第3話 決着

「私にヘーゲル様の容態を見せてもらえますか?」

「それはだめだ。認められない」

「いや」


 ドアが開く。


「今回はルルーシアにも来てもらおう」


 そう言ったのはヘンデルソン様だ。


「待ってください、王太子様」

「いいんだ。来てもらう」


 そう言ってヘンデルソン様は大臣に無理やり拘束を外させ、私を連れてヘーゲル様の眠ってる部屋に連れて行かせてもらう。


「今回、毒で眠っている。死の危険性はないが、五日ほどは眠ってしまうそうだ」

「……そうですか」

「ああ、だが犯人が本当にわからない。動機も全く見えない。なぜメイドを狙った後、王族を狙ったのか」


 ……それは私も同じだ。何もかもがわからない。メイドのシュシュリーが殺される理由がわからない。

 毒殺というばれにくい犯行とは言え、人を殺せば殺すほどばれやすくはなるし、警戒を強めることになる。

 そもそも私まで狙われたというのも不思議な話だ。私を牽制しようとしていたのか、それともまた違った理由でもあるのか。


「とりあえず、ここはヘーゲルが目覚めるまで待つしかないだろうが……ルルーシア、お前には何か秘策があるのか?」

「ないですけど、私はこの事件の犯人を見つけたいです。だから力になれるならできるだけのことはしたいです!」


 そして、私はそこから、ヘンデルソン様を連れて、別の部屋に向かう。

 ヘーゲル様の飲み物に毒が入っていたらしいのだ。シュシュリーの殺され方とも私の時とも異なる毒の盛られ方となる。私も毒を盛られた。

 この世界は日本とは違い、監視カメラも指紋操作もない。

 犯人を見つけるには厳しい状況だ。


「ヘンデルソン様、これは?」


 私は、その毒液を見る。水の中に混ぜられている。私の時には料理に盛られていたのに。

 些細な違いかもしれないけど、その違いが気になってしまう。なぜみんな同じ毒で盛られているのに、盛られ方が違うのか。

 シュシュリーがなぜ服に付着していた毒で殺されたのか、これは簡単だ。

 シュシュリーの昼ご飯は主にお弁当。それに毒を盛るなんて現実的じゃない。

 そしてヘーゲル様は毒飲料。


 そもそも私たちの料理に毒を盛ったのは、普通に考えれば料理人。だけど、それはとりあえず思考から消去する。候補が多すぎる。

 それに、ヘーゲル様を殺すなら、食べ物に混ぜるのが一番いい方法だ。

 私にやったみたいに。

 だけど、それは不可能だという事が分かっている。

 その事件以降、必ず毒見は欠かさないようになったからだ。


 そして、そもそも私はなぜ今も生きているのか。これが一番の謎だけど、それは一旦思考の隅にどけておく。



 続いての候補は、厨房に入ることができる人。これも候補が多すぎる。

 まずは、分けて考えなければならなさそうだ。


「はあ」

「そう落ち込むなよ」


 そりゃ、落ち込むよ。

 結局絶対に犯人を見つけてやる! と、息巻いていたくせに、犯人どころか、手がかりすらまともに見つけられていない。こんなはずではなかった……はずなのに。

 ただ、一つ不思議なことがある。ヘーゲル様が飲んだ毒飲料。それは毒見を受けずに飲んだらしい。

 私のことがあるから、不用心に飲むなんてそんなことはないはずだが。


「そう暗くなるな、きっと犯人は見つかるさ」

「はい、それと今日から一緒に寝てもよろしいでしょうか」


 なぜなら、一緒にいた方が、毒殺のリスクは抑えられるからだ。


「それはこっちから頼みたい」

「わかりました」


 さて、これで片方が毒でやられても、すぐにもう片方が医者を呼ぶことができる。

 そもそも服は着る前に毒見役が斬ることになっているし、部屋の外にヒーラーが待機しているから安全なはずだけど。

 ベッドの上に毒見役を眠らせてから私たちは布団によじ登って眠る。


「ふう、お休み」


 そう、私の隣で寝転がっているヘンデルソン様が言う。

 私は布団を蹴っ飛ばして、布団の外に出る。

 その「お休み」という言葉で急に恥ずかしくなった。イケメンの隣にいるという事が。


「どうしたんだよ」

「私……忘れてました。私男の人の隣で寝たことがないと」

「それは、君は元々ルークスの婚約者だったんだろ?」

「でも、一緒に寝たことなんてなくて……」


 所詮は許嫁。そもそもアマーリア様と一緒にいたルークス様とは、関わる事は少なかったのだ。


「だから恥ずかしくて」

「別に一緒に寝るだけだろ。別にお前を襲おうなんて思ってないんだし」

「……そうですよね」


 何を照れているのだろう。本当に私は……。

 一緒に寝るだけだ。そう自分に言い聞かせて、眠りにつく。

 緊張するけど、無心をキープしたらただの睡眠だ。


「おやすみなさい。ヘルナンデス様」

「ああ、お休み」


 その日の夜。私たちは一緒に寝た。そしてその翌日、私たちはある吉報とともに目覚めた。

