誤って国を滅ぼしてしまったので、国外逃亡して冒険者になります

はるのはるか

第0話 誤爆につき、仕方なく逃亡する

 それはとある日のことだった──


「先輩って本気を出したこと、一度もないですよね?」


 突然そんなことを聞かれた。


 誰かも分からない、今初めて会話した人だが、制服についたボタンの色からして一つ下の後輩だということだけは分かった。


「え、ごめん、誰?」


「カジュアと言いますっ」


 素直に名乗った、カジュアという女子生徒は距離感がバグっているのかグイッと顔をこちらに近づけてきた。


 大丈夫だ、いきなり親しげな物言いをしてきたのだから頭が少し可笑しい子というだけだ。


 魔法学院にはそんな奴はいくらでもいる。


「先輩が先日のランキング戦でえげつない戦いをしているのを見て惚れました。先輩は私の想い人ですっ」


「あー……そう、そうなのね……」


 突然の告白に頭の整理ができないでいる。


「それで、話を戻しますね。先輩の戦いぶりを見ていたんですけど、あれって絶対本気出してませんでしたよね?」


「まぁ……そうだけど、それがどうかしたの?」


「先輩のすごさは、この私が一番知っているんです。先輩のその規格外の力は学院生の枠を超えています。でも私は、一度でいいから先輩の全力を見てみたいんです」


 力強い口調で熱弁しているが、その熱はイマイチ俺には届いていない。


「──と、いうことで先輩。ついて来てくださいっ」


「えっ、ちょっ……」


 腕を掴まれて、半ば強引に連れ回された。


 ただまぁ……かわいい後輩の頼みとあらば、この腕に触れている彼女の手を解くわけにはいかない。


 これから何をさせられるのかなぁ、と若干鼻下を伸ばしながらついていくとそこは無人の修練場だった。


「先輩のために、完全貸し切りにしてもらってるんです」


「おぉ……それはまた。それで、今から何を……?」


「先輩の全力の魔法を、今ここで見せてほしいんですっ!」


 大層嬉しそうな表情で、だだっ広い修練場に声を響かせた。


 この子が修練場に連れてきた理由はなんとなくだが分かる。


 修練場の造りは他の建物とは異なり強固な剛鉄で造られており、尚且つ最高位の防御魔法が施されていると言われている、まさに絶対壊すことができない建物だ。


 だからこそここで魔法の修練ができるのだが……


「ここで本気を出したとして、同じ空間内にいる君はダメージを負うんじゃないか……?」


「それなら問題ないです。ジャンっ、この魔法具があれば防ぐことができます!」


 それは、魔法を吸収して無力化するというものらしい。


「だから本気出しても大丈夫です。見てください、あそこに的を用意しましたから。あれ目掛けて魔法を撃ってください」


 彼女が指をさした先には、一般的な的に使われる木製人形……の顔部分になぜか俺の顔写真が貼り付けられていた。


 いつ撮られた写真だ!?と思いながら勢いよく彼女の方を向いた。


 ニマァと笑顔を浮かべてこちらを見ていた。


「さっ、ドンとやっちゃってください先輩!」


「……全力を出せばいいんだな」


 後輩を納得させてとっとと家に帰りたい。


「全力もそうですけど、初級魔法とかで全力を出すのはダメですからね」


「分かってるよ、正真正銘の本気を出せばいいんだろ」


 少しだけ考えていたことを図星で当てられたがために、手加減をすればもう一度やれと言われるのだろう。


 正直なところ、自分でも全力がどれほどのものなのかがあまり分かっていない。


 理論上では実行可能でもまだ発動したことのない魔法がある。


 思いつく限りではそれが一番強力な魔法だ。


 模倣ものなどではない、完全オリジナルの魔法。


 脳内で魔法陣を繋ぎ合わせ、そして構築を完成させた。


 後輩の作った(俺の顔をした)木製人形に向かって手を掲げ、唱えた。


「───〈◼️◼️◼️◼️◼️◯◯◯◯◯◯◯◯◯〉」


 その瞬間、木製人形の的にのは遥か巨大な業火の弾丸だった。


 この世のものとは思えないほどに黒く燃える弾丸は、上空から高速で降り注ぎこの修練場を瞬く間に破壊して小さき的を押し潰して撃ち抜いた。


 放たれた黒き弾丸は接地したあらゆるものを燃え溶かしながら、この地の地盤すらも撃ち抜いた。


 その衝撃波は甚大なもので、剛鉄でできた修練場など糸も簡単に破壊し、さらには学院、周囲一帯を吹き飛ばした。


 王国全土に遥かな轟音を鳴り響かせながら地面が激しく揺れ、ズドォォンという音とともに王城が崩れていく様を目撃した。


 自らの魔法で自らの身の危険を察知して、瞬時に出しうる全力の防御魔法を張り巡らせたおかげで何とか事なきを得た。


 しかし周囲に後輩の姿はなく、なんなら視界を遮る一切の建物がなくなってしまっていた。


 目の前のぽっかりと空いてしまった穴を見て、これが只事ではないことに気がついた。


 天災でも起きたのかと言わんばかりの王国の壊滅状態を目の当たりにして、やらかしてしまったという焦りが急激にやってくる。


 どのような魔法なのかを把握していなかったが、まさか空から降ってくるとは思っていなかった。


 こんなもの、どんな言い訳をしようとも死刑、いやもっと酷い罰を下されるに違いない。


「……いやでも処罰する人が全員死んでいれば……?」


 一転して可笑しな思考に走ってしまう。


 とりあえずこの場から離れなければいけない。


 目撃者がいるはずもないこの状況ならば、バレなければいいことだ。


「………逃げるか」


 バレずとも、ここに居続ければ魔力の残滓と照らし合わせて犯人が俺だと分かってしまう。


 かくなる上はこの国から逃げることが最善の選択と言えよう。


 幸いにも俺の家は国の端に建っているため、おそらく壊れてはいないはず。


 すぐにでも逃亡の準備に取り掛かる。

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