはぜいたくしたってバチは当たらないでしょ。

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