第14話 カミングアウト
「千影、これから狩りにでも行こっか?」
「……うーむ。主には悪いが、今はそういう気分じゃない。もう少しだけこの胡散臭い塔の内部を散策したいところだ」
「う、うん……てか、もうちょっとゆっくり歩いてって!」
「はて、ゆっくり歩けとは? これが我のゆっくりなのだが……」
塔の三階から二階まで下りてきて、僕は千影を追いかけるようにしてなんとか歩いてるところだった。
ゆっくり歩いてても彼女はスピードがあって、少しずつ離されてしまう。これじゃあ、どっちが従魔なのかわからない。
「むっ……」
先頭の千影が何やら唸ったかと思うと、僕に歩調を合わせるかのように横に並んできた。
「ち、千影? どうかしたの?」
「……誰かにつけられている」
「え……!?」
「複数いる。間違いない」
「も、もしかして、それって三人組の男……?」
「そうだな。確かに三人の男たちだ。もしや、主の知り合いなのか?」
「知り合いっていうか……まあそうなんだけど、そいつらって僕をいじめてた連中なんだ」
「なるほど……よし、ならば殺そう」
「ちょ……!? 殺そうって、物騒な……」
「ふむ? では、殺さぬのならどうするつもりだ。不倶戴天の敵と握手でも交わそうと言うのか?」
「そ、それは……なんていうか、確かに憎いやつらではあるけど、あっさり殺しちゃったら、なんかあっけないよ。それじゃ僕の無念は晴らせない」
「……やはり、面白いな。主は」
「え?」
「いや、なんでもない。いいだろう。主のためにも、我がやつらを少々からかってやるとしようか」
「ち、千影、からかうって、一体何をするつもり……!?」
「いいから、とくと見ておくがいい。主にとって悪いようにはせん」
「はあ……」
まったくもう。千影は僕に相談せずになんでも決めちゃうんだから、マイペースにもほどがあるよ……。
「ゴクリッ……」
なんていうか、独特の圧を感じる。
これが長きに渡って植え付けられた恐怖心ってやつなのか。古傷が疼くような、そんな不快な感覚に襲われていた。
やつらが……六田たちが近づいてきたんだ。千影がわざと回れ右して引き返したっていうのもあるんだけど……。
ええい、もうどうにでもなれ!
足が震える中、僕たちは遂に悪童たちと対峙することになった。
「よう、琉生じゃねえか。おい、元気にしてたか?」
「……し、してた、けど……?」
「ハッ、いじめられっ子のお前なんかが? てっきり、とっくにくたばってるのかと思ってたがなあ」
「……」
六田が凄みのある笑みを向けてきて、僕は下を向きそうになったけど、必死に我慢する。
従魔、それもボスモンスターのシャドウナイトが見てるんだ。主人の情けない姿を見せられるもんか。耐えるんだ……。
「てか、そこにいる子誰よ? 随分可愛い子連れてんじゃん」
「……」
「おい、六田さんの質問にさっさと答えろよ、クソ琉生!」
「んだんだ。どんな関係かって聞いてんだよ。ああ!?」
「……そ、それは……」
ダメだ。六田だけじゃなく、村島や木谷からも威圧されて、今の僕はまさに蛇に睨まれた蛙状態になってる。
こんなんじゃ、千影も呆れて僕の前から姿を消しちゃうかも……。
「まあまあ、村島も木谷も空気読んでやれよ。こんだけ言い淀んでるんだからよ、彼女じゃねえってことだ。なあ、琉生。いじめられっ子のお前に彼女なんているわけねえよな?」
「う……」
僕の恋人だなんて言えるわけがないけど、従魔だってバラしたくもない。そんなことを言ったら六田たちに余計に寄生されそうだし。どうしよう……。
「ふむ。お前たちはさっきから何を言っている? 我は琉生の彼女だ」
「「「「っ……!?」」」」
千影の
「そ、それじゃあ、琉生。お前、この子とあんなこともこんなこともしたのかよ?」
「うむ。当然だ。あ、ちなみに我の名はシャド……ではなく、光山千影という。琉生はベッド上でもえぐかったぞ」
「「「……」」」
六田たちが唖然としてる。っていうか、そんなことは言わんでよろしい! 僕は心の中で千影に激しく突っ込んでいた。
いじめっ子たちの狙いなんてわかってる。どうせ、千影のことを僕のパーティーメンバーでしかないって思ってたはず。その上で、僕を散々腐して評価を下げたあとで、自分たちのパーティーに引き入れようと企んでたんだろう。
さらに、その輪の中に僕も入れてやる代わりに奴隷契約を結ぼうと目論んでたんじゃないかな。
でも、そうはならなかった。僕の恋人だって千影本人から聞かされて、六田たちの計画は脆くも崩れたのだ。そう思うと痛快だった。いや、正確には僕の彼女じゃなくて相棒寄りの従魔なんだけどね。
「そ、そんないじめられっ子なんか捨ててこっちきたほうがいいって!」
「そうっすよ。六田さんならあなたを幸せにできるっす!」
「そうそう。ボスは色んな意味ですげーぜ!」
「ふむ。悪いが、お前たちにはなんの魅力も感じない。屑以下だ」
「「「……」」」
「さ、行くぞ、琉生」
「あ、ちょっと!?」
呆然とする六田たちを尻目に、千影は僕の手を引いていずこへと走っていった。
それから少し経って、怒号のような叫び声が遥か後方から飛んできたのは言うまでもない……。
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