 というのも、犯人を捕らえたという情報が入ったのだ。

 それを聞いて私たちはすぐにその現場に向かう。するとそこでは大臣が犯人の体を押さえている最中だった。

 犯人はコックの一人だった。


「畜生。こんなところで捕まるとは」


 そう言って彼は歯を食いしばっている。


「言え、なぜこんな事件を起こした!!」

「お前ら王族が憎かったからさ。俺たちが貧しい暮らしをしているのもお前らのせいさ」


 そう憎たらしげに言う犯人。


「ならなぜ、シュシュリーを殺したの?」

「恐怖を植え付けてから殺していきたかったからさあ」


 そう高笑いをする彼。だが、私は直感でこれで終わりではないと思った。もちろん、ゲームのストーリーとしてみたら、これで終わりでも別に構わないと思う。でも、この国はそんな貧困じゃないし、そんな思考の人にここまで侵入でいるとは思えない。


 シェフという事はそれなりに料理の腕のある人がついているはずだし。

 という事は、真犯人に雇われた偽の犯人の可能性が高い。

 そして、彼は大臣が連れて行った。事情聴取のためだと言う。

 だが、私も私でやらなければならないことがある。


「ヘンデルソン様、少し待っててくださいね。私は真犯人を見つけてきます」

「犯人はあの男だろ?」

「違いますよ。そんな簡単な話ではありません。おそらく油断しきったヘンデルソン様を殺す狙いです。だから今夜が勝負です」


 そして、私はアントラスには伝えずに、自分で警護に回る。ヘンデルソン様を狙う不届き者を捕らえるために。

 そして、ヘンデルソン様は部屋から抜け出てもらい、私は部屋の中に隠れる。

 そして、二時間ほど隠れたころ、一人の男が部屋の中に入ってきた。ヘーゲル様だ。


「さて、」


 ヘーゲル様はベッドに何かを塗り始めている。

 これはまさか毒?

 違いない。すぐさま人を呼ばないと。

 私はすぐさま部屋からこっそりと逃げ出し、周りにいた人たちに、


「大変です。ヘーゲル様が、」


 そう言って部屋の中に戻る。するとドアが、ロックされている。


「任せて」


 その中にいた一人のメイドが。ドアを蹴り壊す。そして中にいたヘーゲル様とご対面だ。


「なんだい?」

「あなたが犯人ですよね。今回の一連の事件の」

「何を言うんだ?」

「なら手に持っている液体は何ですか?」

「これは……いや、この一連の事件の犯人は捕まったんじゃないのか?」

「捕まりましたね。ただ、それが本当に犯人かどうかですけど。さあ、無実だというならベッドに寝てください。その手に持っているのが毒じゃないなら出来るはずです」

「参ったなあ、その通りだ。俺が犯人だよ。兄上を殺し、俺が次の王になるはずだった」

「シュシュリーを殺したのは?」

「それは、ただ、恐怖をあおるためさ」

「絶対そうではないでしょう。真実を話してください」

「……シュシュリーは王家の血を引いている妾の娘だ。だから王家継承権争いに巻き込まれると思い殺した」


 なるほど、シュシュリーも関係があったのか。

 あの感じだと、知らなかった可能性が高いけど。


「……あなたが王になったとしたらこの国は絶対に滅びます。絶対にです」


 ゲームでの結末を知っている私だからこそ言えることだ。


「ヘーゲル、お前が犯人なのか?」


 そんな時、ヘンデルソン様が部屋に入ってきた。


「そうだよ、兄さん。あなたを殺して、俺が王になるはずだった。あなたみたいな偽善者が王になるよりは、俺みたいな戦略家がなって国を統治した方がいい。俺ならこの国を大きくすることができる。あなたなんかとは違ってな」

「ヘーゲル。本当に残念だ。お前はそんな人ではないとおもっいた。俺の王位継承を素直に喜んでくれる人だと思っていた。代々、兄弟で争うと国が亡ぶ可能性がある。そんなことにも気づけなかったなんて……な」


 そして空気が重くなる。


「最後に一つ教えてください。なぜ、私をあの時殺さなかったのですか?」

「それは簡単だ。お前に濡れ衣を着せるためだったからさ」


 思えば毒はヘンデルソン様が寝る側のベッドにしか仕掛けられなかった。

 つまり当事者になる予定の私を犯人に仕立て上げようとしたのね。


「お前はしっかりと罪を償ってくれ」


 そして、ヘーゲル様は結局王位継承権消滅、そして国の牢に投獄される運びとなった。


「これで、一件落着ですね」


 ヘンデルソン様の隣に寝転がりながら言った。


「そうだな。あまりよくはない落着だけどな」

「ふふ、ですね」

「だが……俺はこの数日間でいいこともあった」



 ヘンデルソン様は私をなでる。

「お前と出会えたことだ。それが唯一良かったことだ」


 ヘンデルソン様は私を抱きしめる。


「ヘンデルソン様……」


 私も抱き返した。


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