第18話 観察力


『チャットに入室しました』


 思い切ってチャットに入ると、そんなメッセージが出てきた。さあ、もうどうにでもなれ!


『……こ、こんにちは! 僕、倉沢琉生って言います。スキルはテイ――じゃなくて、【盗賊】です』


『あ、どうも。俺は望月陸人もちづきりくと。そっちは何人パーティー?』


『えっと……一応二人で。もう一人は【剣士】なんだけど、まだ出会って間もないから正式にはパーティーを組んでなくて。そ、それでもよければ仲間になってくれないかな?』


『……つまり、お試しってこと?』


『……あ、うん。結論から言うとそうなるね』


『別にそれでもいいよ。てか、なんで【盗賊】スキル持ちなのに声かけたん? 俺と被るのに』


『あ……え、えっと、その……盗みが上手くできなくって、それで……』


 まったく想定してないことを言われたのでドキッとしたものの、咄嗟に上手く返せたと思う。これも千影と一緒に頑張ってきた成果なのかも。


『あー、なるほど。それでか。じゃあ、俺を誘ったのも盗みが目的なわけね』


『うん。魔石を集めようと思って』


『それって、もしかして魔剣目当てか!?』


『そうそう、それ!』


『マジかあ。夢あるなあ……』


『そ、それほどでも……』


 なんかこの人、チャットに慣れてる感じがする。コミュ障だから臨時パーティーを募ってるってわけでもなさそうだ。


『あの、陸人君。一つ聞いても?』


『あぁ、君付けしなくても陸人でいいよ。何が聞きたい?』


『えっと、ここで陸人がパーティーをずっと募集してるの見てたから、なんで固定パーティーを組まないのかなって』


『ああ。俺が臨時パーティーばかり組もうとする理由ね。別にそういうつもりはなかったけど、いつの間にかなんとなくそうなってて。てか、そのほうが気兼ねしなくていいじゃん? 俺が気分屋だからかな?』


『な、なるほど……』


 気分屋っていうのがちょっと気になったけど、気兼ねせずに済むっていう理由は納得できるものだったし、何より人が良さそうなので僕はひとまず安堵していた。あえてパーティーとして行動せず、まずはお試しでやろうっていうこっちの提案にも快く了承してくれたわけだしね。


 そのあと、僕たちは森の前で落ち合うことになった。陸人は千影を見た後、目を少し丸くしたものの、そこまで驚いた様子もなかった。


「どーも、あんたが例の【剣士】ね。名前はなんていうの?」


「我か? 我の名は光山千影だ。貴様はなんというのだ?」


「我、貴様!? な、なんか格好いいね、君……」


「ふむ? 貴様の名前を聞いておるのだが?」


「あ、わりーわりー! 俺は望月陸人っていうんだ。よろしく!」


「……」


「へ……? 俺なんかした?」


 陸人が手を差し伸べるものの、千影は腕を組んだ状態で彼を睨むだけだった。なんか凄く警戒してるっぽい。さすがボスモンスターのシャドウナイト。警戒心もボス並みだ。


「主以外の男に警戒するのは、至極当然であろう。乙女の嗜みともいえるのだからな」


「あ、主……?」


「ま、まあまあ。とりあえず、自己紹介も済んだことだし、狩りに行ってみようか?」


 まったく、千影ったら。いや、忠誠を誓ってくれるのは嬉しいんだけど、主呼びなんてしたら従魔だってバレるかもしれないのに。僕は耳打ちで千影にそのことを注意してから森の中へと入っていった。


「んっと、こっちに一匹モンスターが向かって来る。オークだ」


「――ブヒイッ……」


 おお、陸人の索敵の通りちゃんとオークが出てきた。その際、千影がむっとした顔をしたことから、索敵の能力では陸人の方が上みたいだ。


「そらっ!」


「あ……」


 陸人が素早くオークの懐に飛び込んだかと思うとバックステップで戻ってきて、その手には輝く魔石が握られていた。す、凄い。一発で盗んじゃった……。


「へへ、今回は運がよかったな。盗みには自信があるけど、一発で盗めるってのはあんまりないからさ」


「そ、そうなんだね……」


 さすがに一発で盗み続けるってのは無理か。とはいえ、正直に言ってくれたので一層信頼できると感じた。


「東のほうはかなり道が荒れてるし、モンスターもやたらと多い。だから西のほうがいいよ。道もそこそこ開けてるし、モンスターもほどほどにいる」


 森でのマッピングもかなり正確で、先頭を行く陸人の言う通りに進むと大体その通りになっていた。


「主よ」


「ん、千影、どうしたの?」


 今度は千影のほうから僕に耳打ちしてきた。とても怪訝そうだ。


「この陸人とかいう男、なんとなくだが信用できない匂いがするとは思わないか?」


「え……そうかな? っていうか、なんでそう思うの?」


「悪いことを考えている者はな、目が笑っていない。それどころか据わっておる。やつにも当てはまっている」


「そうなんだ……」


 そういえば、確かに陸人って笑ってるときでも目元だけは笑ってない気がする。僕は千影の観察力に感心していた。彼女を従魔にしたことで、【鑑定】スキルを獲得できたのも頷ける。


 それに、陸人って考えてたよりずっと有能なんだよね。というかなんの欠点も見当たらないし、逆に怪しいとすら思えるようになってきた。彼は自身のことを気分屋とか言ってたけど、そこら辺がどうにも引っ掛かるんだ。


「よし、あやつを殺すか?」


「……こ、殺す!? いや、だから千影は極端なんだって! 少し様子を見てみようよ」


「ふむ。様子を見るとは?」


「こうやるんだよ」


 僕はあえて魔石を【アイテムボックス】から三つ取り出して携帯し、陸人に見せびらかすようにして持ち歩くことにする。リスク回避で一つにしようかと思ったけど、たったそれだけじゃ食いつかないかもしれないしね。


「これで陸人が魔石を盗んできたら黒。盗まなかったら白ってことにしよう」


「さすがは主。それは名案だな。というか、もし盗まれたら勿体ない。それでカップラーメン三杯食えるぞ。一日分ではないか……」


「それくらいすぐ溜まるって!」


「さっきからなんの会話してんの、二人とも? ゴブリンが一匹もうすぐこっちに来るぞ」


「あ……り、陸人、なんでもないよ! ね、千影?」


「う、うむ!」


 急に振り返ってきた陸人に話しかけられて、僕は咄嗟に魔石を後ろに隠した。


 今はそのタイミングじゃない。これから敵が迫ってくるっていうのに両手に魔石を持ってるのは不自然だからね。なので、これを見せびらかして歩くのはゴブリンを倒した後にしよう。

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