第3話 チュートリアル


「こ、これは……」


【テイマー】を選んだ直後、僕の周辺では驚くべき変化が起きていた。


 それまで制服を纏っていた自分たちの服装が、一斉に異世界人っぽいものに変わったんだ。たったそれだけのことでこんなにも雰囲気が変わるんだなって。


  名前:倉沢琉生

  性別:男

  年齢:16

  スキル:【テイマー】

  装備品:『ナイフ』『レザージャケット』

  アイテム:無し

  パーティー:無し

  従魔:無し


 自分のステータスを調べると、しっかり変化しているのが確認できる。あと、これには装備品として表示されてないけど、下着も異世界風のシンプルで緩めなものになっていた。


 こっちの世界のもので、なおかつ戦闘に役立つようなものしか情報としては表されないのかもね。


「皆さん、その格好とっても似合ってますよ。段々と異世界人っぽくなってきましたね。ちゃんとスキルを獲得できたようでよかったです。漏れなく均等に選べるようにしたつもりですが、もし選べなかった人がいたなら遠慮なく手を掲げて申告してくださいね」


 少女の呼びかけに対し、誰も手を挙げる様子はなかった。ということはみんなに行き渡ったってことなんだろう。


 もしまだ選んでない人がいた場合、いずれ強制的に移動させられるボス部屋で何もできないまま死ぬことになるかもしれない。


「申し遅れましたが、私の名前はリーフ・エリスフィーナと申します。お気軽にリーフと呼んでくださると嬉しいです」


 みんなに向かってペコリと頭を下げる召喚者の少女。それにしても、無礼なのか礼儀正しいのかわけがわからなくなってくる。


「皆さん、スキルは獲得できたでしょうか? それでは、各スキルについて簡単に説明します。まずは【テイマー】についてです」


 召喚者の少女リーフが杖を軽く振ると、僕の前に半透明のウィンドウが現れた。あ、これって僕がその【テイマー】だからなのか。


「【テイマー】は、イベントのボスを除いてモンスターを仲間にして戦うスキルです。基本的にはモンスターを弱らせた上で、仲間になれと念じることで従魔にできます。ただし、同じ【テイマー】でも従魔にできるモンスターの種類は異なります。それはスキルを選んだ人の資質に左右され、自分が従魔にできるモンスターと遭遇した場合、がするので、その感覚を頼りにしてください」


 へえ、同じジョブ系スキルでも、人の資質によって違うんだね。なんだか面白そうだ。少女の言葉は、あとで読み返すためなのかウィンドウにも表示されていた。僕はどんなモンスターをテイムできるのかな?


「また、【テイマー】は従魔にしたモンスターの特殊能力を一部使用することもできます。従魔との絆を深めることで、さらに強力な技を使えるようになるかもしれませんよ」


 リーフの説明を見聞きしながら、僕は自分の選んだスキルに自信を持ち始めた。これなら、臆病ないじめられっ子の自分でも戦えるかもしれない。


 やがて、一通りスキルについての説明が終わった。


「皆さんはこれから、世界の塔の外へ出て戦う必要があります。モンスターは倒すと輝く石――魔石を落とすことがあるため、それが貨幣となります。貨幣は塔の中で使えますし、言葉もこのように通じますので、食料や冒険に便利な装備やアイテム等、お店でお買い物も自由にできます。あ、トイレと水は無料なのでご安心をっ」


 なるほど。食べ物が欲しいなら最初のスキルと初期装備で戦えってわけか。トイレや水は普通にあるしいつでも飲めるみたいだからよかった。


「また、ボスモンスターを倒すと【スキル】を習得できます。皆さんが選んだジョブ系のものとはまた違う種類のものですが、これを幾つでも所持することができます」


 モンスターって魔石だけじゃなくて【スキル】も落とすんだな。スキルに関してはボスに限られるみたいだけど。


「パーティーを組む際は、パーティー名とともにパーティー結成と念じれば作ることができます。脱退も同じ要領です。新たに結成した場合ソロパーティーとなり、誰かに呼び掛けて、相手が承諾すれば自分を含めて5人まで加入させることが可能です。パーティーメンバーに対しては攻撃できません」


 メンバー同士だと攻撃できないなら、誤爆を防ぐことができる。パーティーを組むメリットは大きそうだ。 


「パーティーでボスモンスターを倒して【スキル】を手に入れた場合は、その戦闘で最も貢献した人が獲得することができます。支援面でも優れた働きをすればその対象となりえます」


 なるほど。サポーターでもその戦いに貢献したと見なされればスキルを獲得できるわけか。戦闘面だけが評価対象だと、【僧侶】が不利になるだろうからこれは公平なシステムだと感じた。


「塔の中では安全面を考慮して結界が張られているため、世界の塔の関係者以外、ボス部屋を除いて基本的にスキル等の特殊能力は使えません。ですが、鑑定系のスキルや【盗賊】の鑑定能力に関してはショップの武器や道具、パーティーを組むことでメンバーも鑑定可能です。またこの能力以外にも、無害なスキルや特殊能力と判定されたものについても使用できます」


 ということは、他者に悪影響を及ぼすようなスキルや特殊能力は基本的に使えないとみてよさそうだ。


「最後に、チャットの説明をいたします。これに関しては誰でも組むことができます。チャットと念じ、続けてそこに表示させる文字も念じることで、このように皆さんにアピールすることができます」


「「「「「おおっ……」」」」」


 召喚者リーフの頭上にチャットが立てられ、そこにはこうあった。


『【勇敢な冒険者募集!】現在のパーティー構成:剣士 ×2.魔法使い ×1.テイマー×1.求む: ヒーラー(サポートスキルを持つ方、大歓迎!)


 活動内容:ダンジョン攻略、モンスター討伐、秘宝探し。目標:フォレスティリアを卒業し、新たな階層へ行きましょう! 共に成長し、壮大な冒険を楽しみましょう! 一緒に最高のパーティーを作り上げませんか?』


 ははっ……本当にゲームみたいだ。それ以降、次々と似たようなチャットが周囲から立ち上がっていった。


「このようなチャットを十秒間見つめ続けると、『このチャットに入りますか?』というメッセージが出てきますので、心の中で承諾するとチャットに入ることができます」


 なるほど。さすがにチャットに入ったり入られたりする勇気はまだないけど。みんなもそれを恐れたのか次々とチャットが消えていったので笑ってしまった。


 あと、慣れてないのもあってか、チャットは誤字脱字ばかりだ。正確に文字をイメージしないといけないっぽい。


 僕の場合、なんだか恥ずかしくてチャットを立てられなかったけど、みんながやってるのを見たら無性に立ててみたくなった。


『テスト』


 テストと念じてこっそりチャットを立ててみると、ちゃんと自分の眼前にウィンドウが出てきて、現在チャット中と表示された。このテストという文字は周りに見えて、チャット中という文字は僕にしか見えないものだろう。


 照れもあってすぐに消しちゃったけど、やりきったっていう充実感があった。


 これでパーティーを募集するか、あるいは【テイマー】を募集しているチャットに入るか、はたまた自分でソロパーティーを作ってメンバーを募集してみることも考えられる。


 どっちにしろ、いつ来るかもわからないボス戦が待ってるんだ。いつまでもぐずぐずはしてられないし、近いうちに腹を決めないとね……。


「おい、琉生」


「え……」


 背筋が寒くなる。僕の名前を呼ぶ声がすぐ近くから聞こえてきたんだ。


 しかもこの声は、いじめっ子の主犯格、六田啓弐ろくたけいじのものだ。やつだけじゃなく取り巻きも当然召喚されてるはずで、早くも見つかってしまったのか。異世界でもいじめという名の無慈悲な個別指導をされてしまうっていうのか……。

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