第15話 秘密


「あ、あのー。是非、うちのパーティーに入ってもらえませんか?」


「いや、こっちのパーティーがいいですよ。アットホームな空気が味わえます!」


「是非こちらのパーティーへ! あなた様を女王様としてお迎えします!」


「おい、俺たちのパーティーが先だぞ!」


「って、逃げた!?」


「「「「「追えーっ!」」」」」


 世界の塔の一階に下りた途端、チャットも立ててないのに僕らはパーティーから勧誘の嵐に遭った。彼らは目つきからして違うのですぐにわかる。


 そのため、僕は千影を引っ張って逃げ回る羽目になったんだ。


「主よ、何故逃げるのだ。勧誘してくるやつらなど、我が悉く叩きのめしてしまえば一気に解決するのに」


「いや、それは余計にダメなんだって!」


「ふむ。ではどうするのだ?」


「とりあえず塔の外へ!」


 僕たちは外へ出ると、『影移動』で姿を暗ました。


 それから少し経って、塔の中から何人も追いかけてきて、僕はその様子を見ながらげんなりした。


 てか、男性だけじゃなくて女性もいるし、千影は男女から人気があるっぽい。


 やっぱり中身がボスモンスターなだけあって、独特の魅力があるんだろうか? それも、あの超美麗でどこか怪しい容姿があってこそだとは思うけど。


 僕たちはその足で狩りをすることになり、『影移動』しつつ森の中へ入る。


「今は森の中だからいいけど、塔に帰るときが大変だね。簡単にほとぼりが冷めそうにもないし、姿を隠すわけにもいかない」


「ならば、主よ。この帽子を被るというのはどうだ?」


「おお……」


 縁に幾何学模様がついた大きな黒い帽子を被ってみせる千影。これなら上手くごまかせそうだ。


「これも『変化』で作ったもの?」


「もちろんだ。なんなら、胸を大きくすることも可能だぞ」


「へえ……って、そんな、余計に人を集めるような調整はいらないから!」


「そうか? 我としては、パーティー勧誘とはいえ、主の存在を無視する不埒な輩をまとめて薙ぎ払いたいのだが……」


「まったくもう……」


 相変わらず千影はマイペースだし好戦的だ。ただ、僕としてはちょっと嬉しかった。勧誘してる人たちが主の存在をないがしろにしてる時点で、従魔としては許せないっていう感情が勝つんだろう。


「……そうだ、千影。狩りをする前に約束事を決めておこうか?」


「ふむ? 主よ、約束事とはなんなのだ?」


「僕たちは【テイマー】と従魔っていう関係なのはわかるよね? でも、千影は見た目が人間だから周りにはそうは見えない。なので、狩りをするとき、僕は【盗賊】で、千影は【剣士】ってことにしておいたほうが自然なのかなって」


「ふむ。確かにそれは名案だ」


 こういう約束事のようなものを事前に決めておけば、他人にスキルを尋ねられたときや、これから誰かを仲間にするときにも対応できるから便利だ。


「そういや、千影は六田たちの存在に気づけたけど、【盗賊】みたいに索敵ができるの?」


「少しならば可能だ。だが、【盗賊】ほど強力ではない」


「なるほど……」


 それでも、スキルじゃないからこそ塔の中でも気づけたってわけだね。そういう半端な能力のほうが役立つ場合もあるってことか。


 そういうわけで、千影がモンスター退治を手伝ってくれるかと思いきや、傍で腕を組んだ状態で見ているだけだった。


「……はぁ、はぁ……あ、あのさ、僕の従魔なら少しは手伝ってよ、千影……」


「うーむ……残念だが、今はそういう気分ではない」


「……はあ」


 この従魔、いくらなんでもマイペースすぎる。


 多分だけど、さぼってるというより、訓練という意味で僕に戦わせたいんだと思う。


 よーし、それならはりきって頑張ってみよう。


「それっ……!」


「グギャッ!?」


 ゴブリンの攻撃を、僕は『影移動』で回避するとともに背後に回り込み、首を刎ね飛ばしてやった。


「よし、完璧だ。千影、今の、どうだった!?」


「見ていない」


「ちょっ……」


 それならとばかり、今度はゴブリン2匹を相手に上手く立ち回り、一匹ずつだけどそれぞれの首を刎ねてやった。


「今のは!?」


「うむ。まあまあかな」


「いや、ぜんぜんこっち見てないし、しかも欠伸してたし!」


「……バレたか」


「バレバレだって!」


 ちょっと腹が立つけど、それでも千影は怜悧な従魔だ。


 彼女の狙いもわかるような気がした。主が死んだら、従魔は独りぼっちになっちゃうからだ。


 だから、僕に興味があるうちは死んでほしくない、すなわちなるべく強くあってほしいんだと思う。


「――はあ。疲れた……」


 僕はその場に座り込んだ。


 ちなみに30匹くらいモンスターを狩って、ドロップした魔石はたったの2個だ。本当に出にくい。ただ、『影移動』がことのほか便利で、あの独特の視点に慣れてきたら楽しいとさえ感じる能力だった。


 それでも、3匹以上のモンスターと相対すると苦戦するのも確かだし、ナイフじゃなくて特別な武器が欲しいところ。それを購入するには、魔石100個が必要だっていうから、先が長い。


「僕も『爆裂』ってのが使えたらなあ」


「ふむ。今のところ、それは我の専用の能力のようだな。だが、もっと絆を深めれば主も使えるようになるやもしれぬ」


「絆を深める? どうすればいいんだろう。抱き合うとか……?」


「……主よ。契約を破棄しようか?」


「あ、じょ、冗談だって!」


「……我のほうこそ冗談だ」


「まったくもう、脅かさないでよ……」


「それより、主よ。あの世界の塔の人間について、どう思う?」


「え、どう思うって……まさか、また塔の三階に行こうとか考えてる?」


「まあ、確かに考えていた」


「だから、それはダメなんだって! 本当に兵士たちに牢屋に入れられちゃうよ」


「……しかしだな。牢に閉じ込められたとしても秘密を暴きたくなる」


「千影は、あの塔にそんなに凄い秘密があるって思ってるの?」


「主は、三階の件も含めて、世界の塔の人間には隠し事が多すぎるとは思わないか? あの連中には、何か重大な秘密がありそうだと我は思う。それは、この世界を根底から揺るがすようなものだと……」


「この世界を根底から揺るがす……」


 な、なんか鳥肌。なんでだろう? いきなり周辺の空気が凍るような感じ。


「「はっ……!?」」


 その直後だった。宙に大きなオレンジ色の爬虫類のような目が二つ浮かび上がり、僕たちを睨むように見つめていたんだ。


 な、なんだこりゃ……。


 そうかと思うと、それは何もなかったかのように消えていった。


「やつらに……世界の塔の連中に覗かれているのかもな」


「ええ!?」


「触らぬ神に祟りなしということか。主よ、我が言うのもなんだが、しばらくこの話題には触れないでおこう。主を守るためだ」


「う、うん」


「やはり、世界の塔の連中には何かある……。我はやつらを永遠に好きになれそうにない」


 シャドウは忌々しそうにそう零すのだった。


 世界の塔、か……。いつかは彼らと対峙することがあるのかな? でもあそこは僕たちの拠点になってるわけで、敵対することでそれを失うのはかなりの痛手になりそうだけどね。


 とはいえ、いずれは世界の塔の秘密を知ってみたいっていう気持ちは、僕の中で芽生えつつあるのも確かだった。

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