マーク

 連絡はまだだけど、服屋に寄っていくことにした。

 もうすぐ日も暮れるし、まだできあがってないなら、明日の朝に取りに行くことにしよう。

 泊まる場所も探さなきゃ。

 店の前を通りかかると、くもった大声が聞こえた。ケンカの声だ。厚い氷の壁すら通り抜けてしまうくらいの。

 これは面倒ごとになりそうだ。やっぱり明日の朝にして帰ろうか。

 そそくさとその場から立ち去ろうとしたとき、玄関から飛び出してきたヨウナと鉢合わせてしまった。

 目の前で出会って、無視は無理。

 というわけで、私の宿を探すついでに散歩しながら、何があったのかを聞いていた。

 なにやら、ヨウナの将来について、父親である店主と意見の相違があるらしい。

 店主の主張としては、ヨウナには危ないスポーツをやめ、裁縫を含めた服屋の業務を学んで欲しいとのことで。

 最初に服屋を訪ねたときも、そんな話を聞いたような。

「アイスホッケーって、そんなに危ないスポーツなの?」

「そんなことないよ! たまに乱闘があるくらい」

 少なくとも、安全なスポーツじゃなさそう。

「結局、なんでケンカしたの?」

「……正直、私の機嫌が悪かっただけだよ。練習ができなかったってこともあるけど、なにより友達が心配だし。いつもの話でも、今日は我慢できなかった」

 すでにケンカの熱は冷めて、冷静みたい。私がどーどーと鎮めたり、慰めたりはしなくていいね。

「服屋の仕事は、やりたくない?」

「そうじゃないんだけど……学校に行って、練習してってすると、時間が残ってないから。集中したいから、他のことやりたくないのが一番かな」

 なるほど。熱心だね。

 私から見れば少し思うところがあるけど、この辺はヨウナとお父さんの問題だし、他人の私が口を出すのは良くないか。

 何を言おうかヨウナの顔色をうかがったとき、服の背中に違和感を覚えた。

 汚れか何かがくっついている。いや、違う。ペンがこすれた後みたいな。

「なに? これ」

 ヨウナの背中に指さして聞いた。

「どれ?」

 体をねじっても、服の背中だからヨウナからは見えない。

 わざわざ脱がせて確認させるほどのものじゃないから、なんでもないとごまかしてその場は終わりになった。

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