簡易捜索
また、ヨウナについていくことにした。
知り合いも友達もいない中、一人ぼっちで知らないチームの練習を見ているのはあまりにも気まずい。
友達と、友達の友達とで話しているときに、友達だけがどこかに行っちゃったときと同じ。
来てない人の家は知ってるみたいで、スマホのマップを見ながら歩いていく。
先導するヨウナの背を追いながら、私はなんとなく街を眺めていた。
都市部のビルは壁面の氷が太陽の光を反射して、輝いているように見える。カメラで撮ればとてもきれいに映えるけど、もはや誰もが見慣れた景色だから、わざわざ眺める人はいない。
考えていたら、ドスンと、何かにぶつかった。
ヨウナの背中だ。体幹が強いせいで、私は衝撃のまましりもちをついたのに、ヨウナはびくともしてない。
「痛い……急に止まってどうしたの?」
腰をさすりながら起き上がると、そこには一台、スマホが落っこちていた。
「落とし物かな?」
「これ、今遅刻って言ってた子のものだよ」
ヨウナは確信を持ってるみたい。
スマホの裏側にはステッカーが貼ってあって、知っている人にとっては間違えないのかな。
「じゃあ、スマホを落としちゃったから連絡できなくて、今も探してる最中とか?」
「そうかも。とりあえず、家まで届けてあげて、練習に戻ろうかな。スマホがないんじゃ、どうやったって連絡もとれないし」
私もそれに賛成だ。
彼女の家に落とし物を届けて、親御さんから感謝の言葉をもらい、伝言を頼んで一件落着。
というのが、平和な街のあるべき姿だと思うけど、残念ながらそうはいかなかった。
親御さんと話をするところまでは良かったのに。
彼女は、誘拐されたらしい。
車で連れ去られるところを、近所の人が通報し、親御さんにはすでに連絡がなされていた。
スマホは位置追跡から逃れるために、犯人が捨ててったと想像できる。
ここまではなんだかんだ気楽な気持ちで行動していたけど、親御さんから直接この話を聞いて、ヨウナは意気消沈してしまった。
一応、予定通りの練習に戻りはしたけど、身に入らないのは目に見えていた。
それは他のメンバーも同じで、何も言わずとも示し合わせたように、今日の練習は早々に解散となった。
そして、ヨウナの家こと服屋に帰り、今。
空気が重たい……。
店主はもくもくと作業しているし、ヨウナはしゃべらないし。
ちょっと……別の場所で時間をつぶしてこようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます