第9話 マイペース
「ゴクリッ……」
跪いたボスモンスターのシャドウナイトを前にして、僕は戦っていたときよりもよっぽど緊張していた。
「えっと……僕は確かに【テイマー】ではあるけど、初めて従魔を獲得したから何をしていいのかよくわからなくて。あ、そうだ。まず、なんて呼んだらいいかな?」
「名前ならなんでもよい。主の好きなように呼んでもらって構わない」
「う、うん。それじゃ、シャドウでいいかな?」
「了承した」
「よかった! それじゃ、シャドウ、そろそろ帰ろっか?」
「うむ……っとその前に、主に一つだけ忠告させてもらう」
「な、なんでしょうか……じゃなくて、何かな?」
シャドウの威圧感がありすぎて、僕は思わず敬語を使ってしまった。これじゃ自分のほうが従魔みたいだ。
とはいえ、いじめられっ子がボスモンスターと対峙してるわけだから、しょうがないっちゃしょうがないんだけど……。
「我は従魔とはいえ、影のある屈折した性格であるがゆえ、完全に忠実とはいえない。主への興味を失えば、離れることもあるやもしれん」
「なるほど。それなら従魔っていうより相棒みたいなもんだね。でも、僕はそういう対等な関係のほうが好みかな」
「……それならばよかった。では、我は疲れたゆえ、少し眠るとする。お主の影の中で」
「え、待って。眠るって、ちょっと……!?」
もう眠っちゃったのか返事がない。ははっ……本当に従魔らしくない従魔だ。その分、肝が据わってて頼りになるともいえるけど。
というか、色々と上手く行き過ぎて怖いし、今までの出来事が夢の可能性もあるってことで、僕はとりあえず自分のステータスを確認することにした。
名前:倉沢琉生
性別:男
年齢:16
スキル:【テイマー】【鑑定】【アイテムボックス】
装備品:『ナイフ』『レザージャケット』
アイテム:無し
パーティー:無し
従魔:『シャドウナイト』
こうして改めてステータスを見てみると、これが夢じゃなくてちゃんとした現実なんだなって実感できる。
そうだ。【鑑定】スキルを手に入れたんだし、獲得したスキルや従魔の効果を調べてみようか。まずはスキルからだ。
【鑑定】:様々なものの詳細を調べることができる。
【アイテムボックス】:無限に物を収納することができる。
大体思った通りの効果だ。【鑑定】は細かく調べられるし、【アイテムボックス】はなんでも入れられるようになる。これによって、魔石×1000とか、そういうのも自然にできるようになりそうだ。
人にもよるだろうけど、従来のアイテム欄なら魔石×30くらいで限界が来そうだしね。
それだけ集められるかは別問題として、シンプルだけど超便利なスキルだと思う。さて、次は従魔のステータスを調べてみよう。
従魔名:『シャドウナイト』
タイプ:ボス
サイズ:中型
属性:闇
特殊能力:『暗視』『隠蔽』『影移動』『爆裂』『変化』
特徴:防御力や体力に課題はあるが、ずば抜けたパワーとスピードに定評のあるモンスター。人間と同等の知能を誇り、頭脳的な戦い方もできるがややマイペース。
「はは……」
特徴欄の、ややマイペースってところで思わず乾いた笑い声が出てしまった。
いや、勝手に眠っちゃうんだから、少しどころかかなり自己中心的だって。
モンスターとはいえ、性別とか年齢とかは不明なんだな。【鑑定】でもわからないことはあるらしい。
あとは特殊能力についてもそれぞれ一つ一つ吟味してみよう。
『暗視』:真っ暗の状況でも周囲を見通すことが可能。主人にも適用される。
『隠蔽』:主人による鑑定を除いて、外部からの鑑定を受け付けない。以下同上。
『影移動』:影の中に入って移動ができるようになる。視点は通常よりもかなり低くなり、その間は移動以外のことは基本的にできなくなるが、移動速度は二倍になる。主人も使用可能。
『爆裂』:数秒間のみだが、パワーとスピードが大幅に上昇する。従魔専用。
『変化』:様々なものに化けることができる。従魔専用。
どれもこれも興味深い効果だと感じた。『暗視』はこの状況だと非常に便利な能力だといえるし、主人の自分にも適用されるのが大きい。『隠蔽』があれば誰かに情報を盗み見されずに済む。
『影移動』は隠密行動が可能な分、視点が極端に低くなり、移動しかできなくなるっていうデメリットがあって使いどころを考えさせられる。誰にも見られたくないときや戦いたくないときに使うと便利かもしれない。
『変化』って、どんなものにも化けられるのかな? シャドウが起きたら直接聞いてみるか。
『爆裂』の効果は本当に凄まじかったし、従魔にした今でも想像するだけで恐ろしくて鳥肌が立つほどだ。
……さて、そろそろ世界の塔へ帰ろうかな。
ただ、懸念点はある。従魔のシャドウが眠ってしまってるし、僕自身体力を使い果たしてる。ここは洞窟の奥なわけで、ここから一体どうやって帰還すればいいんだ……?
シャドウが起きてくるのを待とうかと思ったけど、よく考えたら今の状況に打ってつけのスキルがあった。
そんなわけで、僕は従魔の特殊能力『影移動』を試したところ、視界が小人になったかのように低くなった。
『うわっ……!?』
何これ……まるで水の中を泳いでるみたいだ。最初は戸惑ったけど、慣れてきたら水を得た魚みたいで、スピーディーで凄く楽しい……!
時々モンスターとすれ違ったものの、全然襲ってくる気配がない。一時はどうなるかと思ったけど、これなら無風で世界の塔へ帰れそうだ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます