第5話 アグレッシブ


『どうも、【テイマー】さん。まだ募集中かな?』


『あ、はい! まだ募集中です』


 わかってたことではあるけど、いざやってみると感動する。本当に念じるだけで文字が出てくるんだね。こりゃ便利だ。相手も同じ要領でやってるっぽい。


『それならよかった。俺たち4人パーティーで、スキルはそれぞれ【剣士】、【魔法使い】、【僧侶】、【盗賊】なんだけど、あと1人仲間を探してたんだ』


『そうなんですね。でも、なんで【テイマー】を?』


『これといった特別な理由はないんだけど、なんだか面白そうなジョブだと思ってね。良かったら加入してくれないかな? あ、まずは話してみて決めよっか』


『あ、了解です。今どこに?』


『ブイサインしてるやつらがいたら、それが俺たちだよ』


『あ……』


 周りを見渡すと、20メートルほど先に4人組の男女がいて、こっちにブイサインを出していた。どう見てもあの人たちっぽい。


 あんなに遠くからでも入れるのか。これなら匿名でチャットに入りやすいのかもね。


 僕はチャットを解除すると、彼らのほうへ向かっていった。すると、いかにも快活そうな男の人が笑顔で手を差し出してきた。


「やあ。俺はリーダーの拓司。【剣士】スキル持ちだ。よろしく!」


「私は【魔法使い】の唯。よろしくねぇ~」


「自分は【僧侶】の慎也。よろしく頼む」


「あたしは【盗賊】の奏子。よろしく」


「ど、どうも。僕は【テイマー】の琉生っていいます。よろしく」


 みんな明るい感じで迎えてくれたし、何より和やかな雰囲気なのがよかった。


「俺たちさ、中学からの腐れ縁っていうか、クラスメイトで友達同士だから、すんなりパーティーを組めたってわけ」


「なるほど……」


 道理でアットホームな空気感があったわけだね。慣れてる感じがするっていうか。


『【黄金の牙】パーティーから加入要請が来ました。承諾しますか?』


 ウィンドウにそんなメッセージが表示されたので、承諾すると念じたところ、パーティーに加入したというメッセージで上書きされた。


 まさかこんな簡単にパーティーに入れるなんて思いもしなかった。ステータスを確認してみよう。


 名前:倉沢琉生

 性別:男

 年齢:16

 スキル:【テイマー】

 装備品:『ナイフ』『レザージャケット』

 アイテム:無し

 パーティー:【黄金の牙】

 従魔:無し


 いい感じだ。大分空白が埋まってきた。ただ、パーティー名を見てちょっと気になった。これの由来っていうか、どういう意図があってこんな名前にしたんだろう?


「ところで拓司さん、【黄金の牙】って、どういう意味なんですか?」


「「「「……」」」」


 ん、なんだ? 僕の質問に対して、拓司たちが顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。


「……特に意味はないよ、琉生。ほら、なんとなく格好いいだろ?」


「あ、まあ、それは確かに……」


 ムードの良さと反比例するかのように、なんか物騒な感じのするパーティー名だから気になったけど、まあいっか。僕が細かいことを気にしすぎなのかもね。




「琉生。ここが俺らの溜まり場だ」


「ここが……」


 僕は拓司さんたちに連れられて、一階フロアに幾つもある柱のうち、その一つの傍までやってきた。


 これだけ柱があれば取り合いにもならないだろう。それ以外にも溜まり場にできそうな場所はどこにでもあるわけだし。


 ちょっと淡白な感じはするけど、ここを拠点に【黄金の牙】は活動するわけだね。楽しみだ。


「それじゃ、早速狩りに行っちゃう?」


「え」


 メンバーの一人、【魔法使い】の唯が突飛なことを言い出した。溜まり場へ来たばっかりなのにもう狩りをするのか。


「いいね、唯。自分も賛成だ」


「あたしも」


「……」


【僧侶】の慎也、【盗賊】の奏子まで同調した。普通、新人が入ったならしばらく会話したり休んだりしてから狩りに行くのが定石じゃ? 僕のほうがズレてる可能性もあるけど。


「そうだな。多数決だから仕方ない」


「え、でも……」


 リーダーで【剣士】の拓司さんまで即座に同意したことで、ますます不安になってくる。


「琉生、そんな不安そうにしなくても大丈夫だって。俺らの強さを見たら、心配なんてするほうが馬鹿らしくなる」


「……そ、それならいいですけど……」


 僕に向かって含み笑いを浮かべるリーダー。自信が凄くありげなのもあって、僕は勢いで承諾してしまった。


 ってことは、もう拓司さんたちはモンスターと交戦済みの可能性も考えられる。僕が塔の二階でチャットを立てて声をかけられるまでに二時間以上は経過してると思うし、その間に何度もモンスターと戦ってたのかもね。


 そう考えると凄くアグレッシブだと思うけど、行動力のある人たちなら別におかしくはないか。


 それから塔内でトイレや給水等、ほんの少しの準備期間を挟んで僕たちは外へ出た。そういうところには槍を持った兵士がチャットを立てて知らせてくれるから便利だ。


「……」


 外へ出てから10メートルほど歩くと、早くも分厚い森が出迎えてきた。それで視界が一気に暗くなったもんだから不安になる。


『……ほう、面白いやつがいるな。さあ、来い。早くこっちへ来るんだ……』


「はっ……」


「琉生、どうした?」


「い、いえ……」


 リーダーに対して僕は首を横に振ったけど、内心は穏やかじゃなかった。今の声、なんなんだろう? 地の底から響くような恐ろしい声だった。ただの幻聴、だよね……?

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