第2話 選択


「え……」


 ようやく光が収まってきたと思ったら、僕の周囲の景色はそれまでとは一変していた。


「……ど、どこなんだよ、ここ……」


 床も壁も柱も真っ白な、それでいてだだっ広い空間に、僕は同校の生徒集団(1200人ほど)と一緒に立っていた。それも、図ったかのように円状に整然と並んでいる感じだった。


 奥には上方へと繋がる吹き抜けの螺旋階段もあり、壮大なスケールの塔のようなイメージだ。


 これだけ多くの生徒たちが集まっているにもかかわらず、それが少数に感じるほどのスペースが広がっていた。


 呪文のような幾何学模様が描かれた床、柱に刻まれた世界樹を思わせる浮き彫りレリーフ、どこを見渡しても中世的な雰囲気を漂わせており、現実世界の建築物とは到底思えなかった。


 周囲にいる人たちも呆然と周囲を見渡したり、怪訝そうに何か言い合ってるのがわかる。


 僕自身、スマホを取り出して現在地を確認しようとしたものの、まったく繋がらなかった。もちろん、両親に連絡しようとしても無駄だった。


 夢なんじゃないかっていう思いもあったけど、一向に醒める気配もないのでおそらく違う。


 だとすると、僕たち生徒たちは異世界に召喚されたっていうんだろうか……?


「あ……」


 まもなく周囲が一斉にどよめいた。


 何者かが突如として僕たちの眼前に出現したんだ。まるで、テレポートでもしてきたかのように。


 とても長い杖を抱くように手にした、エメラルドグリーンの髪を後ろで一つ結びにした少女で、ゴシック風のドレスに身を包んでいた。


「私たちの世界へようこそ、皆さん。ここはです」


「「「「「世界の塔……?」」」」」


 僕のものを含め、疑問の声が幾多にも重なり合う。


「はい。世界の塔とは、多層世界の中心にある組織のようなものです。あなた方を召喚したのは、世界の塔の者の代表として、荒廃しきった多層世界を一つ一つ救っていただくためなのです」


「……」


 僕はシンプルに混乱していた。なんとか情報を吞み込もうとするけど、まったく追いつかない。世界の塔やら多層世界やら。


 それはみんなも同じなのか、しばらく無言だったものの、徐々に落ち着いてきたのか状況が変化し始める。


 一体なんなんだ、いくらなんでも身勝手だ等、怒鳴り声も上がり始めていた。


「身勝手なのは重々承知しています。それでも、私たち世界の塔の人間は、多層世界の住人たちを救いたいのです……」


 少女の言葉を鵜呑みにするなら、世界の塔っていうのは多層世界の警察組織のような立ち位置なのだろうか。


「あなた方にはまず、比較的安全なこの世界『フォレスティリア』で鍛えていただきます。、早めに順応してもらうことが重要になります」


「……」


 この子、何気に恐ろしいことを言ってる気が。一定期間ごとにボスと強制的に戦ってもらうって……。


「それは明日かもしれませんし、一週間後かもしれません。適応力を試すという意味でも、事前に教えることはありません。なお、逃げようとしても無駄です。塔の外にもボスを含めたモンスターたちがいますし、ここに引きこもったままでいようとしても、時期が来ればボス部屋へ強制的に移動させますので」


 とても穏やかな、それでいて無慈悲すぎる発言。周りからは悲鳴や怒号、嗚咽の声が次々と上がった。


 ただ僕自身、何故かそういうのはなかった。突然の出来事すぎて気持ちが追いつかないか、あるいは恐怖のあまり色々麻痺してるだけなのかもしれないけど。


「もちろん、皆さんには最初にスキルを選んでいただきます」


「「「「「スキル……?」」」」」


「そうです。スキルと聞いて薄々気が付いておられるかもしれませんが、この多層世界はゲームのような世界でもあります。なので、ゲーム知識が豊富な皆さんの力が必要不可欠だと考えたんです」


 へえ、ゲーム的な世界なのか。なるほど。僕たちを召喚した動機については、少しだけ納得できた気がする。確かにゲームのような世界なら、その分高校生の僕たちが馴染むのも早いはずだ。


「その証拠として、ステータスと心の中で念じてみてください」


 心の中でステータスと念じるだけ? 本当に表示されるのかと思ったら、ちゃんと半透明のウィンドウが目の前に出てきた。


 名前:倉沢琉生

 性別:男

 年齢:16

 スキル:無し

 装備品:無し

 アイテム:無し

 パーティー:無し


 おお、本当にゲーム的だ。制服は着てるしスマホもあるんだけど、異世界のものじゃないと装備品やアイテムとしてはカウントされないのかも。手で触ってみたらウィンドウは消えた。


「これからおよそ1分後に、皆さんの前にスキルを選択する画面が出てきますので、その中から自分に相応しいと思うものを一つだけ選んでください」


「ゴクリッ……」


 物凄く緊張する。何事も最初が肝心っていうからね。当たりスキルを引ければいいけど、もし引けなかったらと思うと……。


 そんな不安が脳裏をよぎる中、いよいよ画面にスキル群が表示された。


【剣士】【魔法使い】【僧侶】【戦士】【盗賊】【テイマー】等がずらりと表示される。


 これがスキルなのか。いわゆるジョブ系スキルってやつなのかな。


 うーん……どれにしよう? というか、一つ特に気になった点があった。


 画面には同じスキル名が幾つか見られたんだ。具体的には、【剣士】というスキルがほかに何個もある感じだ。


 まったく同じ内容のものなのか、あるいは同じに見えるけど実際は違うってことなんだろうか?


 画面の中央付近にあった【剣士】は、やがて暗色になって選べなくなったものの、左下の【剣士】はまだ文字が明るくて選べる状態だった。


 もしかしたらそれらは全部同じもので、ただ選びやすいように配慮してあるだけかもしれない。指で縦横にスクロールできるようにもなってる。


 その点についてはよくわからないが、これなら焦って慌ただしく選ぶ必要もなさそうだ。【勇者】や【賢者】を選ぼうと思ってたけど、稀少なのか数が少なくて、ようやく見つけたと思ったらもう暗色になっていた。みんな考えることは同じか。


「よーし……これに決めた!」


 僕は思い切って【テイマー】というのを選ぶことにした。従魔を操って戦うのであれば、いじめっ子に立ち向かう勇気のない僕でもできそうだったから……。


 って……! スキルを選んだ直後、周囲の様子がので僕は呆気に取られていた。

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