第16話 一長一短
多層世界の一つ『フォレスティリア』。その中心にあるという世界の塔での生活も、今日で五日目を迎えたところだった。
んで、その五日目も日がとっぷりと暮れてきたのもあって、僕たちは森での狩りを終えて塔へと戻ってきたばかりだ。
名前:倉沢琉生
性別:男
年齢:16
スキル:【テイマー】【鑑定】【アイテムボックス】
装備品:『ナイフ』『レザージャケット』
アイテム:魔石×12
パーティー:無し
従魔:『シャドウナイト』
ご覧の通り、魔石は一日に4,5個程度しか取れてないけど、それでも十分に生活できてる。
従魔のシャドウナイト――光山千影が中心になって狩りをしてくれたら格段に増えると思うんだけど、僕を鍛えるためなのか中々やってくれないしね。
『フードショップ』で食料を調達がてら、僕たちはモチベーションを上げるためにも、一階フロアにある武具店『イクイプメントショップ』へ行くことにした。
「おお、あれは……」
「どうしたの、千影?」
フロア一階を歩いていたら、千影が人混みの中で何かを見つけた様子。
「主よ、ちょっと先に行っててくれないか」
「え、ちょっと……!?」
僕が承諾する暇すらもなく、千影はどこかへ行ってしまった。速い、速すぎる……。
まあもう慣れたもんだけどね。彼女の飛びぬけたマイペース具合には。
しょうがない。とりあえず僕だけ商品を見るとしようか。一度訪れたことはあったんだけど、前回はただちらっと見るだけだったのに比べて、今回は明確な目的があるんだ。
強力な武器が売られているというだけあって、複数の兵士が目を光らせる中、僕は半透明のケース内にある武器の前まで行って目を凝らす。
魔剣は地水火風の四大元素のものが売ってて、どれも魔石100個で購入できるようになってる。つまり、あと88個も必要になるってわけだ。
ただ、以前よりも近づいてきてるってことで、どれを購入するか今後の参考にするためにも【鑑定】スキルで調べようと思っていた。どれどれ……。
地魔剣:鋭い岩盤を地中から発生させて範囲攻撃、妨害、防衛ができる。魔法を出すには念を込めて剣を振るだけでいいが、やや気力を消耗する。
水魔剣:剣先から水の塊を放出でき、単体を行動不能にして大ダメージを与える。以下同上。
火魔剣:薙ぎ払うように周囲を延焼させ、対象に追加ダメージを与え続える。以下同上。
風魔剣:強力な風を発生させて周囲の敵を吹き飛ばすことができる。以下同上。
「……」
どの魔剣も欲しくなってきて迷うけど、どれも一長一短な気がする。ただ、早いうちにこうして見ておけば、考える時間も増えるので後になって迷う時間も少なくなるはずだ。
「う……!?」
前屈みになって魔剣をじっと見ていると、いきなり誰かに背中を叩かれるのがわかった。
ま、まさか、いじめっ子の六田たち……? しかも、千影がいないときに限って……。
それでも、弱気になっちゃダメだ。ここは強気でいかないと。
僕は緊張しながらも振り返ると、そこにいるのは千影だった。
「……な、なんだ、千影か。驚かさないでよ……」
「すまん。主をびっくりさせたくてな」
「びっくりさせるって、心臓に悪いよ……って、なんか変わってる!?」
「ふふ、バレたか」
なんと、千影の髪型がロングヘアからツインテールになっていた。
「まさか、そういう髪型の人を見つけて参考にしたの?」
「ん、ちょっとな。気に入った髪型があったから、その真似をしてみたんだ」
「へえ……」
これも『変化』でやったことなのかな? よく似合ってる。
「それで、そっちのほうはどうなのだ? 魔剣とやらが欲しいのであろう?」
「今回も見るだけだよ。ウィンドウショッピングってやつ」
「ふむ。それならば、魔剣を全部盗めばいいではないか――もごっ!?」
「はいはい、わかったから店から出ようね」
僕は千影の口を押さえながら武具屋を後にした。最初のボス戦までに1本欲しかったけど厳しそうだ。他のみんなもそうだろうけどね。
千影がもっと協力してくれたらって思うものの、彼女がモンスターを狩ってくれることはほとんどない。
まあそれは僕を鍛えるためだろうからしょうがないんだけどね。そのおかげで、目に見えて強くなってるってのが実感できてるし。
「ねえ、千影。僕ってどれくらい強くなってる?」
「ほとんど変わらん。少しは上達したかとは思うぞ」
「う……」
ほとんど変わらんって……地味に傷つく。そ、そりゃ、ボスモンスターの厳しい目から見たらそうなだけで、実際はそこそこ上達してるって思いたかった。
「ん、あれは……」
「主よ、どうした?」
「い、いや、なんでもない!」
『フードショップ』で食べ物を購入後、僕たちが宿へ行こうとしていたところ、懐かしい人の姿を目撃したんだ。
誰かっていうと、クラスメイトの佐藤玲奈だ。
確か、彼女はいじめっ子の主犯格の六田啓弐と付き合ってるんだよね。まあいいや。別に関係ないし。
部屋に戻ってシャワーを浴びると、僕はすぐにベッドに横たわった。千影が何かを感じたのか、不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「主よ、なんか急に不機嫌になったな」
「え。別に?」
「まさか、失恋でもしたか?」
「してないって!」
「我でよければ……」
「誘惑禁止! もう寝る!」
僕は毛布で顔まで覆って千影の干渉をシャットアウトする。
そういえば、佐藤玲奈は単独行動だった。しかも【僧侶】っぽい格好をしてたのに、一体どういうつもりなんだろう? ただ単に僕が目撃したタイミングで一人で行動してただけかもしれないけど。
って……僕ってやつは、なんで彼女のことばかり考えてるんだか。どうせ、六田と付き合ってるような子なんだし、かかわらないほうがいい。完全なハニートラップ、美人局だ。もう寝よう。
「……」
そう思いつつも色々考えてしまって、僕はしばらく寝られなかった。
もし彼女が独りぼっちでいるんだったら、可哀想だから仲間にしてあげようか、なんて少しでも思ってしまう自分が嫌だ。
お人よしだと舐められるし、思いやりは人間の長所であり、短所でもあるのかもね。
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