第4話 エンカウント
「……」
恐る恐る振り返るも、目の前にあいつの姿はなかった。あれ……?
でも、確かに聞こえたのはいじめっ子の六田の声だった。耳を塞ぎたくても何度も聞いてきたんだから間違えようがない。ここで大袈裟に動けば目立つかもしれないってことで、慎重に目線だけで周囲を探してみる。
……いた!
いじめっ子の主犯格、六田啓弐とその取り巻きの
見た目が異世界のものに変わってるせいで見つけるのに少し時間がかかった。
格好的には、斧と分厚いレザーアーマーといった重装備寄りの六田が【戦士】、素肌にレザーベストとズボン、ナイフのみの軽装の村島が【盗賊】、杖と法衣姿の木谷が【僧侶】っぽい。
やつらは、僕に似た感じの子に声をかけていた。
「あれ……こいつ琉生じゃねえよ。見間違えんな、村島。おいコラ」
「す、すんません。六田さん。後ろ姿があのマヌケにそっくりだったもんで。やっちまったっす。琉生のヤロー、恥かかせやがって……」
「マジうぜえ。ボス、琉生のやつを見つけたらぶっ殺してやろうぜ!」
「まあまあ、村島、木谷、落ち着けって。ぶっ殺したら楽しみがすぐ終わってつまらんだろ。折角異世界に来たんだから、スキルの実験台アーンド奴隷として飼おう。あと、ナンパ役な」
「いいっすねえ。やっぱ考えることが常人とは違うっすね、六田さんは」
「ヒャッハー。まったくだぜ、ボス最高!」
「……」
六田啓弐と、その取り巻きが意気揚々としているのを見て、僕はしばらくフリーズしてしまった。
……い、いけない。いくら怖いからって、ここで竦み上がっていたらいつか見つかってしまう。
そういうわけで、僕はその辺の人たちの背後に隠れるようにして密かにその場を離れることにした。
僕は時折後ろを振り返りつつ、あいつらが追ってきていないのを確認しながら先へと進んだ。
異世界でも行く当てなんてどこにもない。目的は、いじめっ子たちからただ逃げるのみだ。
「はあ……」
そう考えると、僕の口から特大の溜め息が飛び出してしまうのも仕方ない。
折角異世界へ来たっていうのに、そこでもいじめっ子たちに怯えて生きるようじゃ現実世界とあまり変わらないじゃないか。
なんとかしないと。変わらなきゃ。向こうでは明るい未来をあいつらに奪われたけど、こっちでは違う。もう誰にも大切なものを奪われるもんか。
僕はこの異世界で誰にも屈しない力を獲得してやるんだ。そのためならなんだってやってやる。
それでも、いきなり容易く現状変更できるとは思ってない。【テイマー】なら猶更。
モンスターを従魔にするにしても、それを足止め、弱体化してくれる仲間が必要だろうし。
「あれ……」
考え事をしながら歩いていたら、僕はいつの間にか螺旋階段を上がっていた。
いじめっ子たちに見つからないようにと人混みに混ざっていたので、その歩調に流されてたみたいだ。
螺旋階段は色んな場所に通じているようだ。僕たちが召喚された場所にいる人々が豆粒のように見える頃には二階層へと上がっていた。
なんとも不思議な階段だ。ちょっと上がっただけなのに10階くらいの高さに見える。これも異世界ならではなんだろうか。世界の塔というだけあって、魔法の効果があるのかもしれない。
「あ……」
二階層もまた一階と同じく広大な白い空間が広がっているだけなのかと思いきや、違った。
屋上のように開けた構造になっており、外界の景色を360度見渡すことができたんだ。
「ここが多層世界の一つ、『フォレスティリア』の世界観なのか……」
どこを切り取ってみても、森林が果てしなく続いているのがわかる。
僕を撫でるように生暖かい風が吹き抜けていって、耳をすませば聞いたこともない鳥の鳴き声や獣の咆哮が耳に届いた。
改めて、ここが異世界なんだと思い知らされる。
これほどの茫漠たる森林世界なのに、多層世界の一つでしかないっていうんだから驚かされる。
……っと、そうだ。呑気に景色ばかり眺めてる場合じゃなかった。
僕は手に唾をつけると、自分の前髪を上げて固めることにした。格好は変わってるとはいえ、少しでも以前の見た目を変えるためだ。
それと、仲間を募集するチャットも立てよう。世界の塔にずっと籠っていても、いずれはボスと戦わなきゃいけない。だから初日にパーティーを組もうとする人が多いはず。悠長にしている暇はないってことだ。
ただ、積極的に声をかけるほど自分に自信があるわけじゃないし、望まれる形で仲間になったほうがいいと思ったんだ。
というわけで、チャットの表示はこういう風にした。
『僕のスキルは【テイマー】です。パーティーか仲間を探しています。よろしければ是非ご一緒しましょう!』
……こんなもんでいいよね? 何度も変えようか迷ったけど、結局これにすることにした。
それから二時間くらい経過しただろうか。ずっと待ってるけど、やっぱり誘いは来ない。【テイマー】って思ったより需要ないのかな……? イメージはしやすいって思うんだけどなあ。
壁を背にして座り続けて、眠くなってきてウトウトとしていたところで、機械音のような高音が鳴った。なんだ……?
『あなたのチャットに入室がありました』
「えぇ……!?」
遂に来ちゃったか。待ち望んでたっていうのに、こうしていざ来ると逃げ出したくなる自分が嫌だ。おそらく興味を持って入室してくれたんだろうから、ここは腹を決めなきゃ……。
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